第13話 合せ鏡の真実

「どうしてそんなことを聞く」

横にいる青年は何を言っているのかわからない時いった様子できょとんとしている。当たり前の反応だ。

「あなたからたくさんのものを貰っているのに、私はあなたに何もあげられていないから」

メアはリオネルの目を見ることができなかった。

彼女は自信など持ち合わせていない。それはきっと父親であるハイゼルの影響で、失敗してはこれでもかと言うほど咎められ罵声を浴びた。そんなこと気にしなくていいと自分には言い聞かせているのだが、残念ながら人はすぐに変われる生き物ではない。だからといって、こんな問いかけをしたら誰しも気を遣って「そんなことないよ」と言うことくらいわかっている。リオネルなら尚更だろう。それでもメアは聞いてしまう。彼なら何か良い言葉を、この先どうすれば良いのかを教えてくれるのではないか、そう思ってしまう。

俯くメアをよそにその青年は「ふふっ」と優しい声をこぼした。

「貰っているのはこちらのほうだ、メア」

驚いて彼の目を見る。透き通る瞳も彼女を見ていた。

「…私は何もあげた覚えないわよ…?」

「そんなの、俺もお前に何かやった覚えはない」

リオネルは「お前ってやつは…」とため息混じりで言ってから再度メアの方を向く。

「俺はお前に救われた。兄上のことも、お前がいなかったら俺は今ここにいない」

キアノスが亡くなった時、確かにメアはずっと彼の側にいた。自分にはそれしかできないと思っていたから。メアは彼の過去を変えてあげることも、幸せな未来を約束してあげることもできない。ならば、せめて隣で彼を守ろうと思った。

「大袈裟よ」

しかし、今リオネルがここにいるのはメアだけの力ではない。ベルや彼の両親のおかげでもあるだろう。だから大袈裟だ、とメアは思う。

「大袈裟なんかじゃない」

真っ直ぐ、そして強くリオネルは言った。

「お前は確かに俺の命を救ってくれた。生きていていいと思わせてくれた。ずっと俺の側にいてくれたのはメアだ」

その強い眼差しを見て、メアは安心した。

彼は立派な一人の青年になっている。あの頃のように泣き虫で、臆病な男の子ではない。もうどんな女を迎えてもやっていける、そうしなければならない。そんな年頃なのだ。

安心したのと同じくらい、メアは寂しくもあった。仲のいい男女のままではいられなくなる日も近いのだろうな、そう悟ったから。互いに家庭を築けば、友人ではなくなる。ただの皇太子と王女という仕事上の関係になってしまう。そうなったら、今日のように二人で酒を呑み交わすことも、悩みを相談することもなくなる。だから言いたかった、言おうと思った。「ずっと友達でいようね」と。それがどれだけわがままで甘い考えかなんてメアは十分すぎるほど理解している。それでも伝えたかった。たとえ彼が「無理だ」と言っても、そう思いたかった。

それなのに、それを言うよりも先に彼が口を開いた。

「メア、ずっと伝えたかったことがある。俺は、お前を─」

「皇太子、少しよろしいですか」

ちょうど、どこからかやってきた男がそう言ったのでリオネルの口は閉じられる。彼はわざとらしく咳払いをし、立ち上がった。

「今行く。メア、今日はありがとう。楽しい時間を過ごせた」

「…いえ、こちらこそありがとう」

何事もなかったかのように話し出すリオネルを不思議に思いながらも、なるべく表情に出さないように彼女も立ち上がって見送る。

「また、来週」

「ええ。あ、チョコレートもありがとう」

「…ああ」

そう言ってメアに背を向けると男と会場に戻っていってしまった。

再びベンチに腰を下ろし、空を見上げる。

リオネルは何を言おうとしていたのだろうか。表情からして大切な内容だったことには違いないのだが、あの青年の心の内がメアに理解できるはずもなく結局何もわからないまま。

空を埋め尽くす星は未だ光り輝き、夜が明ける気配はない。自然に呑み込まれそうで、この世界には自分一人しかいないと錯覚してしまう。子供の頃は、大人になることがこんなにも寂しくて恐ろしいことだとは微塵も思ってもいなかった。

リオネルとずっと友人でいられると当たり前のように思っていた。

チョコレートを手に持ち、会場に戻ろうとしたところでメアは今一番会いたくない人物と鉢合わせてしまった。

「ヘンティルさん…」

金とブラウンの中間くらいの色の髪を結った痩せ型で、かの国の皇太子と瓜二つの顔を持つ若者ーヘンティル・レイモンド。何もなければ。メアの夫になるはずだった人物だ。何も、なければ。

しかし、まさか鉢合わせるとは。挨拶だけして立ち去るわけにもいかないので何とか話す話題を見つけているとヘンティルの方が口を開いた。

「メアさん、お久しぶりです。あに…いえ、リオネル皇太子とはもう話されましたか?」

対するヘンティルは気にする様子など全くなく、世間話を振りかけてくる。そのおかげで動揺していたメアも普段通りに話すことができた。

「ええ、つい先程まで話しておりましたが…どうしてそんなことを?」

「いえ、特に何があるというわけではないのですが」

そう言って柵に身を任せて空を仰ぐ。

「まだ中に残っている方はいらっしゃいましたか?」

「あと数名といったところです」

しばしの沈黙。

後ろ姿さえも、先ほどまで一緒にいたリオネルにそっくりだ。でも、きっと今目の前にいるこの青年の方がリオネルよりも一人で生きていけそうだ。やはり自分は彼の側にいるべき人間ではないな、と改めて思った。

「あの、一つお尋ねしてもよろしいですか」

ヘンティルは沈黙をなんとも思っていなさそうだったがメア自身が耐えられないので、この際気になっていることを尋ねることにした。

「なんでしょう」

彼の横で柵に身を任せて深呼吸をする。

「リオネル皇太子とはどのような関係ですか」

答えてもらえるかもわからない曖昧な質問。こんなことは本来リオネルに聞くべきなのだろうが、出会って十年何も言われていないので彼に聞いても無駄だと判断した。

「なぜ私に聞くのですか?皇太子にお聞きになった方がよろしいかと思いますが」

イタズラっぽくヘンティルは言う。聡明な彼ならばメアの意図などわかってだろうに。全く、こんなところまでリオネルと似ているのか。

「皇太子はきっと答えてくださらないと思うので」

彼は穏やかに笑い、すぐに表情を戻して言った。

「あなたにお教えするのならばきっと皇太子も許してくださることでしょう」

意外な言葉だった。

メアはてっきり「何もない」「教えることはできない」というような返事をされると思っていた。

彼は今までに見たこともないくらい真剣な眼差しで、けれどどこか優しく話し出す。

「私はレイモンド家の血を引いていないのです」

メアが驚かなかったのは、なんとはなしにわかっていたからだろう。

「私は双子で生まれてきたんです。ほら、双子って不吉でしょう?だから私は生まれてすぐにレイモンド家に養子として引き取られたそうで」

それを聞いてメアは一つの可能性を思いついた。いや、大体察しはついていた。

「もしかして、あなたは─」

「ええ、お察しの通り。エリオット国皇太子リオネル様は私の双子の兄に当たります」

的中してしまった。

ヴィーヴィオの中でも強大な力を持つレイモンド家の次男は、王族の血を引いていた。

しかも直系で。

そんなことがもし大陸中に知れ渡ってしまったら、一体どれほどの騒ぎになるだろう。ウェルズリー家は不吉だと、呪われているとでも言われるのだろうか。

そんな言葉を聞いたら、次こそリオネルは壊れてしまう。

「…なぜ、皇太子ではなくあなたがレイモンド家の養子となったのですか?」

彼が弟だから、という理由も考えられるが二人が生まれた頃はまだ後継あとつぎであるキアノスが生きていたので、兄と弟をそこまで意識する必要はないだろう。だとしたら、何か別の理由があるはずだ。

「私が茶髪で、皇太子が…兄が白髪だったからですよ」

当然な結果だと自分に言い聞かせるように、けれどどこか寂しそうに彼は言った。

「ウェルズリー家は代々白髪でしょう?それなのに私は茶髪で生まれてきてしまった。双子の上に茶髪である私を見て家族は呪われた子とでも思ったのでしょうね」

彼はただ星空を仰ぐ。

髪色が違うだけで、自分は選ばれなかった。それがどれだけ辛く寂しいことなのか、メアには計り知れない。

「そんなの、間違ってます。双子でも平等に育てるべきです」

嘘は吐いていない。本当にそう思ったから口にした。

しかしメアは、無意識にそう口にした自分に驚いた。

どれだけヘンティルでも所詮は他人。

メア・カペルという人間は、他人の生い立ちなど言い方は悪いがどうでもよくて、人の気持ちになどまともに寄り添えない。誰の影響か薄情で誰よりも自分と他人の境界線がはっきりとしているはずなのに、なぜそう思ってしまったのか。他人の生い立ちにどう思っても今さら何も変わらないというのに。

「あなたは、そのように言ってくださるのですね」

メアの精神状態が一般的な人間とはかけ離れていることを知らない彼には真っ当な言葉として届いたようで、心底嬉しそうにはにかんだ。

「私も昔は、城で王族として家族からたくさんの愛情を注がれてるのを見て兄だけずるいと、そう思っていました。でも、それは間違っていた。私の一方的な考えでした。一度は家族と認められなかった私がエリオットの城に訪れることを父と母は許してくれていたのです。それが当時の私にとってどんなに嬉しかったことか。義母は私の物心がつく前から私を連れて定期的に城に訪れていたようで、父と母はもちろん、兄上や前皇太子キアノスも私を家族同然のように扱ってくれました」

家族同然も何も正真正銘血縁関係のある家族だろうに、と思ったが口にはしなかった。

エリオット国王や彼の母であるグレンダがヘンティルに対して良い待遇をしたのは、きっと本音では『家族』として一緒にいたかったからだろう。どれだけ不吉だと言われていることだとしても、己の子を片方だけ自ら手放して平気な親などそうそういない。

養子に出すという話を切り出したのは親戚の誰かか、それともエリオット国の次男坊が双子だということをどこからか嗅ぎつけた厄介な、それも国王に助言できるほどの高官か。

いずれにせよ、両陛下の意思で決められたことではないのだろう。

「両親が兄上と同じくらいたくさんの愛情を注いでくれたおかげで、次第に私の兄上を妬む気持ちはなくなっていきました。こんな素敵な方々を妬んでは、いつかバチが当たると思ったのです。そして、私には果たさねばならない役割があるのではないかと思うようになりました」

「役割?」

人は生まれながらにして役割を持っているわけではないと思っているメアからしてみれば、彼の考えは飛躍のしている。しかし、そう思うことで自分の存在意義を見出すことができるのは確かだ。


─いや、もしかすると本当に役割があるかもしれないな。


「ええ、きっと私は兄上の謂わば補佐のような役割なのではと思うのです。彼の囚われている檻の鍵を開けてくれる、そんな方が現れるまで彼の心の拠り所になるべき人間なのではないかと。まあ、この気持ちが兄上に届いていない可能性も十分にあるのですが」

最後は冗談めかして笑った。そんなところもリオネルにそっくりだった。

「あなたは十分、彼の心の拠り所になっているのだ思います。だって─皇太子はいつも笑顔ではありませんか」

メアは彼の暗い顔をほとんど見たことがない。彼のようにずっと稽古と書類とを行ったり来たりしていればまともではいられない。それなのにいつも笑顔でいる彼がメアは不思議でたまらなかった。

それはヘンティルのおかげだったというわけか。 

「やはり、私は間違っていなかったようです」

彼は独り言のように言った。何に対してそう言ったのかはわからなかった。

「メアさん、やはりあなたは幸せになるべき人です。無理だと諦めず、どうか自分の気持ちに素直になってください。これは、あなたの人生だから」

メアはハッとした。

いつだったか恩師のクレアもそう言っていた。二人して一体何を思っているのか。メアが素直になる対象のものなどないというのに。

彼は優しい笑みを浮かべ「また来週」とリオネルも同じことを言って会場に戻った。

柱時計がないのでわからないが夜も遅いのだろう。そろそろ帰るか、とメアもその場を後にした。



「昔々あるところにとてもかっこいい王子さまがいました。その王子さまが歩けば、国中の女性が振り向くのです。ある日、王子さまと結婚したいという女性が現れました。とても美しくて、素敵な女性でした。しかし、王子さまは断ってしまったのです。なぜなら、王子さまには好きな人がいたからです」


「王子さまが好きになる人ってどんな人なんだろう?」

「きっとすっごく可愛い人なんだよ!」

「お勉強もできるんじゃない?」

舞踏会から五日が経った頃。

メアが教会でいつも通り絵本の読み聞かせをしているとフェリシアや他の子供たちがそう言った。仕事の一環で週に一回ほど教会を訪ね、その際に絵本の読み聞かせをするのが恒例行事なのだ。聞いているのは教会で育てられている子供十人で、まだ歩けるようになったばかりの子から八歳くらいまでの子だ。

今日は「王子さまとチョコレート」という絵本を読み聞かせしている。メアは読んだことがない絵本なのだが、フェリシアのお気に入りの本のようでどうしても読んで欲しいと持ってきた。

「ふふ、続き読むわよ?」

自由な発想を広げる子供たちに微笑み、メアは続きを読む。

「ある日、王子さまは好きな女の子にチョコレートを贈りました。女の子はとても喜んで、王子さまにこう言いました。『あなたの奥さんになってもいいですか?』王子さまは驚きましたが、結婚できることがとても嬉しくて、その女の子を抱きしめました。

そして、二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。おしまい」

メアは初めて読んだので内容を知らなかったのだが、どうやら子供向けの恋物語だったようだ。王子に向かっていきなり「妻になりたい」と言ったのは物凄い度胸だな、とある意味尊敬したことは口が裂けても言えない。

「チョコレートを渡すなんて、王子さまは本当に女の子のことが好きだったんだね」

フェリシアが隣の友達にそう言った。メアは普段子供たちが一斉に話していると一言たりとも聞き取れないのに、なぜかその言葉だけは聞き取ることができた。

「ねぇ」

そして彼女の言葉の意味を知らないといけないような気がして質問する。

「なんで王子さまは好きな女の子にチョコレートを渡したの?」

今までのメアの常識でいけば「なんでだろう」という答えが返ってくるはずなのだ。

しかし、フェリシアは王子さまの行動があたかも当然だ、というような声色で言った。

「多分、バレンタインだったからだと思います!」

「バレン…何?」

「バレンタインです」

初めて聞く言葉だった。最近の流行りだろうか。

「何、それ」

「え、知らないのですか!?」

周りの子供達も「え!?」と驚きの声を上げた。

まるでバレンタイン、というものがあって当たり前のような反応だ。いや、そうなのかもしれないが、少なくともメアには当たり前ではない。

「バレンタインは男の人が好きな女の人にチョコレートをあげるイベントですよ」

内容を聞いてもいまいちピンとはこなかった。

「それは、昔からあるイベント?」

「んー、どうでしょうか。少なくとも私は昔から知ってます」

ならばメアが子供の頃から存在していたのだろう。十八年生きてきて一度も聞いたことがないし、見たこともなかった。

そして、あることが脳裏に過ぎった。

「…ねぇ、そのイベントっていつ頃あるの?」

「えっと、二月十四日ですけど遅れて渡す人もいますよ。王女さまは誰かから貰いましたか?」

チョコレートを貰わなかった、と言えば嘘になる。

メアは先日の舞踏会でリオネルからチョコレートを貰ったことを思い出した。彼がやけに緊張していたのはそのせいか?いや、流行りに疎いリオネルだ。バレンタインなんて知っているわけがない。そもそもメアを好きという気持ちなどないはずだ。

でも、もし彼がバレンタインというのを知っていたのならば─

いや、考えすぎか。

「貰って…ないわ」

「本当ですかぁ?」

フェリシアら怪しさ満載、という表情を向けてくる。

「本当よ。さ、私はそろそろここを出ないと。また来週ね」

えぇーという子供達の声を浴びながら、メアは立ち上がってパメラと出口に向かう。

広い教会にコツコツという靴の音が響く中、一人の少女が王女の側に行き、こう言った。

「これは私の独り言ですが、バレンタインを貰った人はお返しをするのが一般的らしいですよ」

それだけ言って、友達の方へと駆けて行った。



その頃エリオットの城内でリオネルはため息を吐いていた。

「あれ、絶対気づいてないよな…」

「ご存知ではありませんでしたか」

かの国の王女─メア・カペルはどうやら鈍感なようで、いや、わかってはいたのだがやはり伝わらなかった。

「ああ。まあ、バレンタインなんて知らなくても仕事をする上では何も問題ないからな。美味しそうに食べてくれたことが唯一の救いだよ」

再びはぁとため息を吐いた。

彼女に間接的に伝えようとした自分が間違っていたとリオネルは反省する。決して彼女を見下しているわけではないが、他人の私情など関係ないと思っているメアに察しろなど無理な話なのだ。

「もう…直接伝えるしか方法はないか…」

そんなことできる気がしない。彼女が傷つくとわかっていることを目の前で平気な顔で言えるわけがない。いや、傷つかなくともそもそも言葉にする勇気もないのだが。リオネルはつくづく自分が臆病で情けない人間だと思う。漢ならばはっきりと物事を伝えるべきなのに。

「坊ちゃん、そろそろ仕事に戻られてください。式典まで時間がありません」

「わかっているよ…」

二日後にはエリオットの追悼式典が控えている。自分のことを考えている暇など本当はないのだ。式典を万全な状態で行うためには、大量の書類にサインするという仕事を終わらせなければならない。法の改正案やくだらない内容ばかりの書類だが、一つ気になるものがあった。


『近頃、南方の情勢の悪化が見られる。

我が国も武器・兵士の調達を行なった方が良いのではないか。また五年前のような悲劇が起こらぬよう努めるべきだ』


「これは事実か?」

書類をベルに渡し、そう尋ねた。もし本当ならば、ここに記されている通り用意をしなければならない。

「はい。最近南方のエクエスが領土を広げているそうです。裏付けもできています。この国にやってくる可能性も否定できないでしょう。この書類通り、武器や兵士を見直す必要があるかと」

「面倒だな」

リオネルはできれば戦などしたくないと思っている。兵士の命が奪われ、金を消費するだけなので何も良いことはないのだ。

しかし厄介なことで、戦というものはこちらの意思など関係なく始まる。もし今回、エリオットが攻められなくとも、これから何年何十年と戦をしないとは到底思えないので、備えておいて損はないだろう。

「また五年前のような悲劇が起こらぬよう努めるべき、か」

リオネルの脳裏にはキアノスがよぎる。

もし再び戦が起こるとなれば、彼は何と言うだろう。自分から戦いに行くだろうか。それほどの勇気をキアノスは持っていた。どこからどこまでも天才で頼もしかった。もし彼が生きていたら、この書類は彼の手元に渡っていただろう。国が敗北してもなお英雄と讃えられる彼だったならどんな策を思いつくのか。


─やはり、あなたには勝てない


リオネルは右手に羽ペンを持ち、善処したという印と共に自分の名をサインした。







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