武装JKは光の海で幸せになれるのか?

銀将

第1話 雨と廃墟と女子高生。

『ノートカムイ・シティでは、皆様一人一人のライフスタイルに合わせた選択肢を提案し、素晴らしい人生を送ることをお手伝い致します』


 雨が降る音と、遠くの巨大ビルの大型ビジョンから流れる猥雑な街頭広告の音が、ひたすらに耳を刺激し続けている。

 廃墟ビルの中、その部屋の一角。以前はオフィスか何かであったのか、いくつかの壊れた事務デスクや机が乱雑に置かれた大会議室のような場所に少女––––豊崎亜美花とよさきあみかは立っていた。顔立ちは整っており美人だ。艶の良い黒髪はストレートで背中辺りまで伸ばし、両目は血の色のような赤色。女性らしい少し細身なその体を、髪色と同じ黒色のブレザー学生服で纏い、足は黒タイツで覆われ、首元には赤いリボンネクタイを結んでいる。儚い雰囲気を漂わせていた。

 側から見たら、心霊スポットの廃ビルに友人たちと肝試しに来た女子高生が、ひとり逸れてしまったとしかみえないこの状況。だが一つ、そうではないという単純な事ではないのは、彼女が右手に持っている物が証明していた。


––––それは拳銃。F・N社(ファブリック・ナショナル社)のF・Nファイブセブン。5.7ミリ口径の貫通力が高い強力な弾丸を使用することができる拳銃で、マガジンには弾が20発も入る。


 亜美花は窓の外へ視線を緩やかに移す。先刻から雨の音が聞こえていたが、時間が少し経ち大振りとなっていた。


「今日は仕事の道具しか持ってきてないから、傘がないのよね」


 そう一人愚痴る。今は待機時間で、これから仕事なのに、その後濡れると考えるだけで憂鬱だ。雨は嫌いではないが、お気に入りのジャケットがその犠牲になるなど気分が良くない。それなら何か美味しいものでも食べたい。そう考えてた矢先、視界に『着信』の文字が現れたと当時に、デジタル着信音のようなものが脳全体に鳴り響く。視界の拡張デバイスと、脳のブレインリンク(脳を機械に適応させる技術)が視覚と音で着信が来ていることを知らせているのだ。亜美花は意識を集中させ、応答の操作を行う。


『現場には着きましたか、先輩?』


 聞こえたのは、優しそうな少女の声だ。直後に視界の左上に、声の主の顔が表示された。暗い紺色のセミロングヘアーに、金色の目が特徴的で、温和な雰囲気を漂わせ、亜美花と同じ上下黒色のブレザー制服に赤いリボンネクタイを結んでいる。

 彼女の名は鬼灯未来ほおずきみらい。亜美花の学校の後輩にして、仕事仲間。今回の仕事は亜美花が現場担当、未来がバックアップとなっている。


「さっき到着したわ、未来みらい。標的はもう、このフロアの奥の部屋にいるよ」


『開始10分前には現場に着いているなんてさすがです亜美花先輩。私、そういう先輩の真面目なところもとても大好きなんですぅ』


「そ、そんな、大好きだなんて……少し恥ずかしいよ未来」


 未来の映る左上に改めて注目すると、未来は両頬を赤らめながらも満面の笑みを浮かべている。おそらく、自分が少し照れている顔も通信を通して見られてしまっている。そう思うと猶更顔から火がでそうになった。これ以上年上として恥ずかしい姿は見せられない。亜美花は話題を仕事の内容へと強引に切り替えた。


「それじゃ仕事の話に戻るわよ。改めて、今回の標的と人数は?」


『えーっと、今回の標的は2人ですね。シティの繁華街にあるバーにて客であった他の組織構成員1名と揉めて銃撃。店から逃走。通報を受けて追っていた警察も銃撃し警官2名も殺害しています』


「いつものシティでのいざこざで片づけてしまえばそれまでだけど……。どうしてうちに依頼が来たのかしら?」


『なくなった警官の1人、父親が旧日本政府の関係者だったみたいですね。依頼もその父親から政府を経由してうちに届いた感じです』


「なるほど、それで私たちの怒りを買ったのね。」 


『事件直後のバーや街中の監視カメラの映像を確認したら、屈強な大男と細ガリの2名の男性が、それぞれショットガンと拳銃を持っていました。武装は恐らくそのあたりです』


「それなら、ファイブセブン二挺で十分そうね。すぐに終わらせるわ、終わったら連絡するね」


『はい! 待ってますね、亜美花先輩! 美味しいお店行きましょう!』


 そう未来が元気に答えると、通信はそこで終了した。

 亜美花は通信が途切れると、右手に持っていたファイブセブンのスライドを引いて薬室に初段を装填した。いつでも撃てるようにしてから、右のレッグホルスターに戻す。さらに今度は、左のレッグホルスターから二丁目のファイブセブンを抜き、同じようにしておいた。

 先ほど未来と通信していた部屋を出て、静かに標的のいる奥の部屋まで廊下を歩く。仕事前のこの瞬間は、いつまでたっても慣れることができない。これから行われるのは、シンプルな勝つか負けるかのゲームだ。だが敗者には——死しか待っていない。

 徐々に高くなる緊張感を抑えつつ、亜美花は目的の部屋の前までたどり着いた。先ほど準備した相棒——F・Nファイブセブン二丁を両方のレッグホルスターから貫き、両手に構えて呟いた。


「さあ、狩りを始めましょう」




 

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