何でも屋鏡虎団 元気に営業中
Lea
第1話
「おい、シャオ準備できてるか」
「ん~できてるヨ」
「…その咥えてる飴出せよ」
「……レイはけちネ」
「お前、それでそのまま行って喉詰まって苦しくなったら俺のせいにするだろ!」
「ふーん、そんなことしないヨ。そんなズルくないネ」
「チッ。おい、ジホ配置についたか」
『ウン。いつでもいいですよ』
「よし、じゃあ、行くぞ」
ここはかつて、最先端の技術で活気あふれていた街、東上洞。
しかしそれも昔の話。
今は海外系のマフィアに占領され、好き好んで近づくものは居ない。
外の世界で落ちぶれた、そんな人間しかこなかった。
高いビルに排気ガスのにおい。
夜になるとネオンが輝き、露出の多い人間たちがどこからか現れ、どこかに消えていく。
レイ、シャオ、ジホの3人は、この街のいわゆる”何でも屋“だった。
今回の依頼は、さらわれた猫を助けてほしいという内容のもの。
いたって簡単で日常的な依頼。
路地裏で待機する、レイとシャオ。
ビルの上から構える、ジホ。
黒髪に長い前髪、青いサングラスで顔を隠しているが、美男子と言える長身のレイが捕獲用の網を構えるさまはどこか滑稽だ。
となりでチャイナ服に身を包み、ピンク色のサングラスをかけた小柄な少女、シャオは胸下まで伸びた三つ編みを揺らしながらねこちゅーるを差し出して猫に近づく。
ビルの屋上には、ブリーチを重ねた金髪のウルフヘアでこちらも長身。茶色いサングラスをかけ、優しく微笑むジホがいた。
「怖くないヨ。わたし、やさしいヨ」
「…自分でいうやつは大概優しくねーよ」
「あ?!レイになにも言われたくないネ!」
「あ、おいばかシャオ!」
「あ!猫!どこ行く!」
シャオが声を荒げると、猫はしゅっとビルを駆け上がる。
レイは迷わず、ビルの上のジホに無線で連絡する。
「おい、ジホ、そっちいった」
『問題ない。見えています。』
猫がジホのもとに来た瞬間、ジホは猫を抱えこむ。
「ニャー!」
「よしよし、心配しないで。ケンチャナ」
ジホが優しく猫をなでる。
少しすると、猫はジホの腕の中で喉を鳴らし始めた。
「レイ、完了しました。」
『さすがジホ!いまそっちいくわ』
「その必要はありません。僕が降りますから」
『それもそうだな。おっけ、待ってるわ』
ジホは猫を抱いたまま垂直にビルから飛び降りる。
音もなくレイたちの横に着地する。
「お~きたか。じゃ、返しに行くか。」
レイがそういうと、二人は頷き路地を抜けていく。
「ん~お前、よく見るとカワイイネ」
シャオが猫の頬をつつく。
猫が大きな欠伸をする。
「ふわぁ、わたしも眠たくなってきたヨ。おい、レイ、おんぶしろ」
「は?やだよ。」
シャオはお構いなしにレイに寄りかかる。
「んだぁ!歩きにくい!」
「じゃあおんぶしろヨ」
「んったく、ほらよ」
「やった~」
シャオは軽々とレイの背中に飛び乗る。
「ん?シャオ重たくなったな」
「あ?なるわけないダロ。殺されたいのカ」
レイの頭にかみつくシャオ。
「ったー!お前噛むことないだろうが」
「レイが失礼だからネ。反省シロ」
「シャオ、お転婆はよくないです。レイ、シャオが重くなるはずはありません。だってシャオは…」
「あーあーわかってるよ、うるせぇなあ。ここには俺の味方はいないのかね」
「レイ、僕たちはいつでもレイの味方ですよ。心配いりません。」
レイはジトっとジホを見た。
シャオは満足そうにレイの背中にもたれかかった。
高架下をくぐると、そこは東上洞の外。
スーツを着た人間がせわしなく歩いている。
学生たちが人気コーヒーチェーン店のカップを手にもち、雑談をしながら雑踏に消えていく。
3人は依頼主の家のチャイムを鳴らす。
中から小太りの女性が出てくる。
「あらぁ、ボタンちゃん、どこ行ってたの~。いつもありがとうね、あなたたち」
「仕事ですから」
ジホがにっこりと微笑む。
「これ、報酬よ、ほら、レイちゃん」
「あぁ、ありがとな。」
「お礼を言うのはこちらの方よ。あっち側に行かれてしまったら私たちのようなものは探しに行けないから…」
「だから俺たちがいるんだろ」
「これからもごひいきに。」
「猫!もう逃げちゃだめだヨ!」
3人は大きく手を振って依頼主の家を後にする。
「ありがとうね、鏡虎団」
依頼主の女性は最後まで見送っていた。
東上洞の中と外を区切る高架下。
壁に大きく
【ここから先、危険につき立ち入り注意】
と書かれている。
電車が通り、風が大きく吹く。
車のヘッドライトに照らされ、3人の揃いのタトゥーと、サングラスが光る。
「今日も一件落着だな」
「腹減った」
「レイ、シャオ、ご飯にしましょうか。なにがいいですか?」
「いや、今日は報酬も入ったし、外食するか」
「え~ジホのご飯の方がうまいヨ」
「…なんだよ人がせっかく…でもまぁ、確かにそうだな。疲れてないか?ジホ」
「僕なら問題ありません。では、今日はレイが好きな肉じゃがにしましょうか」
「お!まじか!嬉しい!」
「え~杏仁豆腐が食べたかったヨ」
「じゃあデザートに杏仁豆腐を作りましょう」
「きゃー!ジホ優しい!」
3人の朝は早い。
起きてすぐに向かうのは、高架下の見回りだ。
「あ~もうシャオ起きろ!」
「むにゃ…無理」
「重いんだよお前!いてっ!」
シャオはレイにもたれてむにゃむにゃしていたが、レイの言葉を聞き、思い切り殴る。
「あ。レイ、シャオ、あれを見てください。」
ジホが先を指さす。
指さす方を見る二人。
そこには、壊れかけたアンドロイドが転がっている。
顔は綺麗なままで、腕をむりやりもがれた跡がある。
「…趣味悪いな」
「気分も悪いヨ」
「同感です。」
3人はアンドロイドに近づく。
『…ご…ごしゅじん…ワタシ…まだ…』
アンドロイドは何とか起き上がろうとする。
「残念だな。俺たちはお前のご主人じゃない」
『‥‥失礼しました…映像認識機能が破損しているようです…』
「レイ、チップは無事のようです」
アンドロイドのうなじを確認したジホが言う。
「…誰にやられた。この趣味の悪い」
『……誰かもわからない相手に話すわけにはいきません』
「シャオ」
「リョーカイ」
レイに言われ、シャオは太ももについたホルダーから一本の線を取り出す。
それをアンドロイドに接続した。
すぐにレイが近くにより、アンドロイドの背中を開く。
「ちょっと失礼するぜ」
レイはアンドロイドの中身を軽く修理した。
「これで、映像が入るようになったはずだ」
レイがアンドロイドの背中を閉じて、軽くたたく。
アンドロイドはゆっくり目を開け、あたりを見回す。
『映像機能が戻っている…感謝します。』
「いいから。なにがあったか教えろ」
『残念ですが…わたしはしくじり全てを失ったのです。もうここで機能が停止するのを待つだけです』
「オイ、ご主人様が危ないらしいヨ」
シャオが端末をいじりながらいう。
『はい?』
「ほら。見てミロ。」
シャオがアンドロイドに端末を見せる。
そこには、高そうなスーツを着た中年男性が縛り上げられている。
『ご主人!!!』
アンドロイドが叫ぶ。
「でも、あなたはその状態では助けには行けませんね。残念です。」
ジホが微笑んで言う。
『…ご主人…申し訳ありません…』
アンドロイドが俯く。
「場所は?」
「この景色は4番街のビルでしょうね」
「ウン。反応も出てるヨ」
3人は立ち上がる。
『??なにを…』
アンドロイドが驚いて見上げる。
レイがにやりと笑う。
「俺たちは鏡虎団。何でも屋だ。悪いが金になりそうな依頼には自分から首を突っ込ませてもらうぜ」
『な…』
「ダイジョブ。任せてヨ。すぐ解決してくるネ」
「報酬は後払いでかまいません」
3人はそういうと、アンドロイドを安全な場所に移し、ビルに向って行った。
「ここか」
「反応はここから出ています。間違いないでしょうね」
3人はビルの前に到着していた。
レイを先頭にビルの中に入っていく。
ジホの案内で、アンドロイドの主人が縛られている部屋まであっという間にたどりついた。
3人は目を合わせ頷き合う。
レイが思い切り扉を開ける。
「いたぞ!」
主人をすぐに見つけ、レイが駆け寄る。
「誰が来たと思えば、子どもか」
奥からでっぷりとした男がタバコをくわえながら出てくる。
「…どこかで見た顔だな、お前たち」
「いつのまにか俺たち有名人だな」
「ふん、ガキが何の用だ。ここは子どもが来るところじゃないぞ。大人の仕事場だ」
太った男はレイに顔を近づけてタバコの煙を吹きかけた。
レイは男から目を離さない。
予備動作もなく男を蹴り上げるレイ。
しかし、横からもう一人男が現れそれを止めた。
「チッ」
「ガキ、わかってんのか?俺に喧嘩を売るということはここらのマフィアに喧嘩を売るってことだぜ」
太った男が言う。
後ろからシャオが飛び蹴りをする。
もろにくらう二人の男。
「お前らこそわかってんのカ?私たちに喧嘩を売るってことはこの街に喧嘩を売るってことヨ?」
シャオが太った男を踏みつけながら言う。
太った男はにやりと笑って
「なんだ、お前、このガキの仲間か?」
「だったらなんダヨ」
「お前、中華製アンドロイドだな。しかも優秀なゼロゴ製…ぐっ」
シャオは真顔で太った男の顔を踏みつける。
「黙れ」
「中華製アンドロイドがなぜ日本人のガキと一緒にいる…」
シャオは太った男の胸倉をつかむ。
「私の判断ヨ。お前に関係ないダロ」
あとからきた男がシャオに殴りかかる。
それを止めたのはジホだった。
「乱暴はよくないですよ。やめましょう」
ジホはにこにこしている。
男の手を掴んだまま、男をひっくり返した。
「大丈夫か、けがはないか」
「…君たちはいったい…」
レイがアンドロイドの主人を拘束から解いていく。
「お前の相棒に無理に話を聞いたんだ。」
「…あいつが…」
「あいつぶっ壊されてたぞ」
「なんだって?!…そうか、きっと私を守ろうとしてくれたんだろう。あいつはそういうやつだ…」
レイが主人をじっと見つめる。
「なにかな?」
「いや、ちゃんとわかってやってるんだなって思っただけだ」
「それは、彼は私が子どものころから一緒だからね」
「ふ、そうか。ちゃんと修理してやれよ」
「もちろん」
レイと主人が話している後ろでは、シャオと太った男、ジホとあとから来た男の戦闘が繰り広げられていた。
レイが主人を背負う。
「おい、行くぞ」
レイが2人に声を掛けた。
「ヨシ!」
「はい」
シャオとジホは返事をして、目の前の男を振り払い、レイのもとに行く。
4人はそのまま部屋をあとにしようとした、瞬間だった。
「逃がすかよ!」
太った男が、大きな銃を構える。
「銃でぶっ壊してやるよ!」
太った男が引き金を引いた。
弾は早くよけきれない。
ジホが3人を勢いよく押した。
ジホの左腕が吹き飛ぶ。
ジホは右手で素早く銃を引き、引き金を引いた。
パン!
広がる煙幕。
4人はすぐにビルから出た。
路地裏で息を整える。
「…君…すまない…私のせいで…」
「ケンチャナヨ。心配しないでください。すぐに治ります。」
「…その腕…」
「そうなんです。僕は実は人間ではありません。僕も彼女と同じアンドロイドです」
「一緒にするなヨ。私は中華製。ジホは韓国製ネ」
「韓国製…ということは…」
みるみるジホの腕が元に戻る。
「はい。自力での復元が可能です。」
「なぜ、君は製造国の違うアンドロイドと共にしているんだ?基本的には自国のアンドロイドとしか契約はできないはずだ」
「俺たち契約はしてないから」
「そんなこと…じゃあなぜこの2人は意思を持っている?なぜ暴走しないんだ」
「私たちは自分の意志でレイといるからヨ」
「契約とは違う、信頼で結ばれています」
「待ってくれ、そのタトゥー…」
主人がレイの首もとに触れる。
次にシャオの手首、ジホの足首を見る。
「あぁ、やっぱりそうか、そろいのタトゥーにそろいのサングラス…君たちが…」
レイがにやっと笑う。
「そう。東上洞のことならなんでもお任せ、何でも屋、鏡虎団だ」
4人は壊れたアンドロイドのもとに戻る。
『あぁ…ご主人…』
「お前…こんなにぼろぼろになって…」
『申し訳ありません、ご主人…』
2人は互いをねぎらった。
「よっと」
レイは大量の金屑を持っていた。
「君、それは?」
主人が尋ねる。
「あ?修理するにきまってるだろ」
「でもこんなになってしまっては…」
ジホが間に入る。
「チップは無事でした。レイはアンドロイドの修理が得意なんです。」
「いつも私たちのこと直してくれるヨ」
主人はレイを見る。
レイは慣れた手つきで、てきぱきと修理していく。
シャオもそれを手伝う。
仕上げは、ジホが行った。
あっという間に元通りになった、アンドロイド。
主人はたくさんの報酬を支払うことを約束し、高架下から出ていった。
「これでしばらくぐーたらできるな」
「お菓子パーティーするネ!」
「太るぞ」
「太りませんよ。シャオはアンドロイドですから。」
「あと女の子に太るとか言っちゃダメって学べヨ」
「何言ってんだ。ふごぉっ」
シャオがレイの腹部に思い切り拳を入れる。
レイの体が半分に折れた。
「お前…この…馬鹿力が…」
「今のはレイが悪いです。反省しましょう」
ジホがにこにこと笑っている。
ジホは扉から外に出て看板をひっくり返す。
【何でも屋 鏡虎団 元気に営業中】
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