祝い風・悼み風

烏目浩輔

第一話

 ぼくはちょくちょく実話系の怪談や奇譚を書くのだが、それらはすべて他人ひとから聞いた話がもとになっている。どうやらぼくには霊感がまったく備わっていないらしく、そういった経験を一度もしたことがないからだ。他人様ひとさまの経験に頼りきって執筆させてもらっている。

 今回の奇譚も例によって他者の経験談であり、大石麻美子まみこさんという五十代の女性が語った話だ。


 大石さんは友人から紹介してもらった方で、お互いの仕事が休みの日に、『喫茶ランプ』という店で待ち合わせをした。

 喫茶ランプは雑居ビルの一階で営業しているこじんまりとした喫茶店だ。テーブル席とカウンター席が共に四つずつあり、明里あかりさんという女性オーナーがひとりで切り盛りしている。店名の『ランプ』はお名前の明里に由来するそうだ。


 ぼくたちは壁際のテーブル席に着いて、ぼくはアイス珈琲、大石さんはアイスレモンティを注文した。それらがテーブルに運ばれてきてから、ICレコーダーをオンにし、大石さんの話を聞かせてもらった。

 ただし、その話は大石さん自身の体験談ではなく、彼女がまだ中学生だったときに、祖母のフサさんから聞かされた話であるらしい。

 しかも、フサさんが十代の頃に経験したことだというから、戦前にまで遡るずっとずっと昔の話なのだった。つまりは何十年も前に起きた出来事の又聞きになる。


 そういった事情があるため、詳細が判然としない部分もあるのだが、大石さんに聞いた話を以下にまとめてみようと思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る