勇者になった俺の仕事は性的搾取されること 〜おい待て見せるなこっちに来るな〜
夜葉
第1話 真面目な娘さんだ
俺が召喚された世界は、終わっていた。
なにもかもが終わった世界によく分からないまま勇者として召喚された俺の日常は、生き残った人類の復興の手伝いをして回るというもの。
そして今日訪れたのは、マテリアル大陸の片隅にある小さな村、アーシュ村。
大陸の中心となる王国に関しては、かなり時間はかかったが、多少なりとも街と言える程度には復興された。そんな王国と周辺の集落に繋がりを持たせることが俺の仕事なのだ。
しかし、元々国の技術やらに頼ってこなかったからだろうか。あたりを見回しても、特別な異常は見当たらなかった。
おそらく、文明崩壊前から変わったことは何も無い。
下手に国との繋がりを持たせるよりかは、このままの体形を維持させた方が良いか? いや、それでも外部からの人間が来なければ、いずれ人口に限りが出るだろう。依存しない程度に交流をさせるのが一番良いか。
「姉ちゃん、見てよ! 門の上登ったー!」
「危ないよー! 降りてきなよー!」
ふと、そんな子供達の声が聞こえてきた。
そちらを向くと、そこには俺が先程潜ってきた門。この村は周辺が簡単な柵で囲われており、出入りできるのはあの門一つだと決まっていると、俺は解釈していた。
ただ、門番のような警備員は誰も居ない。少なくともこんな辺境の村を襲う者は誰もいないし、村の脅威と言えばモンスターくらい。それに関してもここら一帯はかなり平穏と言えるし、警備にそこまで力を入れていないのだろう。
「あっ!?」
「あーちゃん!」
突然の小さな悲鳴。俺はすぐさま駆け出し空中の彼をキャッチする。
「大丈夫ですか?」
「……え? う、うん」
「あーちゃん! 大丈夫!?」
彼を降ろすと、姉であろう彼女がすぐさま身体の隅々を確かめ始めた。
そして、こちらを向いてお辞儀をする。
「あーちゃんを助けてくれて、ありがとうございました!」
「ました!」
うん、教育は行き届いているようだな。これなら学校なんかを作る必要もなさそうだ。
「構いません。これからは気を付けてください。ところで一つお尋ねしたいのですが、村長はどちらにいらっしゃいますか?」
そこでようやく、俺が来客だということに気が付いたらしい。彼らは戸惑ったように顔を見合わせた。
外から人間が来るなんて、想像もしてなかったのだろう。俺をこのまま案内しても良いのか悩んでいる、というところ。
「えっと、こっちです!」
っと、案内してくれるのか。他の大人に声をかけるべきかと思ったが、先程助けたことで信頼されたのかな。
そうして案内されたのは、小さな小屋のような家だった。日本だとワンルームくらい。
「この家に、村長は住んでます」
彼女は扉をノックする。
「はーい」
……女性の声?
俺が疑問に思っている内に扉が開かれ、現れた彼女と目が合ってしまった。
「……あの、お名前を……」
名前か。俺は名前とかそういうの捨ててるし、ずっと役職で通していたからなぁ。まあ、いつも通りで良いか?
「始めまして。マテリアル王国から来ました、勇者です。そのまま勇者とお呼びください」
「は、はい。村長の娘で今は代理をしている、錬金術師のナギです……えっと、国の役人さん? ってことで良いんでしょうか」
「その認識で構いません」
警戒はされるか。ナギさんの瞳が戸惑いでいっぱいになっている。
これも予想はしていた。外部からの人間を警戒するのは当然のこと。ファーストコンタクトも堅苦しいものだったし。
まあ、変にフレンドリーにするのも怖いだろうし、とりあえず真面目そうだということが伝わればヨシだ。
「この人、さっきあーちゃんを助けてくれたの。だがらお話聞いてあげて」
「そ、そうなんですね! それは村民がお世話になりました! えっとお話しないといけないし……ひとまず上がってください!」
あーちゃん姉弟を帰し、家に上げてもらう。
座敷を勧められたので大人しく座り、ナギさんはテキパキとお茶を用意してくれた。
……湯呑み、か? それもかなり上質な。この村もできて長いだろうし、力を入れている技術の一つや二つ、あってもおかしくはないが……
「……あっ、美味しい」
「そ、そうですかね!? ありがとうございます! ……コホンっ! 私、何かを作ることには自信があるので」
そう言ってようやく微笑んでくれた。間違った対応ではなかったようでなにより。
「そういえば、錬金術師だと、おっしゃっていましたね。これも錬金術で?」
「湯呑みだけ、ですけどね。お茶も作れますが、わざわざ調合するよりも、普通に淹れた方が早いです」
「俺はそれほど詳しくは無いですが、それなりには労力がかかるんですね」
錬金術……確か、古代の技術にあったっけ。王国ではそんな力を持っている者が居なかったので、全ての素材を一から加工していたが……この村、実はかなり優秀なのかもしれない。
「それで、王国の勇者? さんがどうしてこちらに?」
「はい。単刀直入に申し上げると、王国との交流関係を持っていただく為に伺いました」
「交流、ですか? どのようなお考えがあるかは分かりませんが、この村と交流したところで利益があるとは思えませんが」
「利益の話ではないのです。ナギさん、確認の為にお聞きしますが、少し前に、人類の文明が滅んだことは、ご存じですか?」
その問いかけに、ナギさんはしばらく黙り込み……
「……え?」
っと、返答された。
「やはり、ご存じなかったのですね」
これも、外部との関係を殆ど持っていないと聞いて、予想はしていた。
「えっと、どういうことですか? 滅んだって、私達ここに居ますよね?」
「はい。生き残りも居ます。ただ、この大陸全ての国は消滅しました。現状大陸に存在する国は、マテリアル王国ただ一つ。その国民達も全て、元はただの放浪者です」
「し、知りませんでした。この村から一番近くにあるマテリアル王国でさえも、そんなことになっていただなんて」
「仕方がありません。その噂を伝える人間が居ないのですから」
これで、世界が今、どれだけ危ういかということは、伝わっただろう。
「さて、本題に戻りましょう。先程申し上げた通り、利益の問題ではありません。俺は、言うなればただのボランティアです。俺がこのような提案をする理由はただ一つ。何かあった時に助ける為」
「何か、というのは、文明が崩壊するような何かってことですか?」
「否定はしません。ただ、我々人類も気づいたんです。今は争っている場合じゃない。どこの誰とだって、協力していくことが必要だって」
「……そうですね……我々にも危険が迫っているのは事実、理解できない何かが世界に起こっているのかも……分かりました。今後どのような活動をしていくかは分かりませんが、我々アーシュ村一同、マテリアル王国に協力することをお約束いたします」
「ありがとうございます。こちらも有事の際は、全面的に力をお貸しすることを、お約束いたします」
思いのほかすんなりいって良かった。彼女、若いがしっかりしているし、そもそもここで断るメリットがないことに気が付いたのだろう。王国と村。変に拗れるよりかはこの場で受け入れた方が安全だという判断だ。
「それで、具体的に何をするかは決まっているのでしょうか」
「そうですね……ひとまずは、この村に迫っているという危機に対応します。お話、聞かせていただけますか?」
「……良いんですか?」
「それが仕事ですので」
少し躊躇ってはいたが、話すだけは話そうと考えたらしい。ナギさんは一つ咳払いをして、決意を固めたように口を開いた。
「最近、神様に襲われるようになったんです」
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