第3章
第1話 招かれざる客
さて、どうしようか。
『黒田』という偽名を使い、この輸送車の助手に採用されるまでには、時間も金もかけてしまった。岐阜まで来て、最終目的地である名古屋まであと少し。
もう時間がない。
トラック後方に乗っている護衛メンバー5人とは、京都を出る前に面通しをした。なかなかの面構えをしており、自分一人では制圧が難しそうだ。
予定通り、『あの子』に頼むことになりそうだ。
あの子に頼めば、喜んで手伝ってくれるだろう。実の娘のように思っているあの子に、こんな仕事に加担させたくはないが、今回は他に頼れる相手がいなかった。
まあ、比較的安全なケースだ。
彼女の実力なら、あの程度の護衛メンバーなら怪我もさせずに終わらせるだろう。
「ルート通り、問題なく進行中です。」
運転手が、急にスマートフォンで誰かと話し始めた。
「ちょっと待て、なんだ……?さっきの連絡……ルートが違う……!おい、どういうことだ!?」
思わず声をあげた。だが、その疑問を投げかける暇もなく、車体に衝撃が走る。予想していなかった出来事が始まった。
「くっ!」
後方からの追突に、車が急停車する。猛烈な衝撃で、体が座席に押し付けられた。すぐに次の瞬間、前方の車も加わり、完全に挟み込まれた。動揺している暇はない。瞬時に頭を整理しようとするが、答えはすぐには出なかった。
確実に言えることは、これは自分が予想していた展開とは全く異なっている、ということだ。
ヒールの冷たい音が車道に響き、女がゆっくりと運転席に歩み寄った。
「ふふ、運転手(ボク)もごくろうさま。」
女が言うと、運転手の顔がどんどん青ざめていく。手下たちが運転手を拘束し、こちらにも迫ってきた。
「動くなよ。」
冷徹な声が背後から聞こえ、すぐに腕を掴まれた。思わず反応しそうになったが、今は『黒田』として大人しく拘束されることにした。
応戦に出た護衛2名の奮戦は、称賛してよい働きだった。
しかし、相手が悪かった。
あのレベルの適合者に勝てるものは、特管ですらそうはいまい――。
しばらく何も出来ず、彼らの動きに注目しながら、慎重に状況を見守った。
「そういえば……この隊長の適合石はタイガーアイだったわね。」
「あ~、確かそうだったな。」
女はケースの中から数あるタイガーアイを取り出し、違法デバイスにセットした。そして、気を失っている瀬川の手にそのデバイスを握らせ、スライド部分を押し込む。
起動音声が鳴り、デバイスがかすかに光を放つ。
女は軽く頷き、デバイスをその場に放り投げた。もう、襲撃者達は希少石を運び出すつもりだ。
さてどうするか―――。
通常であれば様子を見て逃げの一手だが、あの希少石があることが本当であれば、こんなチャンスはそうそう無い。
(爆発させるか……?)
出発前、輸送車に爆発装置を仕掛けていた。『博士』に作ってもらったものだ。
本来、これは自分が襲撃するために仕掛けたものだが、予想外の襲撃を受け、計画を変更せざるを得なかった。
今は逃げるため、そして仲間にトラブルを知らせるためにこの爆発を利用するのが良さそうだ。
あわよくば、希少石も奪えるかもしれない―――。
そう判断し、爆弾のスイッチを押した。
数秒後――轟音とともに輸送車が爆発した。火の粉と破片が辺り一帯に飛び散る。
と同時に、拘束を解き、視界に入る周辺の手下には気を失ってもらった。
手加減しやすい相手で良かった。運転手も、助手が逃げたと騒がれると面倒くさいので、同じ運命を辿ってもらった。
爆発で気がそれているうちに、爆風で飛んでいったケースを追わなければ。
ちらりと襲撃者たちを見ると、手元にケースが1個ある。
(……あっちは取れないな。)
しばらく考えてから、もう一度飛んでいった2つのケースに視線を落とす。
「確率は、二分の一か。」
まあ、それくらい当てられなきゃな―――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます