第4話 冒険者パーティ
そして翌日。冒険者ギルドに来た俺は思いもしなかった事態を前に啞然としてしまった。
「え、子供は冒険者登録できない?」
「うん、そうなんだよ。冒険者って、君が思っている以上に危険な職業なんだよ。だから、もっと大きくなってからまた来てね」
冒険者ギルドの受付のお姉さんはそう言うと、眉を下げて俺に笑みを浮かべていた。
なんだろう。このお姉さん、可愛い子どもを見るような目を俺に向けている気がする。
もしかしたら、俺が冒険者に憧れてやってきたただの子供にしか見えていないのかもしれない。
マズいな、まともに取り合ってもらえないかもしれない。俺はそう考えてぐいっと前のめりになって、真剣な顔で続ける。
「そこをなんとかできないですか?」
「え? うーん……保護者がいてくれれば、サポーターとしてなら登録はできるかな」
「ほ、保護者ですか」
俺はお姉さんの言葉を聞いて静かに頬をかく。
名前も家もない俺に保護者なんて存在がいるはずがない。つまり、保護者になってくれる人を探すことから始めなくてはならないみたいだ。
それに、保護者がいてもサポーター扱いになるとのこと。
正直、色んなネット小説を見てきたが、サポーターが良い待遇を受けるなんてことはほとんどない。
そして何より、誰も知らない少年の保護者をしたいなんて人はいないだろう。
これは……かなり長期戦になる気がするな。
「これは参ったな。完全に盲点だった」
俺は冒険者ギルドから出るなり、ため息を吐いて顔を俯かせた。
最強のモブNPCに転生したのではと思ったのだが、まず冒険者としての登録ができないのではどうしようもない。
他の作品なら、ただダンジョンに潜るだけなら冒険者として登録をしなくてもいいかもしれないが、本作は違う。
この世界のダンジョンは街が管理しているものが結構ある。
そして、この始まりの街から一番近くにあるダンジョンは、この街が管理しているダンジョンなのだ。
街が管理しているダンジョンには、基本的に冒険者しか入ることが許されていない。
つまり、俺がこの街を拠点としてダンジョンに潜るためには、なんとか冒険者として登録をすることが必要不可欠になってくるのだ。
「そのためには、サポーターになるしかないかぁ。でもその前に、なんとか保護者を見つけないとな」
俺はそう言いながら、俺の前を横切っていく大人たちに視線を向ける。
……知らない少年の保護者をやってくれる人なんか見つかるのか?
「ん? あっ」
俺がキョロキョロと辺りを見ていると、俺の近くを一人の男が通り過ぎていった。
右腕にある大きな傷跡があるのを見て、俺はその人物が昨日絡んできた男であることに気がついた。
何やら肩を落として気落ちしているみたいだ。
「もしかして、財布を落としたからか? おーい!」
昨日は緊急事態だったから男の財布からいくらか使ってしまったが、全額使ってしまうのは悪いし返しておくか。
そう考えて男に声をかけながら近づいていくと、男は俺の声に気づいて振り返った。
「っ!」
「あ、あれ?」
そして、男は俺の顔を見るなり顔をしかめて逃げるように走り出した。
え、なんで逃げるの?
俺は訳が分からなくなりながら、逃げる男に財布を届けるために走り出した。
「はー、はーっ」
「ほっ、ほっ」
「はーっ、はーっ」
「ほっ、ほっ」
「ぜーっ、ぜーっ……っ」
それからしばらく街の中で男と追いかけっこをしていると、以前男に会った時と同じ路地裏に入り込んでしまった。
そして、昨日と同じように疲れた男は膝に手をついて息を荒くしていた。
「お、おまえ、どれだけスタミナあるんだよ」
「え? あ、そっか」
全く疲れないから気づかなかったが、結構な距離を走っていたのか。
それにしても、スタミナが無尽蔵って凄いな。正直いつまででも走っていられそうな気がする。
俺が汗もかかずに男の息が整うのを待っていると、男は汗だらけになった顔を上げた。
すると、男は諦めるように深く息を吐いてからいきなり頭を下げてきた。
「す、すまなかった! 本当に昨日はどうかしていたんだ!」
「昨日って、俺に絡んできたときのこと?」
本来なら敬語を使うべきなのかもしれないが、昨日いきなり絡まれた関係ということもあって自然とため口になってしまった。
俺がそう考えていると、男は顔を上げて気まずそうに続ける。
「ああ。まさか、子供相手にあんなことをしてしまうとは……それに、あの時もさっきも逃げ出してしまった。くそっ、どんどん心が弱くなっていくな」
男は悔しそうに右腕の大きな傷跡を左手で掴んでそう言って、眉間にしわを寄せた。
あれ? この人、自分が妖気に当てられていたことに気づいていないのか?
俺が目をぱちくりとさせていると、男はまっすぐ俺を見ながら続ける。
「やってはならないことをした自覚はある。罪を滅ぼすためなら何でもさせてもらおう」
「いや、何でもなんてそんなーー」
そして、俺はそこまで言いかけて、今抱えている問題を思い出した。
俺は少しだけふむと考えてから、妙案を思ついて口角を上げる。
「本当に悪いことをしたって思ってる?」
「も、もちろんだ」
「まぁ、本当なら憲兵に突き出されてもおかしくないしね。子どもを刃物で襲ったとなれば、この街で生きていくのも難しいんじゃないかな」
俺は演技がかった口調で続けると、男の顔が徐々に青くなっていった。
俺はそんな男の表情を見て、笑みを深めてから続ける。
「じゃあ、その罪滅ぼしとして、俺と一緒に冒険者になってもらおうかな」
「え? 冒険者?」
「そう。今日から俺たちはパーティだ。よろしく頼むよ」
俺がそう言うと、男は目を丸くしてしばらくの間固まってしまったのだった。
ただ冒険者登録時の保護者になってもらうだけでは物足りない。
サポーターという不具のポジションでどこかのパーティに入るのはできれば避けたい。それなら、俺に借りのある奴とパーティを組めばいい。
それなら、サポーター職だからといって差別されることもないだろう。
こうして、俺は登録に必要な保護者とパーティメンバーの確保の両方を無事得ることになったのだった。
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