4700キロの外遊なんてやりたくねぇ
雨宮新内閣には、総務や法務、外務、防衛といった、日本にもある省庁の他に、王室省と魔法省、幻獣省があった。それぞれ、原、片岡、護が担当することになった。
秘書によると、王室省は、この世界における王室の維持管理、及び王室に関する儀式や保護、継承するために設立されたそうだ。
魔法省は、この世界における魔法の研究、教育、利用の規制を行うために設立されたらしい。しかし、魔法が使えない片岡が省庁のトップでいいのかと疑問に思ったが、国王は「しゃーないやろ。お前らしかおらんねんから」と、関西弁にも聞こえる口調で一蹴してきた。
そして、幻獣省は、この世界に住む幻獣や神秘生物の保護と研究をするために設立されたらしい。しかし、その生物たちは危険なため、街中には姿を現さないらしいが、それはこの省が維持管理しているらしい。
護は、若干怯えていたが、国王に「やれよ」と睨まれ、渋々了解していた。
雨宮は、これらの十四の省庁のトップに立った訳であるが、その責任の重さを痛感することになる。
太陽が傾き始めた頃。雨宮が部屋でのんびり王室典範を読んでいた時、秘書がやってきた。
「総理、隣国の魔王ヒーライが別の国であるアメンホーム王国を滅ぼしました。かなり高い関税をかけて、デフォルトに陥れたそうです。それで、関税を払えなければ、食糧を渡さないと言って、属国にさせました」
無茶苦茶な内容だった。雨宮は、そんなことあり得るのかと、再び訝しんだが、どうやら官邸や国会ではこの話題が取り沙汰されており、かなり問題になっているようだ。
「でも、そんなこと言われても、どうしたらいいかわからねぇんだけど」
「総理。一刻も早く魔法とスキルを手に入れてください! こんなに、鈍臭い内閣は初めてですよ!」
癪に触ったが、この秘書は雨宮たちが日本という国から来たということは知らないので、再び怒りを抑えて言った。
「そうは言うけどね、呪文が長すぎるんだよ」
「仕方ないですね。じゃあ、この王国の果ての果てにあるブヘヘ村に行ってください。そこに、呪文を脳内にインプットしてくれる賢者がいます。彼に会って、強制的に脳内にインプットしましょう」
「いやいや、ちょっと待て! まず、そんなことができるなら早く言ってくれ! それから、ブヘヘ村だっけか? どこにあるんだよ」
明らかにネーミングセンスに欠けるブヘヘ村は、ここから四七〇〇キロメートルほど北に進んだところにある村だそうだ。
「いやいや、遠すぎるだろ。何か、新幹線とかはないのか?」
「新幹線? なんですかそれは」
「高速鉄道だよ。時速三〇〇キロで走る電車」
「あのね、総理。ここは魔法世界ですよ? そんな科学文明の結晶みたいなものなって発達してないんです」
「は? てことは飛行機もないのか?」
「ありません。徒歩です」
四七〇〇キロメートルを徒歩で行くなんて、聞いたこともない。
「あり得ない! 絶対歩けないから!」
「いやいや、総理。他の皆さんは行く気の方もいますよ」
「嘘だろ? 誰だよ」
「林農林水産大臣、福本官房長官、片岡魔法大臣らです」
「いやいや、嘘だろ。なんでだよ」
「皆さん、この国の代表になったからには、徹底的にやって早く終わらしたいと言っております」
確かに、早くこの世界から帰りたいのは同意できるが、四七〇〇キロメートルも歩くなんてとんでもない。
「ちょっと、確認する」
「一時間後に来ます」
そう言って秘書は、すぐに部屋を辞した。雨宮は、スズメを呼び出し、林、福本、片岡に手紙を出した。
すると、三人見事に行くと言ってきた。
「まじか……。あいつらやる気だな」
雨宮は、それから全員を会議室に呼び出した。四七〇〇キロメートルを歩くかどうかと言う閣議で、反対五、賛成十一で、可決された。
もちろん雨宮は反対したし、高齢である大財、勘解由小路、車田、国破も反対だったが、他の若い連中が賛成に回ったのだ。
五人は絶望の顔をして、その結果を見ていた。
林や杉林は、この世界をもっと見てみたいと言い、森川は、いっちょやってやるかと調子に乗り、大場はみんながいるならと異口同音に、やる気に満ちたようなことを言っていた。
雨宮には、若さというのは恐ろしいと再認識した。雨宮も、比較的若い方ではあるのに。
それから、雨宮の秘書が会議室にやってきて、いつ出発するのかを確認し合った。
出発は、明朝。日が昇る頃に出発するとのこと。国民には、外遊として発表する。
まさか総理が、魔法も使えないからブヘヘ村に行きますなんてことは、発表できないからだ。
それに、この雨宮内閣で魔法を使える大臣は一人もいない。
半数が壮年を迎え、残りもまもなく壮年に差し掛かる内閣に、呪文の暗記なんてものは、不可能に近かった。
高尾は、歩くことは好きと言っていたが、雨宮は四七〇〇キロメートルも歩けるのかよと内心毒づいた。
大財は、杖が欲しいと言い、車田は膝が痛くならないように、湿布をたくさん用意して欲しいと言い、堂前と福本は日焼け止めを多めに用意していただけたらと、秘書はその文句の多さに慄いていた。
この日、旅程を確認し合い、早めに床についた。
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