『おかえりなさいませ』でございますわ【カクヨムコン10短編】
音無 雪
第1話 憧れのお店に向かいますわ
大切な休日にもかかわらず、わたくしの我が儘にお付き合い頂いて嬉しく存じます。
「エリザベス先輩のお願いなら何でも聞いちゃいますよ。いつも助けてもらってばかりですからね」
「私も一度訪れたいと思っておりましたので負担には感じておりません。むしろ機会を頂いて喜んでおります」
女三人寄れば姦しいと申しますが、楽しき車内の雰囲気でございます。
屈託のない笑顔で私の事を「エリザベス先輩」などと呼ぶのは後輩のアリスさん
わたくしが所属するチームで最年少の女性でございます。
もちろん私は古風な日本人でしてエリザベスなどと言う王侯貴族のような名ではございません。名が「絵里」でございまして、チーム内で誰ともなく呼ばれていた愛称がいつの間にか定着致しました。
最近では「リズ」などと呼んでいただいております。先輩と呼ばれておりますと皆さんよりも年齢が上であると公言しているようで乙女としては気になるのでございます。
ただアリスさんはとても自由奔放な性格をしておりまして、なかなか「リズ」とは呼んでいただけないのが残念でございます。
アリスさんは愛称として呼ばれているそのままが真名でございます。
名から連想される小説のヒロインをそのままに実体化したような容姿と服装をしてります。西洋人形を思わせる小さなお顔にゴシックロリータと呼ばれるドレスを合わせる彼女は常に人目を惹く存在でございます。
日頃の言動から皆様より「不思議のアリスさん」などと愛されております。
「不思議ちゃん」でございますね。どのような発言をしても嫌な雰囲気を作らず、更には一手先を読む思慮深さを持つ才女でもあります。
もう一人の後輩は腰まで伸ばした長い黒髪が特徴的な雪さん チーム創設にかかわった古参メンバーでございます。
家のつながりもあり、幼き頃より親しくさせていただいております。近所に住まう少女を妹として溺愛しており、妹からは「聖女さま」として崇められております。この「聖女さま」について詳しく語りたく思いますが、夜が明けても語りつくせぬ逸話が数多くございますのでまたの機会に致しましょう。
彼女も乙女として年齢が気になるお年頃でして『永遠の十七歳』を宣言いたしております。正確には「じゅうななさい」と表記するのが正しいようでございます。
彼女の自己紹介は
「音無雪 じゅうななさいです♪」
とすることが定番となっており、同席した場合は声を合わせ
「オイオイ」
と合いの手を入れることが形式美となっております。
なんでもこの合いの手を入れなければ「ただの嘘つきになってしまうから」とのことでございます。
『十七歳教』なかなか奥深いものがございます。
―――― § ―――― § ――――
「きちんと予約しておきました。今日は貸し切りですから楽しみましょうね」
初めてのお店ですので期待と不安が入り混じっております。
少し浮き足立っていることを察したのでしょう。安心させようと声をかけていただけます。
本日はアリスさんがもっとも造詣が深い分野ですので指南していただく手はずでございます。
事前に頂いた注意事項に則り用意をしてまいりました。
特に念押しをされたのはドレスコードでございます。華美にならない程度に抑えたドレスを選ばせていただきました。装飾は少ないですが、生地は良いものを使っております。失礼にはならないでしょう。
雪さんは赤を基調としたドレスを選ばれたようでございます。これはアニメで話題になった作品のヒロインが纏っていたドレスでございますね。万能の魔力を持つ聖女さまにふさわしいではありませんか うふふふ
「このドレスを指定されたのです。今日の所はアリスさんにしたがうべきかと思いまして」
少し思うところがあるようではございますが、アリスさんグッジョブでございます。
「心から楽しまなければいけませんよぉ エリザベス先輩はいつものままで良いですけど、お雪先輩はノリですよ。ノリが重要ですからね」
「なにか騙されているような気がします」
「お雪先輩に嘘は言いませんよぉ 冗談は言いますけど」
いつものアリスさんでございますね。
「お雪先輩に重要な注意事項です」
「なんですか」
「今すぐ羞恥心を捨ててください」
「やはり騙そうとしていませんか」
楽しい後輩でございます。道中退屈することがございませんでした。
笑いの絶えない内にゆっくりと車が止まり声がかかりました。
目的のお店に到着したようでございます。
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