3馬鹿ゴルファーは今日も大叩き

素通り寺(ストーリーテラー)

第1話 またこの3馬鹿のキャディですか……泣きたい

 ――カッチイィィ-ン――


 八百万やおよろずゴルフクラブの3番ホールのティーグラウンドにて、強烈な打撃音と共に打ち出された白球は……


 美しい右の曲線スライスを描き、OBゾーンの森へと吸い込まれていった。


「イェーイ3連続!」

「今日こそ全ホール、プレイング4来るか!?」


「じゃかぁしい!!」

 仲間二人のヤジを受けて怒り狂うのは、たった今OBを出した張本人、大尾 須来素おおび すらいすその人だ。


「だからいい加減刻みましょうって言ったのに……」

 涙目でそう抗議する私、猛氏 蘭もうし らん。一応ここの従業員で、プロテスト最終審査まで行った経歴を買われて、お客から希望があればキャディも務めている……んだけど。


 正直もう嫌、この人達のキャディするのは。



 この中年3人組、だいたい月一ペースでここに来て勝負コンペしてるんだけど、はっきり言って全員が超が付くドヘタで、とてもコースを回るレベルになんか達していない。

 それでいて賭けてニギっているもんだから、このように相手のミスを期待して罵詈雑言を飛ばし合い、失敗したら大喜びする。まさにゴルフの格言通りの心の殴り合いを展開してるという訳だ。紳士のスポーツどこいった?


 結果ありえないほど大叩きして後ろのお客さんを待たせまくるし、大声で罵り合ってるから他のお客も迷惑かと思いきや、意外に素人ゴルファーにとっては「あいつらよりはマシ」などと案外受け入れられて苦情も来ないのが現状である。

 出禁にしたいなぁ、マジで。


 他の二人が無難にティーショットを終える中、OBした大尾さんだけはグリーン近くの特設ティから4打目のショットとなる(※これをプレイング4と言う)。ここからならPW(ピッチングウェッジ)で届くからさすがにOBは無いだろうけど……これで3ホール連続ですよこの人。


 ゴルフのティーショット、つまり1打目は大抵が『ドライバー』という一番長くて飛距離が出るクラブで打つ事になる。

 ただまぁこのクラブ、とにかくまともに真っ直ぐ飛ばす事が、非常に、とっても、滅茶苦茶、鬼のように、とにかく超難しいのだ。

 ボールを打つポイントも角度もそのわずかなズレで、いとも簡単に明後日の方向にすっ飛んで行ってしまう、むしろ空振りの方が微笑ましく思えるくらいだ。


 初心者に特に多いのが、大きく右に曲げてしまう『スライス』というミスショット。ゴルフを始めた人の多くがわずらうこのスライス病は、おそらく大勢の人をゴルフの世界からサヨウナラさせた恐るべき病だ。

 まぁ少し考えて見れば、人間がボールの左側に立って打つんだから、それでカットされたボールに右回転がつくのは当たり前の話なのだ。打った瞬間にヘッドは体側、つまり左側に引っ張られるんだから、めでたくボールは右へと弧を描いて消えて行くわけである。


 ちなみに大尾さんの4打目(打つのは2打目だけど)は、ちゃんとグリーン横のいい位置に付けていた。ドライバー捨てて全部アイアン&ウェッジで打ってたらスコア爆伸びすると思うんだけど……

「だまれキャディ! ドライバーこそがゴルフの醍醐味なんじゃあぁぁぁ!!」

 というのが彼の主張だった……ならたまにでいいからまともに飛ばしてください。


 後の二人も2打目でグリーン近くに付け、一番遠かった人が第3打を打つ――


  ――カッキーン――


 勢いよく超低空トップで撃ち出されたその球を見て、他の二人は大喜びである。唯一撃った本人だけがその場でうずくまり、頭を抱えて嘆いている。

 果たしてボールは見事にグリーンを駆け登り、勢いそのままにピンを華麗にスルーして、奥のバンカーまで一直線に転落していった……。


 今度はお前か、徳富 猪魯とくとみ ししろ。彼ら曰く『トップ&チョロ』。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る