第2話


「はは....君の分だ....。」

すぐに分かった。

声まで聞こえてくる様に感じた。

全部無くなってしまったのかと思っていた。


書かれていた日付を見ると、僕と出会う前に残した日記だと分かった。

短く書かれた綺麗な文章。


そこに難解な謎や劇的な展開が無くても、僕にとってはどんな小説よりも価値があった。

涙が溢れた。

まるで君が帰ってきたように感じて。


止まらない涙を拭いながら次のページをめくったが何も見えなかった。

体の水分すべてが出たんじゃないかと思うほどに涙を流し、泣きつかれた僕は床で眠ってしまった。


眠れない日々が続いていた。

でも、この日はぐっすりと眠ることが出来た。


毎日見る真っ暗な夢を見る事も無かった。

目を覚ますと朝焼けが部屋に差し込み、瞼越しに光が見える。


「いたた」

全身が痛い。硬い床で寝たせいだ。

ゆっくりと立ち上がると日記が床に落ちた。


抱いたまま寝ていた様だ。

大切に拾い上げそっと机の上に置く。

部屋を見渡し、差し込む朝焼けを眺めながら深呼吸をした。


息を吐きだし戸棚からコップを二つ取り出す。

「あ、いらないんだ」

一つを戸棚に戻し、残ったコップを机の上に置く。


コップにティーバッグを入れ、ケトルに水道水を注ぐ。

ケトルを台に乗せ、スイッチを入れる。


その間に適当に取り出したコップで口を濯ぎ、カーテンを開き外を眺めた。

「綺麗だ」

昨日まで灰色の腐った住宅街に見えていた。


でも、今日はそうじゃない。

なんていうか光って見える。

街が世界が、命が。


カチとお湯が沸いた音が聞こえた。

ケトルを持ち、コップにお湯を注ぐ。


立ち上る湯気が顔に当たり、暖かい。

湯気が紅茶の香りを立てる。


ケトルを台に戻し、椅子に座る。

熱い紅茶を一啜りし、窓の外を眺める。


昨日と何も状況は変わっていない。

でも、世界に色が戻った。

僕は君の死と本気で向き合おうと決めた。


日記に書いてあった文章。

それをなぞろうと思う。

君が何を思っていたのか。

君が何を感じていたのか。

僕なりに探してみようと思う。


湯気の立つコップをもう一度口に運んだ。

そして日記を手に取り、開こうとした。


だが僕は次のページを開くことが出来なかった。

君が少しずつ減って逝くみたいで。


日記を君が座っていた椅子の前に置き、食パンを取り出す。

左手に食パンを持ち、右手で皿を出す。

机の上に皿を置き、パンを置く。

「何ジャムにしようかな...」

冷蔵庫を開きながらつぶやく。

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