推しの配信者がクラスの孤島のイケメンだったんですけど!?
蘇芳襄
第1話 私のクラスのイケメンはイメージが違う!
「やばい!やっぱり面白すぎるんですけど!?」
私、
「この天才的な喋りの面白さ、そして完璧なタイミングで起こる珍プレーに重要な時に決めてくる神プレー。
しかも少しの沈黙も無く一生喋り続けて場を持たすこの能力。
こやつは配信者の神になろうとでもいうんですか?」
こんな他人に聞かれたら引かれるレベルのべた褒めをモニター越しの返答することはない誰かに向けて語る。
そう、私は今、真夜中に配信者のゲーム配信を見ている。
私自身、元々生粋のオタクではあったので、ゲームやアニメ、漫画など色々なジャンルのものを通ってきた。
沢山のジャンルを追っては来ていたので、多少は目は肥えていると思っていた。
そう、あの配信を見るまでは。
あれは、少し何か面白い人いないかな?と思いながら配信サイトを漁っていたときだった。
その時は、配信者にハマっていた時だった。
大体お気に入りの人のアーカイブは一通り見尽くしたので、どうせなら同接が少ないときにいい人を見つけるのも醍醐味の一つでしょ!と思い原石を発掘する作業に勤しんでいた。
でも、同接数人の配信で面白い人を見つけるのは難しく、開始から一週間程立ち、そろそろ飽きてきた頃だった。
その時、運命の人を見つけてしまったのである...。
「それでさ〜...。」
あまりにも凄すぎて一周回って全然覚えていない。
だが、彼はレストという配信名で配信をしていたということさえ覚えていればもう何でも良かった。
とにかく面白い。
ゲーム実況や雑談を聞いていて飽きることはないし、一度ゾーンに入れば一生腹を抱えて笑う羽目になる。
気づけばその前のアーカイブをすべて見終わり、いつの間にか配信が始まった瞬間見るようになっていた。
収益化が出来るようになったときは死ぬほど喜んだし、チャンネル登録者数が一万人を超えたときにはガッツポーズをしてしまった。
布教するために死ぬほど切り抜きを作りまくり、推しを布教しまくった。
それほどまでに、あまりにも面白すぎた。
こんなものを知らないなんて損してる!と本気で思っていたし、今も思っている。
そのぐらい、レストは自分の生きがいになっていた。
「あー、今日も配信面白かったな〜。何であんな神回避を連発しながら面白いこと言えるんだろう?脳みそ分けてほしいわ。」
感想を述べながら切り抜きを作る。
編集を書き終わりアップロードした瞬間眠くなり、そのままベッドにインした。
また今日も寝不足で高校に遅刻仕掛けたが、もうこれ以上は困るから猛ダッシュで間に合わせた。
前一度遅れたとき、ここぞとばかりに理由をつけて、パソコン取り上げられそうになった。
その時はなんとか許してもらえたが、次はもうないと察した。
だから、もう遅刻をしてはいけなかった。
「おはよ!間に合ったわー。ギリギリセーフってな。」
「おはよー。みーまた編集してたの?いくら推しのためとはいえ睡眠時間削って作るのは流石にびっくりだわ。」
「よっちゃんこそ推しのためならライブ回るんでしょ?ほんと私にはドルオタは向いてないわ〜。」
「いやいやいや、朝四時寝8時起きを繰り返しているやつに言われたくはないわ!」
「えへへ〜、そんなにしんどいことじゃないよ〜。」
「別に褒めているわけじゃないんだけどな...まあ体には気をつけなよ。」
この生活リズム崩れまくりの私を気にかけてくれるこの子は佳子ちゃんだ。
メガネを掛けていて、クール系の美人なのだが、実は生粋のドルオタで、推しのためなら全国どこでも駆け出す人だ。
そのためそのアイドルグループの界隈内ではちょっとした有名人らしい。
「それにしてもそんなに勉強して無くて大丈夫なの?試験もうすぐでしょ?」
「うっ、そうなんだけど...面倒くさくて全然してないや!明日教えて!」
「人に教えを請う態度がそれですか?」
「はい、すみません。どうか私に試験勉強をするべき場所を教えてくれないでしょうか。」
「よろしい、苦しゅうない。」
そんな会話をしている間にチャイムが鳴る。
朝のホームルームが始まるのだが、後ろの方のいわゆる主人公席と呼ばれる位置の後ろに座る私は外の風景を楽しみながら欠伸をする。
担任が今日の予定を伝えた後、号令がかかり、速攻で自分の椅子から離れる。
「大変だね〜。一匹狼様の席から毎回離れないといけないのは。」
「ほんとほんと。あの人達あんなにイヤーな雰囲気出しているのによく近寄ろうと思えるわ。」
「鈍感なんじゃない?知らんけど。」
そう言いながら、席を離れないといけない原因である一つ前の席に座っている男子を見る。
彼は、一匹狼とクラスで呼ばれている一人のクラスメート、
まあ正確にはその周りにまとわりついて虎視眈々と狙っている女子たちがうっとおしいからなのだからなのだが。
残念ながらそんなものには私達はあまり興味がなかった。
ちなみに、一匹狼様と呼ばれているのは、狙っている女子たちは憧れとして、それ以外の女子は皮肉ということだ。
「やっぱり狼様は近いと面倒くさいの?」
「そりゃそりゃそりゃ。グループワークでも話してるところ見たこと無くて意思疎通を取るのはとっても面倒だし、すぐにあいつらが群がってくるし。
顔は確かにすごく整っていてイケメンだと思うけど、所詮その程度だよ。
やっぱり何より面白い人が一番いいと思うんだけど!よっちゃんはどう思う?」
「私はやっぱり顔はいいほうがいいと思うけど。やっぱりイケメンに勝るものはないっていうしね。」
「本当に面食いなんだら〜、よっちゃんは。」
「面食いじゃなきゃドルオタなんてやってないでしょ。」
「まっ、それもそっか。」
それにしてもあの群がっていく女子の鈍感さには呆れさせられる。
本人は一切喋らないし、なんなら窓に寄りかかって眠たそうにしている。
なのに、ひたすら取り巻きの子たちは喋るチャンスを伺っている。
「なんであんなに頑張ってるんだろ。」
「そりゃ推しに認知されたいのと同じなんじゃないの?みーも切り抜きしまくって推しから認知された訳だし。」
「そう考えたらそうなのかもしれないな〜。でも正確にはちょっと違う気が...まあいいか。」
その後は、よっちゃんとオタク談義に花を咲かせていたのだが、疾風くんの近くで動画を見てはゲラゲラと笑う女子数人が疾風くんに話しかけていた。
おっ、遂に始まったぞと思いながらその席に注目する。
「そういえばさー、疾風くんはこの動画面白いと思う?思うよね?」
「....。」
「それ、私も聞きたかった!やっぱりこの動画面白いと思うよね!?」
「....。」
よくもまああんな対して面白くもないようなショート動画を見せるよ、と思うが、彼も彼で、その女子たちに投げかけられた会話を無視している。
私だったら面白くなくなってどっかいきそうになるが、彼女たちは一切嫌な顔をせず、むしろその塩対応をする顔に惚れているかのように、
「またこの動画見たら教えてね!絶対だよ!」
「私も!教えてよ!」
と言いながら帰っていった。
前言撤回しよう。彼女たちの行動は私には一切理解できない。
確かに、イケメン、クール、高身長で浮いた話も今までで聞いたことが無いとなれば、自然と女子が寄ってくるのは分かる。
ただ、全然会話のキャッチボールを全速力で回避しようとしている疾風くんに近寄っても退屈なのではないのだろうか。
私ならそんな男じゃなくてもっと面白い人を選ぶと思う。
だって、顔も重要かもしれないけど、私の推しみたく周りを笑わせてくれる人のほうが絶対に一緒にいて楽しいと思う。
そもそも選べるほど容姿が整ってはいないし、そもそもこんなオタクと付き合うやつなんてそうそういないと思うが。
それでも、彼氏が出来るなら容姿よりもトーク力で選んでしまいそうな気がする。
まあとにかく、私はあんな人らとは関わらずに、外野から恋愛模様を観察してほくそ笑むぐらいが一番面白い、そう思った。
「やっと終わった!今日は一日の授業がいつもの十倍ぐらい長く感じたよ〜。」
「お疲れ、みーは確か今日は予定があるから早く帰るんだっけ。」
「そうなんだよー。ごめんねよっちゃん。今日は絶対に欠かせない用事があって。
だってだってさ!今日はレストさんが言ってたゲームのシリーズの最新作の発売日だよ!
配信は一時からだからそれまでにとりあえずストーリー一周目のクリアはしておかなくちゃでしょ!」
「はいはい、でもどうせみーのことだから予約特典ゲットするためにパッケージ版も買うし、早く遊ぶためにダウンロード版も買うんでしょ。」
「その通りでございます。勿論パッケージ版が届いた暁にはよっちゃんにも貸して布教してやるから待ってろよ!」
「オッケー、めちゃくちゃ楽しみにしておく。」
「それじゃあ、また!」
別れを告げるが否や、猛ダッシュをかまして駅につき、理論上一番早い電車に乗り込む。
そのお目当てのゲームなのだが、レストさんがあるとき配信でおすすめしていたのがキッカケだった。
調べて速攻で中古屋でゲームを買ったのだが、独特の操作と慣れないふわふわした慣性で結構苦戦した。
だが、最後のラスボスをクリアしたときは達成感とその独特の操作に魅了されてすっかりファンになっていた。
その後も全シリーズを購入したのだが、ここ数年は新作が出ていなくてもどかしい気分になっていたところであった。
だから、新作が発表された時にテンションが上ったし、レストさんが配信でやると決めたから有頂天になり、数分間踊っていたのは秘密である。
電車から降りて、どんな感じでストーリー進めていこうかな?と考えていたらいつの間にか家の前についていた。
急いで靴を脱ぎ、寄り道をせずに自室がある二階に猛ダッシュする。
そして、そのままの勢いでパソコンを開けた。
ゲーム自体は昼の十二時に配信だったのですでに遊べる状態だった。
ウッキウキでパスワードを打つ。
「これで、読み込みが終わればゲームが出来る...ってあれ?」
画面は変わらずロックされたままだ。
もう一度打つが、画面は変わらない。
疑問に思ったので、今度は画面とキーボードをにらめっこしながら打とうとする。
しかし、その時に気付いた。
「まじかよ...このパソコン壊れてんじゃん...。」
かれこれ四年ほど使い続けた愛用のキーボードが遂に反応しなくなり、途方に暮れていたが、一刻も無駄にしている時間は存在していないので、電気屋に直行することになった。
「本当に何でこのタイミングなの?まじであのキーボード許さん。」
自転車を漕ぎながら一人文句を言い続ける。
電気屋と言ってもここら一帯では一つしか無く、往復で三十分ほどかかるのでとっても億劫だ。
5月なのに汗ばんでとっても気持ち悪いのが余計に気分をイライラさせる。
ようやく着いたので、急いでパソコン関連のコーナーへ向かう。
だが、キーボードと言えど沢山の種類があるのでまたもや頭を悩ます。
「あ〜!なんかいいの無いの?せめて調べてから来ればよかった!前のキーボードはもう生産してないし!」
とりあえず色んな物を打って見るのが一番だと考え、前にあったキーボードに手を伸ばした時だった。
「ヒャッ!?」
丁度もう一人そのキーボードに触ろうとしていたのか手が当たる。
あ、すみませんと言おうと横を向くと、まさかまさかの疾風くんだった。
まさかまさかのハーレム形成出来るイケメンと遭遇である。
ちょっと面倒くさい事になったら困るし、あの中に入るのは御免だったのでその場からとりあえずたいさんするために適当に言って、ネットでおすすめ調べた後、買って帰ろうと思っていた。
だが、予想に反して疾風くんは口をパクパクさせてなにか話そうとはする。
しかしながら、何故か沈黙が流れた。
「えっと...。」
「す、すみません!さ、触りたかったですよね?お先にど、どうぞ...。」
ん?
私の気のせいだろうか。
一瞬女子に手が触れられてキョドってる陰キャに見えたんだけど...。
いやまさか...そんな訳無いか。
イケメンがそんな反応するわけ無いだろうし。
「いえいえ、ただちょっとキーボードを探してただけなんで。
お気になさらず。」
「あっ、そう..なんですね。何にするとか..決まってるんですか?」
なんだろう、目も合わしてくれないし、そもそも半眼だし。
普通だったらナンパかな?と思うだけど残念なことにキョドりすぎて全然見えない。
「あっ、す、すみません。やっぱり迷惑でしたよね...。すみませんすみません。」
「あ、いや別にそんな訳は全然無いんだけど...。」
なんか気まずい。
このまま去るのもなんか変なしな...。
うん、めちゃくちゃおどおどしているのに無視はできない。
そう思い、口を開いた。
「じゃあ、折角だし疾風くんのおすすめを聞いてみようかな?」
だが、私は忘れていた。
こういうとき、オタクは止まらないということを。
「えっと、押しやすいと思うのがこのキーボードなんですけど、ちょっとスカスカしていてあんまり押した気分にならなくて、これは押した感じはめちゃくちゃあるんですけど指が疲れやすくて、これが...。」
予想の十倍ほどの早口でまくられる。
だが、これで確信してしまった。
この人典型的な陰キャだじゃないですか!
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