第9話 アルマと初めての助手

 初仕事の翌朝、アルマが仕事の開始を知らせるために玄関に看板を立てに行くとそこにはすでに来客が一人待っていた。

 その人物にアルマは見覚えがあった。

 こぢんまりした体格、燃えるような赤髪にジグザグのアホ毛、そしてその体格に不釣り合いなほどに自己主張する大きな胸。

 そんな強烈なビジュアルを忘れるはずがなかった。


 「おはようございます。貴方は確か、えーっと……シャロンさん」

 「おはよう魔術師殿。覚えていてくれて光栄だ」

 

 アルマが挨拶をするとシャロンは嬉しそうに挨拶を返した。

 シャロンの背には昨日復元した大剣がむき身でマウントされている。


 「今日はどうしたんですか?」

 「昨日の礼をしに来た。場所を改めたいからついてきてくれないか」


 シャロンは依頼の謝礼のためにここを訪ねてきていた。

 どうやらその内容はここではできないことらしく、アルマに同行を求めている。

 アルマはそれに応じることにした。


 「マスター、少し外出してきます。昼ぐらいには戻ると思いますので」

 

 アルマはマリーに一言断りを入れるとシャロンについていった。


 「魔術師殿に直してもらった剣はすごい性能をしていた。私がどれだけ振り回しても壊れないし、今まで作ってきたどんな剣よりもよく斬れる」


 道中、シャロンは剣のことをアルマに語った。

 彼女は昨日アルマと別れた後に剣の性能を試したところ、彼女の力に耐えうる耐久性と並みある剣を凌駕する斬れ味を持ち合わせていたことが判明したのである。

 そんなものが蔵の中で風化して眠っていた事実にアルマは驚かされるばかりであった。


 「着いたぞ魔術師殿。ここが我が家だ」


 シャロンに案内され、アルマがたどり着いたのはシャロンの実家であった。

 そこは鍛治職人の家系のイメージとは裏腹にこの街にはありふれた形をした普通の家であった。


 「ここでお仕事してるんですか?」

 「まさか。工房は別に持っている」


 アルマの疑問にシャロンは当然のように答えた。

 家と仕事場が直結しているアルマにとって家と職場が別で存在していることは新鮮に感じられた。


 「ただいま。魔術師殿をお連れしたぞ」


 シャロンは自宅の玄関を開き、アルマを招き入れると家族に帰宅を伝えた。

 するとシャロンの家族が家の奥からぞろぞろとやって来る。

 依頼の謝礼はまさかの家族ぐるみのようであった。


 「お初にお目にかかる。俺はガレオ・スカーレット、シャロンの父にしてこの町で鍛治を営む者だ」

 「同じく。ミスラ・スカーレット、シャロンの母です」

 「ステア・スカーレットっス。シャロンの兄で親父と一緒に鍛治やってるっス」

 

 シャロンの家族は口々にアルマに自己紹介を重ねた。

 ガレオとステアはシャロンと同じ赤髪だが体格は屈強な大男、シャロンとは似ても似つかない。

 一方でミスラは髪色こそ茶髪だが背丈はアルマと同程度で胸は娘と同等レベルまで主張している。

 どうやらシャロンの外見的特徴は父親に、体格は母親から似たようであった。

 それと同時にこの両親からなぜこんな小柄な子が生まれるのかとアルマは疑問を抱かずにはいられなかった。


 「父上、剣について魔術師殿に説明を」

 「おう。魔術師殿、先日復元していただいた剣についてお話しさせていただきたい」


 シャロンに促され、ガレオは話を切り出した。

 

 「今シャロンが持っているこの剣は我が家の何代も前の先祖が鍛え上げたものでな。古今東西の鋼を混ぜ合わせて何度も打ち直した代物だ」


 ガレオは大剣の正体についてアルマに明かした。

 その剣はシャロンたちのかつて先祖が作り上げたものだという。


 「昨夜こちらでも調べてみたんだが、ここまで精錬するためにはざっと二十年はかかる。おまけに材料も今や手に入らないときた」


 ガレオが語る剣の正体にアルマは戦慄した。

 精錬だけで二十年だが実際は材料となる鋼の錬成だけでもさらに時間を費やしている。

 一つの剣を作るためだけに魔術もなしに二十年以上の時を費やすことは執念を通り越して狂気としか思えなかったのである。


 「通りで俺たちが作るのより性能がいいわけだ。ガーハッハッハ!」

 「す、すごいものなんですね……」


 アルマは『笑っている場合じゃないだろう』と突っ込みたくなる気持ちを抑えて相槌に徹した。

 作った当事者はすでにこの世にはおらず、作り方も残されていない。

 現代の子孫もお手上げということは剣を直せるのはこの町にはアルマしかいないということに他ならなかった。


 「そんな剣を復活させてくれたお礼と言ってはなんだが、うちのシャロンを魔術師殿の助手として使ってやってはもらえないだろうか」


 ガレオは唐突に謝礼の内容を言い渡してきた。

 それはシャロンをアルマの助手としてつけるという提案であった。


 「えっ、ええーーーっ⁉︎」

 「どうやってお礼をしようか考えたのですが、まさか蔵から出てきたものがこんな代物だとは思いもよらず、修理費はとてもお出しできませんし、かといって夫と息子は鍛治の仕事を離れられませんから……」


 ミスラは口を開き、謝礼の内容がそこに至った経緯を語った。

 確かに先祖が作り上げた狂気の産物の復元に必要な費用は計り知れない。

 親子で仕事を手放すこともできないため、娘であるシャロンにアルマに尽くさせることにしたのである。


 「魔術師殿は力が必要なことは増えてであろう。うちのシャロンなら遠慮なく任せられる」

 「俺たちが言うのもなんスけど、妹は家族の中で一番力が強いんス。それこそ剣を扱えるのはこの子ぐらいっスから」

 

 ガレオとステアはグイグイとシャロンを売り込んでくる。

 予想外な展開にアルマはどんどん断りにくくなっていく。


 「剣の心得もある。魔術の支度から魔術師殿の護衛までなんでも任せてくれて構わないぞ」

 

 当のシャロン本人も乗り気である。

 押せ押せな雰囲気にアルマはとうとういいえと言えなくなってしまった。


 「そ、そこまで仰るのならお言葉に甘えて……」


 アルマはシャロンを助手として迎え入れることにした。

 本来であれば魔術師の助手は魔術師が務めるのが一般的である。

 だが見たところシャロンには魔術の素養は見受けられなかった。


 「これからよろしく頼む。魔術師殿」

 「よろしくお願いします、シャロンさん。あとボクの名前はアルマですので、これからは名前で呼んでいただけると……」

 「ではこれからはそうさせていただこう。アルマ殿」


 こうしてアルマは相手の家族公認で初めての助手を持つことになったのであった。

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