二
ごうごうと白い焔が燃え盛った。真っ白な焔に焼かれて、黒い影が「ギャッ」という潰れたような声を上げる。あまりにもその声が耳障りで、焼け焦げて炭のようになったその影を、ぐりぐりと靴の踵で念入りに押し潰す。
どうにも、妙な塩梅だ。そんなことを思っているのは、自分ひとりなのだろうか。
「おい、どうした」
「いや……」
一度思考に囚われると、考えすぎてしまう。それが自分の悪い癖であることは分かっているが、一度生まれた疑念というものはそうそう消えない。
妙だ。
「妙だ」
思ったことが、口をついて出た。
「妙?」
「ああ、妙だ」
まばゆい白い光の中で、黒い影が
あれは、人か。あるいは、獣か。どちらにせよ既に命のないものだ、どちらであってもこの先でやることに変わりはない。
曇天の空の下、白い焔が発する光はよく映える。分厚い雲の垂れこめるこんな日は、影にとっては這い出てくる絶好の
やはり、妙なのだ。
「〈
あの影は、死者のものだ。
「〈
「まさか」
〈骸ノ影〉は、彼岸より来たる。此岸を木とするのならば、彼岸はそこから続く根のようなもの。そこに君臨するは腐敗の女王と言われているが、その姿を見た人間は此岸にはいない。
けれど、分かっていることはある。そんなものは、神話を紐解けば明白だ。
「あいつらの欲しいものは変わらないのにか?」
彼らは女王の欲するものを欲している。迎えに来たというのに、「見ルナ」と告げた禁を破って逃げ出して、それでも未だに「欲しい」と言うのか。
ざわりざわりと木々が揺れた。いつもならば
「だが、これは……明らかに、何か」
火を放つ。影が焼ける。
どこか
「おい、見ろ。何だ、あれ……!」
分厚い黒灰色の雲が、割れる。差し込んだ光はまさに天へと続く
あれは、鳥か。いや鳥にしては大きくて、そしてそのシルエットが明らかに鳥のものではない。翼はあれども、その姿は明らかに鳥ではない。
車輪か、それとも目玉か。ぎょろりとしたいくつもの目が、こちらを見ている。
「あれは……!」
天から、火が降り注ぐ。車輪のもの以外にも、大きな四つの顔に翼がある、しかもその顔は人とそうでないものが複雑に混ざったような――つまり、『異形』と呼ぶしかないものだ。
けたけたと〈骸ノ影〉が笑っている気がした。
――ひをころせ。
――てんにありしひをころせ。
声が聞こえる。ざわざわとざわめくような、足元を何かが這って行くような、そんな吐き気を催すような声だった。
「おい! 〈
声がする。
声がする声がする声がする声が――ブツンッ。
そして〈岩戸〉は閉ざされた。
永劫の夜がやってきたと、そんな歓喜の声がした。
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