第5話 戦利品

 手力が輸送車のコンテナ扉を力任せに引き開けた。


「よっ、と。」


 彼が軽々と扉を開ききると、その中の光景に無動寺 鈴は眉をひそめた。


「……あなた、本当に加減を知らないのね。」


 コンテナの中は、ひっくり返されたせいで完全に上下が逆になっていた。そこには3つのケースが見えるが、すべてが「天井」部分に張り付いている状態だった。


「仕方ないだろ。俺はこういう細かい作業向きじゃないんでな。」


 手力が悪びれず言い放つ。


 無動寺はため息をつきながら、天井に押し付けられているケースを見上げた。


「手が届かないわ。あなた、降ろしてちょうだい。」


「あいよ。」


 手力が大きな腕を伸ばし、1つ目のケースを掴むと慎重に地面へ下ろした。


「よし、次。」


 彼は2つ目、3つ目と同じように下ろし、3つのケースを地面に並べた。


「これでいいだろ?」


 手力が満足げに言いながら、手を払う。


「まったく…。」


 無動寺は皮肉っぽく言いながら、1つ目のケースに手を伸ばした。

 ケースにはロックがかかっており、解除には少し手間取る。彼女は工具を使って慎重にロックを外した。


 ロックが外れる音と共に、ケースの蓋が開く。

 中には、ベルベット生地のクッションが敷かれ、その上に数百個の適合石が規則正しく並べられていた。


「ふうん、アメジスト、シトリン、タイガーアイ……まあ、よく見かける適合石(いし)ね。」


 彼女は石の配置を軽く確認した後、ケースを閉じた。

 これらはもちろん適合石として使えるが、表でも裏でも市場で比較的簡単に入手可能な種類であり、希少価値は低い。ただし利用者も多いため、それなりに価値はある。


 続いて2つ目のケースのロックを外し、中を確認する。


「正規品ね。まあ……無いよりは……。」


 こちらにはCAデバイスが収納されていた。どれも正規品でロックがかかっているため、無動寺らのようなアウトローはこのままでは使用できない。


 わざわざロックを外すより、元々制限のない違法CAデバイスを購入したほうが、安くつく時が多い。


 彼女は残念そうに蓋を閉じ、次のケースへと手を伸ばした。


 そして最後に3つ目のケース。

 慎重にロックを外し、中を確かめると、黒いベルベット生地が敷かれた中央に3つの石が埋め込まれているのが目に入った。


「……これは特別そうね。」


 それぞれの石は独特な色合いと輝きを放っているが、見たことのないものばかりだった。


「何の適合石(いし)かしら…。わからないけど、高値で売れそうね。」


 無動寺は目を潤ませ、蓋を閉じた。


 護衛から押収したCAデバイスや適合石を持ってきた手下たちが報告にきた。


 エメラルド、タイガーアイ、アメジスト、シトリン――。


「エメラルドはいいわね。一応、他のも全部持ち帰るわよ。」


「そりゃ構わんが、ケースのも含めてちゃんと使える石なんだろうな?」


 手力がちらりとケースを見て、無動寺にも視線を投げる。


 無動寺は考え込むように視線を押収品へ向けた。その中に、隊長 瀬川のタイガーアイがあるのを見つける。


「そういえば…、この隊長の適合石はタイガーアイだったわね。」


「あ〜、確かそうだったような…。」


 無動寺は、ケースの中に数あるタイガーアイを取り出し、手持ちの違法CAデバイスにセットした。


 それを、気を失っている瀬川の手にその握らせると、起動させる。


――『ЯОСК ОИ!』


 起動音声が鳴り、デバイスがかすかに光を放つ。


 無動寺は軽く頷き、これで動作確認は十分とばかりにデバイスをその場に放り投げた。


 そのとき、車両から赤いランプの光が点滅し始めた。


「なんだ?」


 手力が険しい顔で尋ねる。


 ランプの光は徐々に明滅を早め、鋭い電子音が響く。


「まずい、これは―――!」


 次の瞬間――轟音とともに輸送車が爆発した。

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