第8話


「…………はぁ」


「これからクリスと呼んでください、レーナ」


「ずるいわ!わたくしのことはエリーと呼んでくださいね!レーナお姉様」


「わかった……わかったから」



どうやらクリスフォードはレーナが知らないところで色々と手を回してくれていたようだ。

そして薄々気づいてはいたが、二人からのレーナへの愛が重たすぎる。


そして三人の不思議な旅が始まった。

ターグ町に着くまでには夜までかかると思っていたが、途中で襲ってきた盗賊達や人攫いをクリスフォードが一瞬で撃退してしまう。



「バカですね……レーナを傷つけようとするなんて」



そしてクリスフォードもクリスフォードでどこに行っても女性達が群がって、差し入れを大量にもらう。

老若男女、すべての生き物を虜にする色香はレーナやエイブリーにはわからないが凄まじい威力を発揮している。


そして歩いていてエイブリーが足が痛いと座り込んでいると、通りすがりの荷馬車を引いていた男性が、エイブリーに「乗っていきな」と声をかけた。



「えっ!?いいんですか?嬉しい~」



この一言で男性はもうエイブリーの虜になり、こうなったら彼女の言いなりである。

情報を漏らさないように頼み、店に入れば男性店員からサービスの嵐。

酒に葉巻に日持ちする食べ物など、カバンに入りきらずにクリスフォードが背負っている袋はパンパンになっていく。


(二人共、さすがだわ……)


一人では聖女の力があったとしてもここまで来るのは苦労するだろうと思っていたが、二人のおかげで随分とスムーズに

お金を使わなくとも移動手段と食べ物や服、薬などをゲットした三人は着々とターグ町へと到着した。


ターグ町は煌びやかな城下町とは何もかも違う。

教会は今にも崩れそうな程にボロボロで、庭では元気に子供達が走り回っていた。

大きな石に腰掛けて煙草を吸っている無精髭を生やしている男性がいた。

黒い神父服に身を包んで十字架のネックレスをつけた男性はこちらに気づくと、特に驚くこともなく片手を上げた。



「おー、レーナ。ついに追い出されたか?」


「……違うわよ。私が自分から出て行ったのよ」


「ふーん、そうか。まぁ、そうだろうな。これまたすごい奴らを引き連れてきたなぁ……金と銀が揃っていて眩しいぜ」



短くなった煙草を石に押し付けた男性は神父服についた土を払いながら立ち上がり、こちらにやってくらやら。



「ヘイデンさん、これは約束の酒と葉巻ね」


「おーっ!ゆっくりしていってくれ」



手を擦りながらヘイデンは葉巻と酒を受けとると、いそいそと椅子に座って火をつける。

すると子供達がレーナの姿を見てか嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。



「みんなで仲良くわけるのよ?」


「「「はーい」」」

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