通りゃんせ

岸亜里沙

通りゃんせ

「その鳥居とりいはくぐっちゃいけん。おによる」


寐懺山びざんやまふもとにあるボクのむらには、とおりゃんせの鳥居とりいという、じいちゃんたちからかたがれてきた禁足地きんそくちがあります。


むらはずれにあるふるびたおてら鳥居とりいが、とおりゃんせの鳥居とりいとしておそれられ、ちいさい子供こどもよるなど一人ひとりでくぐらないようにと、それぞれの家庭かていきびしくおしえられているそう。


そのおてらには、年老としおいた住職じゅうしょくさんがんでいて、いつもボクたち子供こどもに、にこやかに挨拶あいさつをしてくれており、ボクはそのおてらにそんなにこわ印象いんしょうたなかったけど、でもよるになるとおてらちかくにはだれちかづかないそうです。


だけど小学しょうがくねん夏休なつやみ、ボクは友達ともだちのAくんとBくんさそって肝試きもだめしをすることになり、真夜中まよなかとおりゃんせの鳥居とりいをくぐってみることにしました。


肝試きもだめしの、ボクたちは深夜しんやにこっそりいえ公園こうえん集合しゅうごうすると、意気揚々いきようようあるしました。でもだんだんおてらちかづくと、きゅうかぜつよくなり、えだがバサバサとたたきつけるようにおとらして、ボクたちはビックリしたのをおぼえてます。


「なあやっぱかえらんか?本当ほんとうおにたらどうするん?」

くん不安ふあんそうなこえすと、Aくんわらいました。

「なにビビってん。おまえそんな弱虫よわむしなん?」

「ち、ちがうわ」

くん虚勢きょせいるようにいます。

「とりあえず鳥居とりいまえまではってみよか」

ボクが提案ていあんすると二人ふたりうなずきました。


鳥居とりいまえくと、ボクもAくんもBくん無言むごんになり、呆然ぼうぜん鳥居とりいさきにあるくらな、いし階段かいだんながめました。

昼間ひるまていたおてらとは、まった印象いんしょうちがってえたんです。


「や、やっぱ地獄じごくつうじてるんや」

くんはぶるぶるとからだをふるわせます。

「な、なんだ、これくらい。ふ、普通ふつうのおてらやないか」

くんこわいのを我慢がまんしながらいました。

ボクはふるえているBくんかたきました。

たしかに不気味ぶきみだよ。かえったほうがよさそう」

ボクがうとAくんは、いきなり鳥居とりいほうはししたのです。

「オイラはおまえらとちがって弱虫よわむしやないぞ。境内けいだい賽銭箱さいせんばこに、おかねれてくるわ。そうすりゃおにれんはずや」

「お、おいてよ」

ボクはさけびましたが、Aくん石段いしだんをかけがってきました。


ボクとBくんはあっけにられ、ただ鳥居とりいまえすくんだまま、Aくんもどってるのをちましたが、一向いっこうかえってきません。

「ど、どうしよう。おにわれちまったんじゃ・・・」

くんきそうなこえいました。

「ボク、なかって様子ようすてくる。なにかあったら、住職じゅうしょくさんにたすけてもらう。Bは、だれ大人おとなひとんできてくれんか?たしかこのさき駐在所ちゅうざいしょがあったはずや」

ボクはBくんたくすと、とおりゃんせの鳥居とりいをくぐったのです。


石段いしだんのぼると、ひろ境内けいだいがありました。

四方しほうもりかこまれていて、不気味ぶきみなほどしずかです。

ボクはいきまるかんじがしました。でもAくんさがすため、おてらほうちかづきました。

するとあらいきづかいがこえたんです。

あししのばせ、おとてないようにゆっくりとちかづいて、おてら障子窓しょうじまど隙間すきまから、なか様子ようすうかがいました。

そこにはAくんよこたわっていたんです。

薄明うすあかりにらされたAくんかお血色けっしょくうしない、くびはぐらぐらとれており、Aくんんでいるということがすぐにかりました。


だけどそれ以上いじょうにボクがおどろいたのは、Aくんおおかぶさるようにうごめおおきな物体ぶったい

それはしろ袈裟けさをはだけさせ、Aくんむくろもてあそ住職じゅうしょくさんの姿すがたでした。


ボクはおとつのもおかましに、一目散いちもくさんしました。

「ありゃ、おにや・・・」

石段いしだんをかけりると、そこにはBくんと、Bくんれてきたおまわりさんがっていたんです。

ボクはBくん姿すがた瞬間しゅんかん安心あんしんくずれました。


その、ボクはBくんとおまわりさんにおてら出来事できごとはなしました。

まわりさんは半信半疑はんしんはんぎでしたが、Aくん両親りょうしん連絡れんらくをし、みんなで住職じゅうしょくさんにはなしきにきました。

しかし、おてらなかをいくらさがしても、Aくんつかりません。

まわりさんも、Aくん両親りょうしん肝試きもだめちゅうに、もりはいまよってしまったのだろうとい、だれもボクのはなししんじません。


それどころか、温和おんわ住職じゅうしょくさんのはなしをみんなしんはじめました。


「Aくんはきっとふるえていることでしょう。このもりにはおにむのだと、わたしちちである先代せんだい住職じゅうしょくからきました。わたし協力きょうりょくいたします。むら大人おとなたちもあつめて、Aくんさがしましょう」

住職じゅうしょくさんの鷹揚おうよう口調くちょう威厳いげんあるたたずまいに、ボクもさっきたのはゆめなにかだったのかと錯覚さっかくするよう。

くん両親りょうしんはずっとなみだながしていました。


ですが、みんなでどれだけもりなかさがしても、Aくんつかりませんでした。

そして結局けっきょく住職じゅうしょくさんの行為こうい村人むらびとられることついにありませんでした。


あの鳥居とりいさきには、まだおにひそんでいるのです。

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通りゃんせ 岸亜里沙 @kishiarisa

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