亡命者・ヤマモト

柩屋清

亡命者・ヤマモト

「地球軍の空爆は軍事施設の無い市街地まで広がり・・」


ジャーナリストのスミスは雑誌社・負担の費用で飛んでいる小さな宇宙船の窓より見える光景を冷静に録音し始めた。

地球軍の勝利はほぼ間違い無く、この空爆は最早、勝戦国のイニシアチブの悪用としか取る事が出来ない。

亡命者・ヤマモトは元・衛星国民で、この宇宙船で、ようやく帰国の途に就いていたーー

彼達、亡命者は船内にて八名。

医師、レスキュー隊員、作家、音楽家など多才な顔ぶれだ。

オレンジ色に燃え上がる街並は、もう、ヤマモト達の住んでいた頃の面影さえない。


-----


”指名手配”


ヤマモトの顔写真を載せたA4サイズのプリントは衛星内の民家の壁や電柱に貼り巡らされていた。手配されるほどの容疑は、国家に対する反逆・すなわち思想犯なのである。教師、哲学者、宗教家まで居た・そのグループは、衛星国・現内閣の行いに批判的だった為、警察より連行される寸前にあった。そんな折、取材中のスミスに助けられ一担は亡命に成功し、今日に至る。

この四年戦争の始まりは衛星軍による地球向けの軍事衛星への総攻撃からであった・・

この打撃を受け地球ではテレビ、携帯電話が使えず、この悲惨なまでの衛星国の街並の焼けただれた状況は映像としては届けられず、写真も持ち帰りに制限があった。

だからこそ、スミスは録音し続けているーー


「嫌な予感がする」


彼は独り言を吐き、地球軍のターミナルである空母への帰還を操従士に促していた。


-----


”ついに投下”


翌々日の新聞の見出しは地球軍の衛星・第三三地区への原爆使用を知らせるショッキングなモノとなった。大気圏外では史上初となり、開戦当初、使用はあり得ないーーと報道されていた。その背景には未だ敗戦を認めない・衛星軍に対する苛立ちが要因の源と云われている。人類が衛星に移住した人類に投下を決定し得た。ボタンを押した軍人は投下時、貴様はサルなのだーーと叫んでいたらしい。

一方、その日の昼頃、地球軍の会見では、大量殺戮さつりく兵器が未だ発見されていない事を重点的に、加えて敗戦を認めない態度を強く非難する発表をした。

また、短期間に衛星内の人口が増えている・・と指摘し、その要因が移民によるモノか、捕虜によるモノか、調査する方針を打ち出している。

いつまでもまない抗戦に地球軍・トップも悩まされているーーと公言をまとめていた。


-----


兵力比、5対3に!ーー

この提案が六年前に、地球側から衛星側へ提出されたが、衛星側・首脳部はこれを断固として受け入れず開戦の糸口となった。

実際には80対1で地球が80・衛星が1。

それを軍縮案で5対3としてくれるのだが、衛星側はまだ、軍事に力を注ぎたく、この打ち出しに首を縦には振らなかった。

それであるからこそ、衛星内の爆撃による被害はシャレにならない情況をかもし出している。

元来、地球側と衛星側の外交の不一致となったのは五年前、第二衛星の浄水装置に衛星軍が単独で占拠し第二衛星との戦闘行為に入ったが為だ。設立、間もない第二衛星は早々と降参し、衛星軍の属国と化した。

それまで地球より、上水を輸入し続けた衛星としては買い込んでいた分だけの費用は浮き、それを兵力に変えるであろうと地球側は推察し、第二衛星よりの早期撤退を衛星側に促し、激怒をし続けていた。


------


「出撃します」


そう云って衛星軍のパイロットは戦闘機に、乗り込んでいった。


「魂を見せてくれたまえ!」


上官がこう告げる事は出撃時の公式の返答となっている。

その上官の背後に整列する兵士達は戦闘機が完成し次第、出撃する約束となっていた。

毎回、出陣した操従士パイロットは常に帰還しない。

それが衛星空軍の常識と化していた。

一方、衛星内地下室にて内閣・現職各大臣が集結し終戦に対する条約調印の、大まかな受入れ条件を一本化しようとしていた。

協議上では陸軍大臣と外務大臣との間で、意見が大きく分かれている。要は陸軍はまだ、地上戦を行い、完全なる敗北を喫するまで、戦った方が良いーーと考えていた。

しかし外務大臣としては、これ以上の惨劇は無意味であるのと同時に少しでも好条件を、外交にてるべきだーーと一歩も譲らない。


-----


そんな折・・


「第四四地区に二度目の原爆投下!」


隣にある控え室より情報処理省の役人・キムから、とどめの一撃に近い地球軍の抱撃を、各大臣達は知らされていた。

キムは開けたドアノブ付近に盗聴器を仕掛け退室をする。

その音は拾われ、スミスのイヤフォンに届いていた。

キムは共産党員で地球軍のスパイでもあった。

第四四地区は旧・地球人外来地で宗教や、神を信じない衛星人が外交用に地球人向けに与えた関所の様な土地であった。

何割かの近隣・衛星人が入信を水面化で行い、それを快く思わなかった政府が宗教関係者を中心に、迫害を加え、最終的には地球人は、その土地にひとりも居なくなっていた。

”あまりメリットが無いな” 衛星国王はそう呟き、第四四地区の人口の少なさを思い巡らせ、内閣より渡された終戦宣言を放送し始めた。


-----


「やはり大量殺戮兵器は無かったよ・・」


スミスの親友に当たるドブロボロフスキ大尉より無線で連絡が入った。

時は大四四地区に原爆が投下された翌日に移っている。

衛星に上陸し、統治し始めた大尉よりのライブ通信であった。

焼野原に生存する人影は少なく武装していなければ大尉達は衛星人にカップめんと中国茶を分け与えてゆく。


「なぜ、圧倒的な勝利が目の前にあるのに地球人はこんなに爆撃を?」


この日もスミスの雑誌社の宇宙船に搭乗していたヤマモトはひとり言を呟いていた。


「おそらく、二度と他の星に侵略・出来ぬよう、お灸をすえたのだろう・・」


スミスは大尉の連絡を聞かれた以上、こう返答するより他、なかった。

人工の河川には大量の黒焦げの死体が浮かび、戦争の空しさを物語っている。


-----


「全ての科学や知恵が戦力や兵器として、扱われなければいのに・・」


そう告げてヤマモト達は上陸した宇宙船より帰星を果たしていた。

”まずは、思想犯達が収容されている施設へ向かう” ヤマモトは船内のインターフォンを用い他の亡命者達にそう呼び掛けた。

医師、教員、音楽家・・それぞれ別のハッチより降りてヤマモトに続いた。


「何っ!」


スミスは目を疑った。何とヤマモトが八人も居るのだが、全員、次々と倒れショートした様相なのだ。おそらく大量殺戮兵器は人型ロボなのだろうが、その人型ロボのみを電磁波によりショートさせる事に地球軍は更に成功していたらしい。スミスが助けたのはヤマモトのみ。他・七体は別々に軍が助け、面会謝絶で管理されていた。衛星軍の特攻行為は減り、純生の人間のみの出撃だけに変わっていたとスミスは独り、悟り始めざるを得なかった。


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

亡命者・ヤマモト 柩屋清 @09044203868

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画