幽霊令嬢
◆
――学院に入学したばかりの放課後の教室で――
「幽霊令嬢が来ているみたいよ?」
(幽霊令嬢?)
その名を耳にすることになる。
幽霊令嬢 マリア・エーデルワルツ。
この学院の創始者であるマリアンヌ・エーデルワルツの孫。
学院には ほとんど登校しておらず、その見た目により『幽霊令嬢』と呼ばれている。
(……幽霊令嬢ね……)
好奇心にそそられて その姿を見るため、放課後の教室を出た。
噂によれば、彼女は2年生で美術部に所属しているとか。
階段を下り、一階の美術室の前で足を止めた。
(さてさて、どんな子なんだろう? 面白い子なのかな? 寂しがり屋な子なのかな? それとも不気味な子なのかな? ひと目 見るだけで呪われるという酷い噂もチラホラあるし、興味がそそられるわねぇ……配信の良いネタになりそう)
ぺろりと唇を舐め、わずかに扉を開ける。
――その瞬間、隙間から凍えるオーラを感じて身震いした。
硬直する身体をほぐすため、すーはーと呼吸を整え、気を落ちつかせ、扉の隙間から瞳をのぞかせる。
「幽霊……令嬢?」
長い白髪で、車椅子に座りキャンパスに絵を描く彼女の姿は、まさしくその名にふさわしい。
――妖しく薄幸で朧げ――
呪われるといった噂が出てもしょうがないと思える。
でも、あたしが感じた印象は真逆だった。
――美しい幸運の女神――
感動とドキドキで、時が止まったようにキャンパスで絵を描きつづける彼女の真剣な横顔を見続けた。
描き終わったのか、彼女は筆を止めてじっとキャンパスに描いた自分の絵を見つめていた。
「――ッ!」
彼女の碧の瞳と、隙間からのぞくあたしの瞳が重なった。
美しい美貌に心臓がドックンドックンと高なる。
にっこりと微笑んだ彼女の姿に、あたしは初めて一目惚れというモノをしたかもしれない。
「あ、あたしと……友達にならない?」
いつのまにかあたしは、美術室のドアを開けて彼女の前に立っていた。
「え?………よ、よろしくお願いします……」
あたしの生涯の親友ができた瞬間だった。
誰もいない美術室でお互い見つめ合い。
「私の名前はマリア・エーデルワルツです。あなたは……?」
「こ、幸ノ鳥千花です……」
………………………。
気まずい沈黙が流れる。
(な、なにか話題、なにか話題……そうだ!)
あたしは顔を引き攣らせ――。
「vtuberで誰が一番好き?」
(ばかぁぁぁぁ! あたしのバカ――!)
自分の言った言葉に後悔し、心の中で涙する。
(え〜〜ん! あたし、なんて話題を出してるのよぉぉ……。どうせ決まってるぅ。『愛ノ原はっぴぃ』に決まってるぅ……。え〜〜ん。あたしの生涯の親友に、アイツの名前を言われたら泣いちゃうよぉ〜。え〜〜ん)
「黒条切華さんです」
(え〜〜ん。やっぱり、え〜〜ん……んんっ!)
「 ええええええええッ! 」
ビックリして大声を上げてしまう。
「い、いまなんと……? なんと言いましたか?」
戸惑うあたしに、にっこりと告げる。
「黒条切華さんです」
「〜〜〜〜〜〜っ」
あたしは天国の存在を初めて信じた。
――そのとき、彼女がキャンパスに描いていた『絵』が瞳を焦がす。
そこには――超人気vtuberが描かれていた。
華麗で美しく儚い。この夜に存在する黒夜の薔薇。
黒条切華がそこには描かれていた。
(おい、黒条切華ァ! おまえが描いてあるぞぉぉ! うらやまっ――って、あたしじゃん!)
どうやらあたしは頭がおかしくなったようだ。
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