曇り空とマスカルポーネ
海空
くもりのちはれ
────母よ、どうしてくれる、
あなたのせいで私の心はどんより曇り空ですぞ
母からホットケーキミックスをもらった。小袋が3つ入ったホットケーキミックスだ。これは私に作れと、自炊しろという意味なのだろうね、きっと。いや、確実に。
大学入学と同時の一人暮し、それも半年過ぎた。いまだ目玉焼きも作っていない。先週親にガサ入れされ、使われていない調理道具を見て深いため息をつかれた。「そんなんじゃ嫁の貰い手がないよ」なんて言ってたけど、別に料理なんて出来なくとも結婚は出来るのだ!
親には内緒だけど、高2から付き合ってるカケルとは半同棲生活をしてる。先週親が来た時はカケルに予定があって、たまたま女友達を家に呼んでいた。自分で言うのもアレだけど私は強運を持っている。きっと料理をしない日頃のおこないが良かったのだろう。
だがしかし、もらってしまった。白いブツ、そしてここにはたまたま卵と牛乳と油がある。ご丁寧に材料まで準備してくださったのですよ、我が母上。牛乳の賞味期限が迫っているのでそろそろ手をつけなければいけない。
「ホットケーキかぁ、作る前に味がわかってるとなんだかな~」
「検索したらホットケーキ以外にも作れるみたいだよ。パウンドケーキ、ドーナツ、スコーン……」
「え、何て?」
「パウンドケーキ? ドーナツ?」
「いや、その後!」
「スコーン」
スコーン、カフェとかで出るアレじゃないですか! おしゃれかわいいアレじゃないですか!
「ちょっと貸して」
カケルの手からスマホを奪うと、画面に釘付けになった。卵、牛乳、ホットケーキミックス、油。ここにあるもので作れるじゃないか。しかもなんだこの白いの。マスカルポーネ? ふむ、チーズなのか。そしてジャムがあればイケる! ジャムならお土産でリンゴジャムをもらってたー! やっぱり私、強運だわ!
「カケル、スーパーに行ってマスカルポーネを買ってきて、スコーン作っておくから、おやつはおしゃれにスコーンでアフタヌーンティーでもしようじゃないか!」
「お、いいねー! で、マスカルポーネって何だ? マカロニか? パスタか?」
「えっと……」
マスカルポーネ、生クリームに熱を加えクエン酸を加え固め、水分を除いて作ったフレッシュチーズ。
「チーズだ、スコーンに塗るチーズ」
「任せとけ!」
よし、これで後はスコーンを作るだけだ。ポリ袋にホットケーキミックスと油、卵に牛乳を入れてもみもみ。ひとかたまりになったら形を整えて切る。ふむふむ、あとはオーブンに入れて焼けば完成。
ピーーーーーーッ!
部屋に甘い香りが広がる。
おお、これは味も期待できそうだ。
皿に2個ずつのせていると階段を駆け上がる音がした。ドアが勢いよく開けられ、
「ただいま! 間に合った?」
素直な忠犬カケルの帰還!
ナイスタイミング!
「はい、塗るチーズ! わぁ、いい匂いだ」
「塗るチーズ?」
手に取って見てみた。
チェダーチーズと発酵バターで仕上げた濃厚でコクのあるなめらかなぬるチーズ。
プロセスチーズとな。
「カケル、これはマスカルポーネでは無いのぉ」
「マスカルポーネ? なんだそれ」
「いや、何でもない。今焼き立てだから塗って食べよう」
「あっつ! はふっ、お、うっめー!」
「あつっ! ホントだ、スコーンに合うね♡」
「俺、もっとぬったぐろー♪」
「あ、あたしも塗る。これ朝ごはんにもいいよね。やっぱ料理の才能あるのかも、あたし強運だし」
「これは俺の手柄が大きくねぇか?」
カケルがニカッと笑うと私もニカッと笑う。
母よ、マスカルポーネは無いけれど、料理なんて出来ないけれど、うまいもん食べて笑っていられたら心はいつも晴れなのだ☀️
良くないですか、お母様!
良くなくなくなくない? お母様!!
曇り空とマスカルポーネ 海空 @aoiumiaoisora
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