星界日記

まさか からだ

第1話 感動を忘れた星

 シオンが目を覚ました時、彼の視界に広がったのは灰色の空と無機質な建物の群れだった。そこには風景の一部のように動かずたたずむ人々がいた。表情は皆無で、まるで生気を失ったような目。彼らは歩き、働き、作業をしているが、何かが欠けている。それは、生命そのものの輝き——感情だった。


 「ここはどこだ?」

 シオンは混乱しながら辺りを見回す。そこにいたのは、かつて人間だったかのような存在たち。彼らは言葉も発さず、ただ淡々と動いているだけだ。


 背後から電子的な音が響き、振り返ると、空に浮かぶ巨大な球体——「インフォスフィア」と呼ばれるAI管理システムが彼を見下ろしていた。

 「異星人の侵入を確認。惑星エモナクスにようこそ。」

 それは無機質な声で告げると同時に、彼の身体をスキャンするように光を走らせた。


 「ここはエモナクス……?」

 シオンは聞き覚えのない名に困惑したが、すぐにこの世界が地球ではないことを悟る。この星の人々は、自ら感情を捨てる選択をしたという歴史が、インフォスフィアによって語られる。過去の大戦争や環境崩壊を防ぐため、人々は「感動」を制御する技術を選び取った。結果として平和が訪れたが、その代償は大きかった。感情の消失とともに、この星の人々は生物学的に退化し、かつてあった「翼」を失ったのだという。




 シオンは星の廃墟を探索するうちに、一つの遺跡にたどり着いた。そこには、かつて感情を「エネルギー」として利用する技術が存在していたことを示す古代の記録が残されていた。彼はその中で「エモーションコア」と呼ばれる物質について知る。


 「エモーションコアは、人々の強い感動を蓄積し、エネルギーとして放出する装置だ。それがあれば、この星に感情を取り戻せる……?」


 しかし、記録によればコアは長い年月の間に使用され尽くし、その残骸は宇宙各地に散らばっているという。この星を救うには、それらのコアを回収し、再構築する必要があった。だがそれは容易なことではない。星間を超える旅、未知の惑星、そしてコアを守護する「機械化生命体」たちとの戦いが待っていることは、遺跡の記録が警告していた。




 シオンはエモナクスの一人、セレナと出会う。彼女はかつての感情を微かに覚えている数少ない住民だった。彼女の語る話は衝撃的だった。


 「私たちの祖先は、感情を捨てることが進化だと思っていた。けれど、それは退化だったの。翼を持っていた頃の私たちは、もっと自由で、もっと幸せだった……」


 シオンは、感情を取り戻すことで彼らの翼も再び蘇るのだと確信する。彼自身も、翼を持つ存在に変わる不思議な予感を抱くのだった。




 エモナクスに残る唯一のエモーションコアの断片を探し当てたシオンは、それに触れると強烈なビジョンを体験する。自分の過去の失敗、失われた夢、そして幼い頃の純粋な喜び——全てが洪水のように押し寄せてきた。


 「これが……感動……」


 その瞬間、彼は感じた。自分の中に眠っていた力が覚醒するのを。そして、その感情のエネルギーが周囲の空間を振動させ、遺跡が輝き始めた。


 遺跡の奥深くから出現したのは、巨大な「守護機械」。それはシオンを感情を持ち込む「侵略者」とみなし、攻撃を仕掛けてきた。


 「ここで諦めるわけにはいかない!」


 シオンは自身の感動をエネルギーとして、遺跡の古代武器を起動させた。それは感情と共鳴することで威力を増す武器だった。激しい戦いの末、彼は守護機械を打ち倒し、エモーションコアの一部を手に入れることに成功する。




 「感動はただの感覚じゃない。未来を変える力だ。」


 シオンは確信を持ち、星を旅立つ決意をする。エモナクスの人々に感動を取り戻し、再び翼を持つ存在にするため、彼の壮大な冒険がここから始まるのだった。


 「待っていてくれ。必ず感動の翼を広げて、星々を救ってみせる。」


 空を見上げたシオンの背中には、微かに光る仮初めの翼が映し出されていた。彼はその翼を広げ、次の星へと旅立つ準備を始める——感動を忘れた星々を救うための壮大な旅が、いま幕を開けたのだ。

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