第26話
24年 11/3 1:00:日本国:???
「この度はご協力感謝致します。スティーブン・ケイル中将」
「ご協力ですか。石油の供給元のない我々からすれば獲物を捉える罠にしか見えませんでしたがな」
「それでは、例の多国籍部隊組織にも賛同してくれるという事でよろしいですかね」
「えぇ、そちらとしても自国組織に受け入れるなら自衛隊よりも我々の方が都合がいいでしょう」
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24年 11/3 10:00:ペストレラ大公国:キアフ
「この度はご足労誠に感謝いたします。
本来はわれわれ画出向くのが筋なのでしょうが……我々には長距離を移動できる手段がないものでして」
「日本としては筋よりもどちらが合理的かを今は重視しております。お気になさらずに」
ペストレラ大公国の首都キアフは、まさに古の都を思わせる優美なものであった。
これが仕事ではなかったとした喜んで観光にのめり込む所である。
「貴国の話はここのところよく聞いております。
平和主義を全面に押し出し、国軍は自衛が主目的。技術力では我々を凌駕しているにも関わらず驕る事をしない。
これが本当ならば素晴らしい国家と言えるでしょう」
「よくそこまでご存知ですね。前半に関してはまだ国外では曖昧なところが多いのですが」
「このペストレラという地は常々戦争に巻き込まれてきました。
特に北方のルレラ連合と南方のダルア帝国の二国間の戦争にです。
だからこそ少しでも危険を察知するために、危ない橋を少しでも安全にするために、強大な情報網が昔から受け継がれております」
確かにこの国の立地は最悪と言っても良かった。
緩衝国家として、どちらかに付けばもう一方の報復を受けるような、戦争が起こればどちらかの肉壁になることを強制されるような。
そんな地獄の地を生き抜く術がその情報網であったのだろう。
「少し自国語りが過ぎましたかね。本題に入りましょう」
「そうですね。事前に聞いた話では国交樹立、安全保障体制の確立、そして技術援助を求める、という話でしたか」
「はい、あっております」
「現時点での所感を申し上げますと、相当な見返りがなければ上を納得させることは不可能だと思います。
日本からしてみれば、この地に足を踏み入れることは地獄に片足突っ込むことになります」
緩衝国家に対して下手に肩入れしてはいけないと言うのは、歴史から見ても明らかである。
実際、緩衝国家の火種が戦争に発展した事例は少なくない。
それこそ現在の宇露戦争がその代表例である。
「私の考えでは、まず貴国が自力で防衛が可能になる程度の軍事力の将来的な保有。
貴国の強力な情報網をソースとした情報の共有。
諜報・防諜技術の供与、この3つは最低条件だと思います。
もちろん交渉成立の暁には、そこに行き着くまでの協力は惜しみませんし、それまでの安全保障に関しても本国が可能な限り責任を持ちます」
「やはり相当ハードルが高いですね……うちの国が守れるだけの国軍の保有なんて可能なのかどうか……」
「何も軍隊の強さは人の数だけじゃありません。必ず保有できると断言致します」
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24年 11/3 16:10:日本放送:スタジオ
ここ最近は記者会見が多い。
それに比例して官邸に詰めている記者の仕事も増大するわけだが、そのせいか最近の記者会見は殺気立った者が多い。
[………結論と致しまして、在日米軍を吸収合併し、新規に外国人部隊である諸国連合隊を発足致します。
また、国内防衛産業の現状は芳しくなく、これを改善するため一定の条件を満たした防衛産業企業に巨額の資金援助を決定いたしました]
「VTRは以上となります。本日は、国内の安全保障関連に詳しい鈴木さんにお越しいただいております。
…さて鈴木さん、今回自衛隊の在日米軍吸収、そして防衛産業界への援助が発表されましたが、如何お考えですか?」
「もともと、この一連の騒動は神木内閣にとって絶好の機会だったんですね。
それを証明するように神木内閣は多少の流血をものともせずに次々と改革を成し遂げています。
そんな神木内閣の3本柱のひとつとも言えるのが国家安全保障体制の確立な訳です。
これも一連の騒動によって機会ができたんです、それが在日米軍の補給途絶。
これによって米軍は日本のご機嫌を取らざる負えなくなった、食料はもちろん訓練にだって燃料を使用しますから、これを日本に依存せざる負えなくなった。
これは事実上在日米軍を日本が支配下に置いたも同然です」
「つまり、転移事象が発生してから在日米軍の吸収までは神木内閣も絵に描いていたということですかね?」
「そうでしょう。ここで注目したいのが自衛隊に吸収合併していない点です。
あくまで自衛隊は9条で"日本国の安全保障を脅かす事態になった場合、これを武力的手段にて解決する組織"
そして"同盟・同志国と集団的安全保障体制確立する組織"と定義付けられています。
つまり国防のみだぞ!と縛られている訳です。
でも今回の諸国連合隊の創設でそれに縛られない軍事組織ができたんですよ。
つまり侵略戦争の準備ですよ、準備!」
この放送は物議を醸した。
ここまではっきりと侵略戦争の準備だと言ったせいである。
SNSでは国内の他の話題を全て退けトレンドは一色。
全戦争反対派、侵略戦争のみ反対派、状況次第では止む終えないとする派閥、そして賛成派の四つ巴の大激論が繰り広げられる。
さらに、政府と穏健派野党の対立が激化する事となる。
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24年 11/12 11:02:日本国:羽田国際空港
日本はペストレラ大公国と国交を樹立した。
条件は最低条件とされる3つに、戦時にはペストレラ大公国内の補給基地の利用、基地の建設である。
ガルト三頭連合とも、平和的な交渉に入っている。
実に平和な時間が過ぎていた。
実際はその様に見えていただけであるのだが。
各国と交流を持ち始めて既に1ヶ月。
日本は各国との国境を徐々に開放し始めていた。
日本側からは、未だ安全確認が完全ではないということからビジネス目的等と限定的であるが、海外からであれば比較的容易に入国できる。
ヴァクマーを最初とし、次にエルファスター、グランシェカ。
そうなれば必ず起こることがある。
諜報戦である。
既に日本と対立している国家、ルレラ連合とダルア帝国。
ダルア帝国に至っては既に工作員を派遣してきており、こちらを敵視している。
ルレラ連合もレンドロ協定という枠組みにいる以上必ず対立する。
対立するとなれば諜報員の一人や二人入り込んでもおかしくない。
警視庁は羽田を筆頭とした各地方の主要空港における水際監視を強化していた。
「入国目的は?」
「勉強がてらの観光だ」
「では最後にこちらを通過してください。腕時計など金属製品は外してからお願いします」
男がゲートを潜ると同時に悪意を知らせるアラートが鳴り響く。
「なにかしら金属製品を付けt」
職員が問おうとした時だった。
空港で鳴るはずのない火薬の音が響き渡る。
それも1つではない。
ヴァクマー第二共和国からの便を対応していたカウンターの付近から複数。
本能的に緊急用無線にコールを鳴らしていた。
テロだ。
「クソったれ!」
右足のホルスターからP220を抜こうとする。
だがあまりにも場所が悪すぎた。
後ろにいるのは邦人じゃない。
邦人を誤射するのも
どっから持ち込んだか知らん銃火器をぶっ放している奴に突撃する。
警察というものは無傷で犯人を捕縛する逮捕術を身に着けている。
簡単に言えば何でも有りの勝てば良かろうなのだ術である。
「死にたくなかったら手ぇ挙げr!」
手から拳銃を叩き落とし、背負一閃。
直ぐに横から拳銃弾の援護が飛んでくる。
今度こそ出番である。
銃弾の発射元に鉛球の応酬を喰らわせる。
[警本より羽田。状況を報告せよ]
応答が1分遅い、話にならん。
[羽田より警本!羽田空港入国審査場にてG事案発生!犯人1名拘束1名射殺!]
[
[銃火器を乱射してるやつが複数居てテロじゃないってか!?]
そんな会話がなされている間にも銃撃戦は進行していた。
羽田空港入国審査場警備の警官は3名。
対してテロリストは群衆に紛れた複数。
既に混乱を極めており、入国審査場を突破して内部に侵入している民間人もいる。
これが意味することは、もはや敵はゲリラ戦に出ることもできる。
武装は回転式拳銃様の小火器と単発ライフル。
対してこちらは拳銃ぐらいしかまともな火力と言えない様な装備だ。
この状況で警棒なんざ当てにならない。
[羽田より警本!通常警官隊での制圧は不可能!機動隊でも何でもいい重武装のやつを寄越せ!]
[現在複数名の警官が応援に向かっている。持ちこたえろ]
無線を切る。
既に審査場は地獄絵図と化していた。
銃乱射により死体と重傷者と負傷者が入り乱れ、群衆雪崩も起きている。
テロリストはそれを遮蔽にしている。
死体だけでなく重傷者・負傷者もだ。
下手に撃てばとどめを刺す事になる。
対して向こうは平然を銃弾を送り込んでくる。
「撃つな!確実に殺せる時だけ撃て!」
だが地の利はこちらにある。
補給は万全、予備部隊もいる。
向こうは孤立無援。
時間を掛ければどうにでもなる。
「………て、たすけて」
少女の声だった。
肉壁として使われている重症の。
「クソったれ!」
その時には既に走り出していた。
幸い、高さは無い。
至近距離で、立って走っている状況なら上から撃ち下ろせる。
「射撃トップ舐めんじゃねえよ!」
テロリストを1人2人排除していく。
1人2発のダブルタップ。
3人殺して次を殺そうとした時だった。
1発を射撃。
スライドは後退したままだった。
銃口がこちらを向く。
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24年 11/12 11:35:日本国:羽田国際空港
国内線到着ロビーは地獄の様相を呈していた。
大量の重傷者・負傷者。
既に辺りには血と、2階から漂ってくる硝煙の匂いが充満している。
未だ2階から銃声が聞こえてくるし、重傷者は次々と運ばれてくる。
「東方大学、蒲田治療センター、川崎共同、銅管病院いずれも受け入れ不可です!」
「検索範囲広げろ!近隣じゃこれ以上は無理だ!」
「千葉北部病院のドクターヘリ到着しました!」
「君津中部も到着!」
既に首都圏の病院は緊急体制であり、対岸千葉県のドクターヘリも出動している。
それでも既に羽田空港周辺の病院はパンク状態であり、ドクターヘリが出動しても搬送が間に合わないのは必然であった。
「致命傷で緊急搬送が必要な患者はヘリ!それ以外は来た救急車に乗せろ!
受け入れ可能な病院見つかり次第、警察車両でも搬送しろ!」
本部も現場も怒号が飛び交っている。
だがそれを切り裂く、明らかに近い銃声だけははっきりと聞こえていた。
グリーンタグの患者のエリアから悲鳴が聞こえる。
本部で指揮を取っていた警官が走り出す。
「武器を降ろせ!」
直ぐに銃声が響く。
本部要員の手が止まっていた。
「何やってる!手ぇ動かせ!人が死ぬぞ!」
「ッハッハイ!」
「彩生会中央、赤十字医療センター、世田谷中央受け入れ可能です!」
「受け入れ限度まで搬送しろ!」
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24年 11/12 16:00
夕刊トップは羽田空港襲撃事件。
判明しているだけで死者は空港職員7名、来日観光客が37名、一般市民が21名。
警視庁警備部警備一課
東京国際空港テロ対処部隊
柿木徹 殉職
重傷者 総計217名、軽傷者多数。
日本における最大級のテロ事件である地下鉄サリン事件を優に超える死者数を出す事となる。
後に地下鉄サリン事件、八・六国会襲撃事件、羽田空港襲撃事件の三大テロ事件と言われることとなる。
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