第11話 か弱き者の力
「リックのバカーーー!」
叫んだソフィアが矢を放った空気を切り裂きながら矢が一直線に飛んでいく。
目をつむり集中するソフィア、彼女髪が一瞬だけ青白く光ると、矢にも青い光が宿る。リックの目に光が届かない暗い下水道を、青白く光る矢が飛んでいくのが見えた。
「ギィヤーーーーーーーー」
暗闇の中を走っていた青白い矢の先端が一瞬だけおぞましい魚のような魔物を照らす。肉が切り裂かれ硬いものに者が刺さる音がして、直後に魔物の断末魔が、こだまするのであった。
「ふぅ…… もう大丈夫ですよ」
「いっ今って……」
ソフィアがリックの方を向いて笑顔を向けた。何が起きたのか、わからないリックが彼女に尋ねる。
「雷の矢ですよ。私は魔法が得意って言いましたよね。ほら行きますよ!」
前を指さして、矢が向かった先に、行こうというソフィアだった。彼女は雷の魔法を、矢に付属させてはなったのだ。二人の視線が矢の飛んだ先に向かう。水路をしばらく歩くと、人型で槍を持ち、全身が鱗のおおわれ、尻尾が生えた魚の顔の魔物サハギンが、頭を射抜かれて水路にぷかぷかと浮かんでいた。槍を持ったまま浮かんで死んでいたサハギン、ソフィアの矢が速すぎて一瞬で頭を射抜かれたから、槍が手から離れなかったようだ。
「ソフィア、こっこれは?!」
「この魔物から攻撃の気配を感じたので…… 危険を感じた場合は魔物駆除をしても問題ではありませんから!」
「(えっ!? 嘘だろ……)」
振り返るリック、矢を放った場所から、ここまで少なくとも五十メートルは離れている。驚きで声がでないリック…… 視界がほとんどなく、臭いや水の音が激しいこの場所で遠くのモンスターの気配と殺気を感じ、ソフィアは正確に頭を射抜いたのだ。とてもじゃないが
「ふぇ! そうだ! サハギンさんも西門付近で発見と……」
「ははっ…… だから魔物にさんはいらないんじゃ」
笑顔で書類を書きだしたソフィア、リックは笑顔を引きつらせながら、彼女に口を開くのだった。寂しそうに水路に浮かぶサハギン、リックは今後ソフィアを、怒らせることをしないようにしようと固く誓うのだった。
「じゃあ行きましょうか」
書類を書き終わったソフィアが先に進む。サハギンを倒した場所から少し移動して、リック達は一個目の救命ボックスに到達した。救命ボックスを開け中身を確認し補充を始める。
「じゃあ、ポーションを五個、毒消しを三個…… あと雷の粉を二個…… 入れといてください」
「そういえばこの数とかアイテムの種類ってなんかで決めてるの?」
「魔物調査結果をもとに冒険者ギルドとの会議で決めてるらしいです! 会議には毎月隊長が出席してますけど詳しくは私も……」
ソフィアが顎に指をあて上を向きながら答える。補充するアイテムは、冒険者からの希望もあるため、防衛隊単独で決めているわけでないようだ。
「たまに冒険者ギルドの人が仕入れたアイテムを入れといてくれってきますね。武器とか店売りのとかでも入ってると冒険者の集まりが違うみたいですよ。うちは予算が決まってますから高いものは買えませんしね」
「集まりって…… なんか虫みたいだね」
「後はたまに盗賊さんが盗んだものを隠したりしてるみたいですよ。その盗品を冒険者より早く私たちが発見すると持ち主を探す仕事が発生します」
「へぇ。下水道っていろんなことがあるんだね。うん!?」
ソフィアが両耳に手を当ててしきりに何かを気にしだした。彼女の行動にリックは首をかしげる。
「リック。こっちに来てください」
「えっ!?」
リックの袖を引っ張り、ソフィアはリックを壁際へと連れて行く。二人は壁に背中をつけた姿勢で、水路を見つめている。
「あれ!? 水が……」
「メリッサさんとイーノフさんはやっぱり仕事が早いです」
水量が徐々に減っていき、今までは、深くて底が見えなかった水路の水が、十センチほどの深さに変わっていた。これは別行動の中のメリッサたちが、水門をもどしたためだ。
「もう大丈夫です。それじゃあ救命ボックスにアイテム補充しながら通路の戻し作業も始めますよ」
「はーい……」
これから二人は下水道の通路戻し作業に入る。この作業は水門を戻してからじゃないと、先に通路を戻しても流されたりするため、水門の作業が終わってから行う。地図で印をつけた場所を確認して橋とか、橋としてかけている板が壊されたり外されてないかを確認していく。
「あれ…… ここは板がないな」
地図を見ながらリックがつぶやく、地図で水路に板がかかっている場所に、板がなかったのだ。
「リック! あそこです! 板がありますよ!」
「本当だしょうがない、入りたくないけど……」
ソフィアの視線の先に目を向けるリック、外れた板が少し先の水路で下水管に引っかかっていた。リックはそーっと水路に足を入れて歩き始める。足をいれると、水路の底がブーツを履いてても、ヌルヌルとして、気持ち悪いのがわかる。水はリックの足首くらいのところまで、だがヘドロが足にからみ動きづらい。
「臭いし歩きづらい…… 早く終わらせよう」
リックは転ばないように慎重に板がある場所まで移動する。下水管に引っかかった板を拾いあげる。ドロドロに汚れた板の感触にリックは思わず顔をしかめる。
「ソフィア。お願い」
「はーい」
二人は印の場所に板をもって来て、ソフィアにはじを持たせ、支えてもらって反対側に板をかける。
「うん!? リック向こうから殺気がします。気を付けてください」
「えっ!? わかった」
水路の少し先に視線を向けたソフィア、先ほどと同じように素早く弓を構え矢を放つ。
「キィヤーーーーーーーーーーーーーーー」
断末魔と一緒に、リックの足元に下水とは違う、色の緑色の液体が流れてくる。
「えっ!? くそこの水位の浅いところ泳いできたのか!?」
バシャーーッという音がして、リックの一メートル先の水の中から、サハギンが現れた。
飛び出してきたサハギンは、三つ又の槍を突き出して彼の心臓を狙う。とっさに左半身を引いて、体を斜めにするリック、彼の胸当てを、こすりながら槍が通過していく。サハギンは悔しそうな顔をした。リックは左手で、その槍の柄を掴むと勢いよく引っ張った。槍を引っ張られたサハギンは急な体重移動で、前のめりになった。リック右手で剣を逆手に持って鞘から、引き抜きながら前に出る。
前に出たリックはすれ違いながら、逆手に持った剣で、サハギンの右わき腹を斬りつけた。リックの右手に緑色の返り血がかかり冷たさを感じる。リックはサハギンの背後へと回り剣を振り上げすぐに振り下ろす。剣はがら空きのサハギンの背中に向かって行く。
リックの右手に硬く重い感触が伝わった。リックの剣はサハギンの背中に突き刺さり、剣先が胸から飛び出した。リックは体の向きを変え、サハギンの背中を左手で押しながら剣を引き抜いた。シューーーーーーという液体の噴出する音と、水面に物体が叩きつけられる音が、ほぼ同時に響きサハギンが水路に倒れた。
「大丈夫ですか? リック!」
矢を手にもってソフィアが、心配そうに水路に降りてきた。
「大丈夫だよ! ありがとう。まさか二体で襲ってくるなんて……」
「でもリックすごいです! サハギンリーダーをあっという間の倒しちゃいました」
「うん!? ソフィアだって矢で一撃でしょ!? すごいよ」
「違いますよ! これを見て下さい!」
ソフィアが指をさしたのは二体のサハギンで、一体はリックが倒したサハギンで、もう1体は頭に矢が刺さっていた。矢が刺さったのはソフィアが倒したサハギンだ。二人は似たような姿をしているが……
「ほら私が倒したサハギンとリックの倒したサハギンでは頭のとさかみたいなヒレの色が青と緑で違うますよね!?」
「ほんとだ?! 俺の倒した方が緑だ」
サハギンの頭のヒレの色は、群れでの地位を表しているらしく緑は族長だ。族長はその群れで一番強い個体で、頭のヒレが緑の族長サハギンは通常サハギンリーダーを呼ばれていた。
「さすがにサハギンリーダーは弓矢の一撃では倒せないです! でもリックはあっという間でした。やっぱり素敵です」
「そっそうか!? へへ、ありがとう! でもソフィアが最初にサハギンに気づいてくれたり、助けてくれたからだよ」
「えっ!? 私はリックの役に立ちましたか!? やったーーー!」
ソフィアが笑って喜んでいる。可愛い笑顔にリックは自分まで嬉しくなった。その後、二人は何度か魔物襲撃にあったが救命ボックスと通路戻し作業を終えた。たが、ソフィア出口へは向かわず、下水道にあった扉の前でノックをした。
「どうしたの? ソフィア、ここは?」
「ふぇぇ! リック! ここはいつも下水管理で最後によるところです」
中からひげを生やした中年男性が出てきた。彼はソフィアを見ると嬉しそうに笑った。
「あっこれは防衛隊の皆さま! ごくろうさまです」
「こんにちは。行商人さん。はい! いつものです」
「ありがとうございます。これでここで商売を続けられます」
「はい。よかったです」
中年男性は丁寧にソフィアに礼を言って、リックにも頭を下げていた。袋を彼に渡し二人は出口へと向かう。
「ソフィア? あそこは? なにを渡してたの?」
「あっはい、行商人さんは……」
ソフィアの説明によると、あの人は旅の行商人で、王都で道に迷って下水道に入ってしまった。だが、冒険者や勇者がひっきりなしにくるので商売が順調にいった。そこでそのままあそこに店を開いているらしい。冒険者や勇者によって通路が変えられることが頻繁にあるので、下水道管理の時に仕入れや食料や水の差し入れを、防衛隊が代わりにやっているという。話を聞いたリックがつぶやく。
「なんか、俺たちはやること多いんだね」
「ふぇ!? 町の平和を守るのは大変ですよ! でも、さっきの行商人さんが、少し前から魔物が騒いでるのが気になるって……」
「そういえば、俺たちもサハギンに襲われたしな」
「大丈夫ですよ。もう作業は終わりましたから! 帰りましょう!」
階段を上がってリック達が下水道を出た。二人が扉を出た、半地下の階段の先には、イーノフと大の字で寝るメリッサが居た二人は先に戻っていたようだ。戻って来た二人に慌てた様子でカルロスが声をかけて来る。
「おっ! 帰ったか、早速で悪いんだけど、さっきある勇者が下水道に侵入してね。行方不明らしいんだ」
「えっ? でも、人なんて見ませんでしたよ?」
「それがな、水門操作に巻き込まれて流されたみたいなんだよ。これから僕たち第四防衛隊で下水道の捜索を開始することになった」
「えぇ!? やっと戻って来たのに…… はぁぁ」
カルロスの言葉にリックはため息をつくのだった。戻ったばかりのリック達は、再び下水道に入って勇者の探索を行うことになった。
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