【5章完結】魔法少女のダンジョン攻略!! ~手にしたジョブは魔法少女!?女の子になってしまった俺は仲間と一緒にダンジョンを攻略します~

猫印

第1話 目覚めたら女の子に!?

 窓から差し込む眩しい光に、俺はぼんやりとまぶたを開けた。

 エアコンが効いた、いつもなら二度寝したくなるような朝の光──だけど、今日はそうはいかない。

 

 なにせ、探索者になって初めて迎える大切な日。

 ダンジョン探索の準備をしなきゃいけない……はずなんだが。


 どうにも体の感覚がおかしい。


 背中に感じるシーツの肌ざわりはいつもと変わらないはずなのに、どうしてかやけに違和感を覚える。


 軽いような、重いような、言葉にしづらい重心のズレ。


 かすかな息苦しささえ感じて、首を動かそうとして──さらさらとした何かが頬をかすめる。


「……髪?」


 こんなに伸ばした覚えはない。

 驚きと疑問が頭を駆け巡り、心臓がドキリと跳ねた。


 俺はゆっくりと目をこすりながら、現実世界へ復帰するリハビリをしつつ、手元に視線を落とすと……思わず息を飲んだ。


 手が、まるで子どものように小さくなっている。

 何度瞬きをしても、その事実は変わらない。


「……え?」


 自分の声も、高い。

 カラオケで裏声を出した時の音域がデフォルトになったみたいな、この高音ボイス。


 体がズレているせいか布団から飛び起きようとするのも一苦労。

 慌ててベッド脇に置いてあるスマホを手に取り、インカメラを起動する。

 いつもなら寝癖チェック程度にしか使わないそれが、今日はどうにも嫌な予感しかない。


 画面に映ったのは、銀色の長い髪の見覚えのない少女の姿。

 けれど、かすかに「俺」に似ているような気もする。

 瞳は深い碧色で、鼻筋はすっと通り、唇はほんのり淡いピンク……どう考えても今までの俺の顔じゃない。

 いや、どう見ても女の子だよな、これ。


「なんだこれーーー!!!」


 昨日まではたしかに男子高校生だった。


 身長だってそれなりにあったし、声変わりも終わっていたのに。


 どうして?どうしてこんな……女の子の姿になってるんだよ!


 布団を蹴とばして部屋を見回すけど、壁に貼られたダンジョン関連の地図や、机に散らばった教科書は変わらずそこにある。


 変わったのは俺……いや、この身体だけ。

 頭がぐるぐるしすぎて、背中に冷たい汗が流れる。


「お兄ちゃん、どうしたの?」


 妹の聖の声が廊下から聞こえてきた。


 彼女も今日からダンジョン探索を始めるための準備をしていたはず。

 こんな姿を見られたら、色々と終わる。


 だって俺はーー完全に女の子の体で、説明のしようがない。


「ま、待って! 開けないで!」


 慌てて扉を押さえようと立ち上がる……が、今の俺の体は華奢な少女の体で、パジャマのズボンもぶかぶか。


 足元に絡みつく布を踏んづけ、あっさり転倒。


 ドスン! 


 大きな音を立てて床に顔面ダイブした。


「イタタ……もう勘弁してくれ」


 鼻の奥にツンとした痛みが広がって、泣きそうになる。


 こんな姿で妹と会ったらどうなる? 「ねぇ、その小さい子は誰?」そもそも、うまく説明できるのか? 思考がぐちゃぐちゃに絡まる中、扉の向こうから聖の声が重なる。


「ちょ、ちょっと、どうしたの? 大丈夫?」


「お、おう、大丈夫……」


 低い声を出そうとするけど、どうしても高い声しか出ないし、床にうつ伏せのまま必死に細い腕で扉を抑え込むしかない。

 なんとか、俺の必死さを感じ取ってくれたのか、聖は戸惑いながらも、俺の返事を聞いて足音を遠ざかっていった。


「ふう……」


 なんとかドアを死守したものの、事態が好転したわけじゃない。


 転がっているスマホを拾い、鏡代わりにもう一度映像を確認する。

 そこには、やはり銀髪の少女がここに……。黒髪の男子高校生の面影なんてゼロ。


 両親と音信不通になって数か月、生活費が尽きかけて、仕方なくダンジョン攻略で稼ごうと決めていた。


 世界にダンジョンが突如現れて数十年。

 現れた当初はあらゆるところで、モンスターによる被害が出たとされている。


 それを退けたのは後の探索者だ。


 そして、今では高校生から小遣い稼ぎができるくらいに、探索者という職業は広く一般化した。


 そして、俺は昨日、探索者協会でライセンスを取り、【ジョブ:魔法少女】とかいう怪しげな肩書きが判明した。


 まさか寝てる間にこうなるとか、聞いてないんですけど……。


 頬を軽くつねって見るが……うん、ちゃんと痛い。床にぶつけた顔も痛い。つまり夢じゃないってことだ。


「じゃあ、寝てる間に何が起こったんだよ……」


 自問自答しながら、小さく膨らんだ胸元や長い髪をこねくり回す。


 どこからどう見ても男子要素は完全に消し飛んでいる。

 声だって可愛すぎか。……頭痛がしてきた。


 でも、ダンジョンに行く約束の日でもあるんだよな……。

 え、この姿で行けるのか? いや、正直めちゃくちゃ不安だけど、やるしかないだろう。


「お兄ちゃん、朝ご飯どうするの?」


 廊下から再び聖の声が聞こえ、俺は心臓が飛び上がる。


 とりあえず今はドアを開けないでいてくれたので、見られていないが、正直見られたくもない。

 でも、妹にばれるのは必至で、隠し通すには限度がある。


 とりあえず深呼吸だ、深呼吸。

 胸に手を――あっ、小さいけど柔らかいものが……じゃなくて! 落ち着けって、落ち着け!


「ちょ、ちょっとだけ待ってて……」


 顔面を強打して転んだままの状態でいつまでもいられない。


 床についたままの小さな手をぎゅっと握り、よろよろと立ち上がった。

 こんな序盤から絶望シーン満載だけど、泣き言を言っているヒマはない。【ジョブ:魔法少女】――嫌な予感はしてたけど、まさか身体まで変化するとは。


「もう、こうなったら腹くくるしかないか……」


 妹に説明して理解してもらうしかない。

 男は度胸――いや、今は女だけど……そこはまあ、気持ちの問題だ!


 息を整え、昨日取得した探索者ライセンスカードを片手に、覚悟を決めて扉のノブを握る。もう逃げ道はない。


「いざ、リビングへ......! っていうか本当に大丈夫かな……」


 ぶかぶかのズボンを片手で押さえながら、俺は不安で心臓をバクバクいわせつつ扉を開けた。


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