天才数学者の、魔物を倒す「綺麗な」方程式
むぅ
第1話 脱出方法
「神の子」「百年に一度の逸材」その他諸々、私はいつもその事を言われていた。その才能は小さい頃から開花していて、一般的に言う難問というものをいとも簡単に解いてしまうからだ。だが、その他のことはさっぱりだったので、論文を書くときなどはすごく苦労をしていた。
大学に入り、数学の研究をして、何気なく解いた問題が未解決問題であった。大学程度の問題だったら中学三年生の頃に解けていたから、おかしいなと思ったらそういうことだった。
そこから私は更に持て囃された。だが、当時十九であった私は大人の視線を酷く嫌った。元々、陰気な性格だったこともあったが、何より、大人のドス黒い闇を見るのが嫌だった。私を使えば…という思考に染まっているのが良く分かるからだ。
そこから私は人間不信になった。もとからそのような傾向があったが。
使い物にならない補助はすべて切り捨てた。一番長く持ったもので半年だった。そして、反感を一番買ったのは十七人目ぐらいの奴だった。
「こんにちは。本日から補助を努めさせていただきます。谷繁 信玄と申します。何卒よろしく願う」
フンと踏ん反り返り、肥えた腹を主張する。あぁ…一番嫌いなタイプなやつだ…自分は優秀だと思いこんでいるだけのゴミ。私の近くにはこんなのしか居ないな。
「チェンジ」
「ハハハ…え?」
「チェンジ。帰っていいよ。ここまで来てくれてありがとね。」
そう言って、強引に部屋から押し出す。この一連の流れを奴は恨んだのだろう。たった数カ月後、私は後ろからナイフで滅多刺しにされた。尋常じゃない痛みを伴ったが、人はいずれ死ぬ生き物だから。という理由で恐怖は無かった。運良く、ナイフの最後の一撃が心臓に入り、苦しみながら死ぬということは無くなった。
そして、私は人を物として捉えていたから、てっきり地獄に落とされるものだと思ったが、眼の前に居る神々しい後光を受けている女はそれを許してくれないらしい。
「目が覚めましたね。勇者たちよ。貴方達は能力の適正…器を持っていた者です」
周りを見渡すと、百人ほどが狭い空間に所狭しと並んでいる。だが、横になるスペースぐらいはあったようで、まだ眠っている人がいる。まぁ…私が最初に起きたのだが。
「では…貴方達に『能力』を差し上げます。そして、脱出方法も教えます。」
どうせ。魔王を倒せとかなんとか言うんだろう。そのような予想はできていた。そして、その予想は、半分合っていて、半分間違っていた。
「今から転送する世界に蔓延る『魔』を生み出す魔王を倒すか」
接続部を強く言う。そして、真剣な眼差しをこちらに向け、二つ目を話す。
「自分以外の全員を殺すことです。では、楽しい異世界ライフを」
眼の前が光り、何処か分からない地上に舞い降りる。
刹那、眼の前が炎に染まった。
天才数学者の、魔物を倒す「綺麗な」方程式 むぅ @mulu0809
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