コメント職人の一日
@kotetu7010
コメント職人の一日
コメント職人の一日
動画配信の裏側
こんにちは,私は無名のコメント職人です。
コメント職人の説明の前に、皆さんは、動画サイトの中で視聴者のコメントが画面上に右から左へ流れるシーンを見たことはないでしょうか?
コメント職人というのは、あのコメントを流すことに心血を注いでいる人たちです。
私の主な活動場所は,スマイル動画という動画サイトです。
コメントが流れる動画サイトの先駆け的な存在で、今もなおたくさんのコメントが流れる
人気動画サイトです。
今日は私のコメント職人の一日をお伝えします。
職人の朝は早い。
目覚めと同時に始まります。
朝の身支度を簡単に済ませ、
まずは、昨日見逃した動画を視聴します。
同業者はどんなコメントをどんなタイミングで行っているか、スピードや間の取り方はどうかなど、じっくり研究します。
この仕事をずいぶん長くしていますが、鍛錬は欠かせません。
私よりも上手な職人は存在していて、お互いに切磋琢磨して完璧なコメントを日々追及しています。
そうこうしているうちに、仕事の時間になりました。
本日の現場へ向かいます。
今日は18時から有名配信者の生放送が予定されています
自宅を出て、現場へ向かいます。
現場に到着すると、既にたくさんの職人たちが集まっています。
特に今日は、多くのコメントが予想されるので,100人程度の大人数が集まっています。
「集合!!!」
キンッッと耳に刺さるような金切り音がしたあとに,現場監督の号令がかかる。
職人たちは、準備作業の手を止めて,中央に集まる。
現場監督から作業中の注意事項についての話が始まる。
今日の会場となるこの現場には、
映画館の5倍ほどはあろうかという巨大スクリーンがあり,上から8段区切りでピンとはった細いワイヤーが右から左へそれぞれの段に張られている。
スクリーン右側には,ジェットコースターのようなレールが格段に設置されている。
スイッチを押すと一定のスピードでワイヤーが右から左へ動かすことができる。
そのさらに右奥には1mほどの大きさ,で厚さ5センチ程のアルファベット,ひらがな,カタカナ,漢字が大量に準備されている。
ツルリとした白い材質で見た目は大きいが発砲スチロールのように軽い材質だ。
文字以外の余白は透明なアクリル樹脂のようなものに包まれている。
視聴者が入力した文字を素早く
この文字とワイヤーを専用のフックに引っ掛ける。
コメントの位置と送り出すタイミングを見極めて、文字を送り出す。
これがコメント職人の仕事である。
えっ?
ネット上で自動的に流れている?
人の手でコメントが流れているなんて思わなかった?
確かに、最近は自動化が進んでいて、我々職人の仕事は少なくなりつつある。
だがしかし、君たちはコメントを打っても、どこに文字が流れるかは選べないだろ?
コメントの位置は我々職人が長年の経験で、どの場所へ、どこなら画面上で映えつつ邪魔にならないベストな場所を選んでいるのだ。
自動化されたものだと、そのあたりの塩梅が上手く調整できず、文字が重なって見えにくくなってしまうシーンなんかがよくあるだろう。
ガラス職人のような繊細さと、花火職人のようなタイミングの見極めが求められる
熟練の技が必要なのさ。
我々はこの仕事に誇りをもっている。
さあ、今日の現場がはじまる。
今日の配置は,上から2段目。
Bブラボーチームだ。
それぞれの配置は,
Aアルファ
Bブラボー
Cチャーリー
Dデルタ
Eエコー
Fフォックス
Gゴルフ
<画面のイメージ図>
1列目 A www
2列目 B うぽつ
3列目 C
4列目 D こんにちは
5列目 E
6列目 F ああああ
7列目 G www
配信が始まった。
早速,文字の準備に取り掛かる。
他の職人と協力して「w」の文字を3つ並べる。
文字が揃ったことを合図して,ワイヤーが動き出す。
「www」の文字が流れる。
他の列も同様にあわたただしく動き始める。
「1コメ」(1番最初のコメント)
「www」
「こんばんわ」
「うぽつ」(動画アップロードお疲れ様です)
配信が始まると、様々なコメントが流れ始める。
そして、配信が進むにつれて視聴者も増えそれに伴いコメントも増える。
「2列目稼働!!」
監督の号令で、2列のワイヤーも稼働しはじめた。
画面上では,文字が少し重なるようにみえているはずだ。
これにより,コメント量で配信の盛り上がりを可視化される
配信者がコメントを拾って、さらに盛り上げる。
流石は人気配信者だ
鋭いツッコミで笑いを誘う。
そうなると,こちらでは「w」の供給に大忙しだ。
全身汗だくになりながらも必死に体を動かす。
「w」の連投は続く。
画面の殆どが文字で埋め尽くされる。
職人たちの必死の動きや息づかいが、他の段から伝わる
各々の職人たちが、最高のエンタメを提供するために蠢く
その光景は。一つの大きな生き物のようだ。
無我夢中で動き続けていると,
「配信終了まであと5分!」と監督からの声が聞こえた。
あともう少しで終わる。
少しずつコメント量も落ち着き始めた。
「おつ」
「乙」(お疲れ様)と
終わりを告げるコメントが流れていく。
「今日も無事におわった!」と一息ついた瞬間,
「・・・忘れ」の文字が通り過ぎる
「配信の切り忘れだ!」
「コメントが来るぞ!」
配信者が配信を切るのを忘れたまま、小声でブツブツとつぶやいている。
ゴソゴソと何かを物色する物音をマイクが拾う。
まだこちらに築く様子は感じられない。それどころか、鼻歌のようなものまで聞こえ始めた。
後方の職人たちが慌ただしく動き始めた。
視聴者からの大量のコメントが届き始めたのだろう。
疲労困憊で疲れ果てた体に鞭を打ち、コメントを流していく。
「やばい」
「気付いてーーー」
「www」
視聴者の様々なコメントを流していく。腕がちぎれそうだ。
もう間に合わないと思った瞬間、ラインが停止した。
配信者が気付いて、配信を停めたようだ。
・・・助かった。
その場にへたり込む。心臓の鼓動が徐々にペースダウンしながら、汗がどっと流れ出す。
息を整えながら、現場監督からの無機質な声が聞こえる。
こうして今日もコメント職人の仕事が終わった。
コメント職人の一日、いかがだっただろうか。
当たり前のような日常の中には、実は手作業の仕事が溶け込んでいる。
機械のような正確さで、素人に気付かせない。これぞ職人技だ。
皆さんの身の回りには、他にも職人技がいくつも隠れているのかもしれない。
コメント職人の一日 @kotetu7010
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