刻む音は変わらずに
鈴ノ木 鈴ノ子
一両目
「今日のクリスマスにベストな歌から一転、年齢高めの方からのリクエスト、鉄道唱歌!、唱歌ってどうなの?唱歌って、でも、懐かしくて良いよねぇ!、さ、私からのクリスマスプレゼントいってみましょう!……どうぞ!」
【汽笛一声新橋を、はや我が汽車は離れたり……】
赤信号で止まった車内でのことだ。目的もなく沈黙を拒絶するために流していただけのラジオからラジオジョッキーの戸惑った声が運転に集中しているだけの意識をかき乱した。鉄道唱歌とはどんな歌だったかと耳を傾けると流れてきた歌に納得した。
確かにクリスマスにかける歌ではないなと思い少しだけ心の中で苦笑する。
ふと信号機脇にある周辺施設の案内看板が目に入った。
[鉄道館1Km↙︎]
そういえばこの辺りにはそんな施設があったなと特段なにも言わずに通り過ぎるつもりだった。特段、電車が大好きと言うわけでもない、だからもちろん鉄ちゃんでもない。電車よりは車で移動することの多い仕事に勤めていて、電車なんてもう、何年も乗っていなかった。
仕事の相棒は使用者任せの営業車、ホワイトカラーもブルーカラーも御用達の真っ白なプロボックス、時代に配慮して社名を側面へと記すことがなくなったうえ、ある程度の自由も許容されている一人だけの素敵な空間。もちろん、それなりの役職も担っている、だから喧しく言う上司もおらず、運転中はひとときの安らぎ得る時間だった。
いつもなら。
そう、いつもなら。
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