輪廻する蛇
黒猫亭
第1話 蛇は喰らう
燃えさかる火の中に転がる死体
無惨にも斬殺された男達
腕のある者が魔物に立ち向かうも集団に囲まれ為す術なく殺される
そんな地獄が旅人の目の前にある
地獄の始まりはついさっき、3時間ほど前だ。
子供たちは楽しそうに話したり追いかけっこをしていた。
村の女性たちは家事をしながら仕事に行った男たちを待っていた。
そんな時だ。
旅人は旅で訪れていた村の男たちと狩りに出かけていた。
「おい!村の方から煙が上がってるぞ!」
1人の声を聞き全員で村にもどったが遅かった。
既に家屋は燃え子供も女達も手遅れだった。
男たちは怒り魔物に立ち向かった。
最近の魔物は知恵をつけてると言う。
自分より弱そうな男へは1体1
強そうな男は集団で取り囲むなどして魔物は勝っていった。
旅人は旅をしている道中で魔物と戦う機会があったので魔物慣れをしていたが、囲まれながら戦っている時に後ろからの攻撃を食らい気を失った。
────────────────────
「アルベルトさん!アルベルトさん!」
頭の上から俺の名前を呼ぶ声がする。
目を開けると、目の前に焦げ臭い匂いと煙が立ち込め、暗闇の中でかすかに動く影が見えた。頭がガンガンと痛み、体は重くて動かせない。何が起きたのか、状況がすぐに理解できなかった。
「アルベルトさん!しっかりしてください!」
耳元で必死な声が響く。その声に少しずつ意識が戻ってくると、目の前に小柄な少年、アランの顔が現れた。彼は焦った様子で自分の手を俺の顔に近づけ、何度も俺を揺さぶっていた。
「アラン…?」
俺はかすかに声を絞り出した。体を起こすのは痛みがひどくて無理だったが、アランは無理にでも俺を支えようとしているのが伝わった。目を凝らすと、アランの顔に焦りと恐怖が入り混じっているのが見て取れた。
「村が…魔物に…」
アランの言葉は震えていて、簡単には続かなかった。俺の頭はまだうまく働かない。それでも、村の状態や今の状況を何とか理解しようと必死に考えた。
少しずつ、記憶が蘇る。村に戻ったとき、家屋はすでに火に包まれていたこと、男たちが魔物に立ち向かっていたが、その多くが倒されていたこと…。あの時、俺は戦いながらも不意を突かれて倒され、意識を失ったのだ。
だが、何よりも鮮明に記憶に残っているのは、村の人々の悲鳴と、炎の中で焼ける家々の中に残った無惨な死体たちだ。
「アルベルトさん、無事でよかった…!」
アランが涙ぐんで俺の顔を見つめていた。その目には、恐れと共に、俺に対する感謝の気持ちがこもっていた。
「ありがとう、アラン。お前が助けてくれたんだな?」
俺はなんとか声を振り絞った。アランは軽く頷くと、そっと俺の肩を支えて立ち上がらせてくれた。
「でも、まだ終わってません…!村が…!」
その言葉に、俺の視界が再びはっきりとし始めた。周囲を見回すと、黒煙が空を覆い、焼け落ちた家々が遠くに見えた。火は今も勢いよく燃えており、村のすべてが破壊されていることを物語っていた。
「魔物はどこだ?」
俺はゆっくりと足元を確認しながら立ち上がり、アランに問いかけた。彼は指を震わせながら、村の西の方を指さした。
「そ、そっちに…まだ残ってます。僕、怖くて…でも、あなたなら!」
俺は息を呑み、アランの言葉を聞いた。どうやら、魔物たちはまだ村の近くにいるらしい。
「分かった。お前はここで待ってろ。」
アランは激しく首を振り、俺の腕をしっかりと握った。
「いや、僕も行く!一緒に戦う!」
その言葉に、俺は少し驚いたが、すぐに頷いた。彼の決意を無視することはできない。
「分かった。でも、無理はするなよ。俺が行く方向を見失うなよ。」
アランは力強く頷くと、俺の背後にピッタリとくっついて歩き出した。
村の外れに向かって進んでいくと、あちこちで魔物の気配が感じられた。明らかに、人間にとっては圧倒的に不利な数だ。だが、俺が今まで培ってきた戦闘の経験と、蛇の能力があれば、何とかなるかもしれない。
しかし、その時だった。
「こっちだ!」
突然、黒い影が我々の目の前に現れ、鋭い牙をむき出しにして襲いかかってきた。最初はただの魔物だと思ったが、その身にまとった魔力の量に、俺は思わず息を呑んだ。
こいつは普通の魔物ではない…!
その魔物は、一般的な魔物とは違う異様な魔力を放っていた。確かに、この強さを持つ魔物ならば、村があれだけ壊滅的な状況になったのも頷ける。
「アラン、後ろに下がってろ!」
俺はすぐにアランを押し退け、魔物との距離を取ろうとした。しかし、魔物は素早く反応し、俺に向かって鋭く爪を伸ばしてきた。魔物の爪が迫ってくる。その瞬間、思わず目を閉じ、体が硬直した。だが、何も起きなかった。爪が振り下ろされる音も、風を切るような感覚もなく、ただただ静寂が続いた。
その代わりに、頭の中でかすかな声が響いてきた。
「助けが欲しいか?」
その声は不思議なもので、まるで空気に溶け込んでいるようでありながらも、明確に感じ取れる。
その声に反応して、思わず口を開く。
「助けてくれ…!」
その言葉が口から出た瞬間、右手のひらに異変が起きた。突然、手のひらに熱い感覚が走り、皮膚がひんやりとした感触を覚えた。次の瞬間、手のひらから不明な力が解き放たれた。
その力が目に見える形となり、蛇の幻影のようなものが現れ、ゆっくりと伸びていく。目の前に現れたその蛇は、まるで生きているかのようにうねりながら魔物に向かっていった。蛇の幻影は黒い煙のようなもので、しなやかに、そして圧倒的な速さで魔物に迫った。
その蛇のような幻影は魔物の左腕に巻きつき、まるで獲物を捕らえるようにその腕をぐるりと絡めた。そして、まるで生きた蛇が食らうかのように、左腕を食いちぎる瞬間、魔物は叫び声を上げ、激しく暴れ始めた。
「な、何だこれは…!」
魔物は自身の腕が無くなるのを感じたのだろう。痛みに呻き、血を噴き出しながらその場で必死に暴れているが、蛇の幻影は一切容赦しない。どんどん魔物の腕を食らっていき、魔物はその巨体を震わせていた。
その蛇の幻影は、魔物の体を包み込むように動き、まるで蛇が獲物を飲み込むように、魔物の左腕を完全に喰らい尽くしていった。出血したのだろう。その瞬間、魔物は力を失い、倒れ込むように地面に崩れ落ちた。
俺の手のひらにはまだ熱を感じていた。まるで蛇が存在していたかのように、右手のひらから湧き出した熱量は収まることなく、ただひたすらに魔物を喰らい続けていた。
「これが…俺の能力?」
自分の右手を見つめ、再び幻影の蛇が消えた後の静けさに包まれると、頭の中であの声が響いた。
「そうだ、お前は蛇の力を宿している。」
その声に少しだけ驚きながらも、心の中で不安が湧いてきた。今の力がどこから来たのか、どうして俺の手からあんな力が湧き出たのか、全く分からない。だが、今はそれを考える暇もなかった。
アランがその場に駆け寄ってきて、俺の顔を見上げた。
「すごい…アルベルトさん、あなた本当に…!」
その目には、恐れと同時に敬意が込められているのが分かった。俺はその目を見つめ返し、息を整えながら彼に答えた。
「…俺も、まだ何が起きてるのか分からない。ただ、助けたかっただけだ。」
その言葉と共に、魔物の倒れた体がまだ動いているのを確認した。体が震えているが、もはや反撃する力は残っていないようだった。
「俺の仕事はまだ終わっていない。アランを助けるために、魔物を片付けないと。」
その言葉をアランに伝えると、彼は何も言わずに頷いた。少しだけ息をつき、俺は手のひらを見つめる。蛇の幻影が消えた後の不安定な感覚がまだ残っていたが、それでも次に進むべき道を見定めなければならない。
「まずは、全員食べようか。」
そう言いながら、俺は一歩を踏み出した。
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