転生したらモブメイドになったので、存分に推しを観察します!

芭波 柚希

episode.00 プロローグ

みなさん、元気ですか?星奈です。


なんかこうして話すの、ちょっと久しぶりかも。…あ、いや、話してたのは心の中だけだから、実際に声に出してたわけじゃないんだけど。でも、いつも心の中では彼らのことばっかり考えてたんだよね。そう、彼らっていうのは…私の推し、地下アイドルグループ「Secret Covenant」の5人。誰か一人に決めるなんて絶対無理ってくらい全員が魅力的で、それぞれ違う色があって大好き。


でもね、特にバァル様!あの鋭い眼差しと毒舌…。ああ、思い出しただけで胸が熱くなってきちゃう!


私は、まあ普通のオタク女子だった。おさげ髪に分厚い牛乳瓶みたいな眼鏡をかけた、地味で冴えない見た目で。推しイベントの時だけ、気合い入れてメイクして、少しでも彼らに見てもらいたくて頑張ったんだけど、結局は見えない存在のまま。それでもよかったんだ。だって、彼らは私にとって遠くから見ているだけで幸せになれる存在だったから。


でもね、あの日、私の人生がガラッと変わっちゃった。


彼らのイベント帰り、まだ興奮冷めやらぬまま私はぼんやりと歩いてた。推しの歌声が頭の中にぐるぐる残ってて、足取りは軽かったし、心は彼らのことでいっぱいだった。こんな幸せな日々がずっと続けばいいのにって思ってたんだ。


なのに――


記憶が急に途切れる。次に感じたのは、車のクラクションと体を襲ったすごい衝撃。何が起こったかはすぐに分かったけど、痛みで思考が止まっちゃって。ああ、私、ここで終わるんだな…推しを見守れなくなるんだって。そう思った瞬間、意識が完全に真っ白に消えていった。


そして次に目が覚めた時――そこには見知らぬ天井が広がってた。豪華なシャンデリアが煌めいて、ベッドはふかふかのクッション。周りを見渡すと、アンティーク調の家具が並んでて、まるで映画の中みたいな異国風の部屋だったんだよ。


「ここ…どこ?」


声が出た瞬間、その声に違和感を覚えた。なんか、今までの自分の声と違うんだよね。ちょっと高くて柔らかい響きがする。それに慌てて手を見てみると、これまた自分の手じゃなくて、白くてキレイな手がそこにあったんだ。え、なにこれ?って慌てて鏡を見たら、映ってたのはおさげ髪の地味な星奈じゃなくて、長い髪をおしゃれに結い上げた、清潔感のある寝間着を着た少女。


「え、嘘でしょ…私、転生しちゃった…?」


そう、私は転生していたんだ。しかも、ここでは「ステア」って名前のメイドとして、この豪華な屋敷で働いてるらしい。なにがどうなってるのか、正直よく分からなかったけど、さらに驚いたのは、この屋敷にいる人たち。


なんと、私の推しである「Secret Covenant」の5人が、ここでは執事として働いてるってこと!バァル様、ベル様、ラファエル様、ファス様、杏慈様…彼らが目の前にいるんだよ!執事服をバッチリ着こなして、クールな表情を崩さずに私の前を通り過ぎていくんだ。推しをこんな近くで毎日見られるなんて、夢のよう。息が止まりそうだった。


でもね、どうやらここでも私の存在感は薄いらしくて、彼らは私のこと、まったく気づいてないみたい。まあ、それも仕方ないのかもしれない。私はただのメイドだし、執事として輝く彼らに比べたら影のような存在。でもそれでもいいんだ。毎日、陰から推しを眺めていられるだけで十分幸せだから。


あ、そうそう。転生後の私、めっちゃ有能なんです。メイドとしての仕事もめっちゃ手際よくこなしてて、何でもスイスイ覚えられるチート級。これなら彼らの前に立っても恥ずかしくない…って思っちゃうくらい。


でも、私にとって大事なのは、彼らを陰から見て愛でること。それさえできれば、あとはどうでもいい。これが私の新しい生活なんだし。


さて、これからどんな日々が待ってるんだろう?推しの5人と一緒に過ごす毎日…考えただけで胸が高鳴る。


私、ステアとして、この屋敷での生活、精一杯楽しんでいこうと思います!

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