始まりの街にいるモブNPCに転生したら最強でした。 ~モブ過ぎてステータス全て『未定義』。ダメージを受けない仕様なので、反動ダメージありの高火力呪物と原作知識で成り上がる。

荒井竜馬

モブNPC 呪物とダンジョン探索

第1話 モブNPCの可能性


「ここは初級冒険者の街だよ」


 俺は新たに街に入ってきた男にそう言って笑みを浮かべる。


 それから、左手を置いている立て看板をちらっと見る。そこには、『始まりの街、ロルン』と書かれてあった。


 俺は視線をすぐに男に戻したのだが、すでにそこにいたはずの男はいなくなっていた。


 ……。


 すると、今度は二人組の女性が新たに街に入ってきた。俺はこれまでと変わらないように笑みを浮かべて続ける。


「ここは初級冒険者の街だよ」


 そして、立て看板をちらっと見てから視線を女性たちに戻すと、女性たちは俺を気にすることなくスルーしていった。


 ……。


 それから、しばらくすると今度は同い年くらいの少年が焦った様子で走ってやってきた。俺は先程と同じように笑みを浮かべる。


「ここは初級冒険者の街――」


「危ない!」


 ゴチンッ!


 少年が俺にそう叫んだ瞬間、ひどく鈍い音が聞こえた。


 倒れていく中で見えたのは、俺の頭に当たって跳ねている硬そうなボールだった。俺は何とか踏ん張ろうとして、左手を置いていた立て看板にしがみつく。


 バキッ!


 すると、今度は体重をかけたせいで立て看板がへし折れてしまった。


 そして、俺はそのまま踏ん張ることができず、立て看板の上に倒れ込んだ。


 バキャッ!


 ……。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


 すると、俺に『危ない!』と叫んできた少年が俺の顔を覗き込んできた。


 俺はこれまで通り変わらない笑みを浮かべ、言葉を続けようとする。


「ここは初級冒の――初級――冒険者のーーん?」


 俺はどう見ても二次元にしか見えない少年の顔を見つめながら、ぱちぱちっと瞬きをする。


 それから、俺は上半身を起こしてあたりをキョロキョロと見渡す。


 タイル張りの街とレンガ造りの建物が並ぶ街並み。そして、少し離れた所には噴水があったりしていて、全体的に落ち着いた中世ヨーロッパのような街並み。


「どこだここは? ん?」


 すると、何か看板のような物を潰していたことに気がついた。じっと看板を見てみると、そこには『始まりの街、ロルン』と書かれていた。


「『始まりの街、ロルン』って、『月夜に浮かぶ乙女の魔法』に出てくる街だよな?」


 俺は前世でやり込んだゲームのことを思い出して、ふむとそう呟く。


 人気エロゲRPG、『月夜に浮かぶ乙女の魔法』。


 ただの紙芝居ゲーと言われるエロゲではなく、キャラクターの育成などもできるRPG色が強いゲームだ。


魔法と剣の世界でありながら、僅かに和のテイストも入っており、その世界観が受けて日本だけではなく世界中で大ヒットとなった。


主要キャラだけでなく、モブキャラのバックグランドも丁寧に描かれており、二次創作でも人気のコンテンツとなっている。


 そして、なぜか俺はそのゲームの始まりの街にいる。


「確か、仕事が終わって久しぶりに『月夜に浮かぶ乙女の魔法』をプレイしていて……そのまま寝落ちしたのか」


 勤怠上は完全週休二日制なのに、三十連勤+残業をしてフラフラで帰宅してから、久しぶりの休みを前に学生時代にやっていたゲームをプレイして、色んな感情を思い出して泣きながらゲームをして数時間。気絶するように寝た記憶が直近の記憶だ。


 俺は現状とよく読んでいたネット小説の展開を重ねて、あっと小さく声を漏らす。


「これって、異世界転生? ゲーム世界に転生するって言うパターンの奴か? ということは、明日から会社に行かなくていいということに……お、おお、うおっしゃー!!」


 俺はガッツポーズをして勢いよく立ち上がると、大きな声で叫んでいた。


 嫌味な上司もいなければ、過度な労働時間に身を削られることもない。そこから解放されたというだけで、監獄から脱出したかのような爽快な気分になれていた。


 それも、転生先は俺が学生時代にやりつくしたゲームの世界の中。主要キャラじゃなくても全然やっていける自信がある。


 最近は悪役貴族に転生するって言うのが流行っているらしいから、転生先が悪役とかでもいいなぁ。


「えっと、君大丈夫? 頭打ったみただけど」


 俺が満面の笑みを浮かべていると、俺の顔を覗いてきていた少年が戸惑い気味にそう聞いてきた。


 この少年、俺よりも背が高いな。見た目七歳くらいの少年よりも小さいって、俺何歳なんだろ?


「頭? いや、なんともないかな」


 俺はそんなことを考えながら、少年に言われたことが気になって頭を軽く撫でる。そこで、俺はさっきまでこの体に起きたことを思い出した。


 なんか硬いボールをぶつけられて、その後に立て看板に後頭部を打ち付けてたよな?


 普通なら大けがをしていそうなものだが、いくら触って確認してみても頭にはこぶも傷も一つもなかった。


どういうことだ?


「大丈夫ならよかった! 本当にごめんね!」


 すると、その少年は深く頭を下げて、またどこかに走っていってしまった。


 いや、無邪気なのは結構だが軽すぎないか?


 俺はそう思いながらも少年相手に強く言えるはずがなく、遠ざかっていく後ろ姿を眺めることしかできなかった。


 それから、俺は辺りを見渡してから小さく頷いて噴水に向かった。


 とりあえず、転生後の定番としては容姿の確認とステータスの確認だ。


 俺は小走りで噴水へと向かうと、少し身を乗り出して噴水の水に映る自分の姿を確認した。


「ん? んん⁉」


 そして、俺はそこに映る自分の顔を見て驚きの声を漏らした。


 『始まりの街、ロルン』には、同じテキストを繰り返すだけのモブNPCがいた。


 他のNPCはふざけて武器で攻撃するとダメージが入るのだが、そのモブはいくら攻撃してもダメージが入らない少年として有名だった。


 俺自身もモブNPCを無理やり街の外に連れ出して爆撃したり、崖の上から突き落としたりして、なんとかダメージを入れようとしたのだが、全くダメージを入れられなかったのを覚えている。


そして、その噴水にはその有名なモブNPCを、そのまま子供にしたような姿が映っていた。


 つまり、俺はただ街の紹介をするだけのモブNPCに転生したということになる。


「いやいや、モブ転生にしてもモブすぎないか?」


 どんなキャラに転生してもいいとは思っていたが、ここまでモブになるとは思っていなかった。


 俺は早くもつまずきそうな展開を前に表情を硬くした。


「い、いや、まだ落胆するのは早い。このモブNPCだって、高ステータスとかチートスキル持ちの可能性もある!」


 俺は自分を言い聞かせるようにそう言うって、きゅっと拳を強く握る。


 そうだ。異世界転生なら転生特典とか、訳分からん何かがもらえているのが定番だ。きっと俺もその恩恵を受けれるはず!


 俺はそう考えて小さく咳ばらいを一つしてから、異世界転生の定番フレーズを口にする。


「『ステータス』……へ?」


 すると、何もない所に小さなウインドウが現れた。そして、俺はそこに書かれていたステータスの数値を確認して、間の抜けた声を漏らした。


 そこには次のようにステータスの情報が書かれていた。



『名前 -(未定義)』

『ジョブ -(未定義)』

『レベル -(未定義)』

『攻撃力 -(未定義)』

『防御力 -(未定義)』

『素早さ -(未定義)』

『スタミナ -(未定義)』

『HP -(未定義)』

『MP -(未定義)』

『スキル -(未定義)』



「み、未定義? え、魔物にダメージを与えられないってこと? ていうか、名前も未定義なのかよ」


 俺は想像もしなかったステータスを前に眉をひそめた。


 いくら物語に全く関りがないと言っても、ステータス未定義はさすがに手を抜きすぎだろ開発者!


 俺は誰にぶつければいいのか分からない怒りに悶えながら、頭をバリバリと掻いた。しかし、そこでふと重要なことに気がついた。


「いや、まてよ。HPも未定義ってことは……魔物からもダメージを受けないってことか?」


 俺はそう考え、またステータス一覧に目を通した。


 確かに攻撃手段はないが、この世界では装飾品や武器などで攻撃力を上げることができる。あくまで、現時点では攻撃力がないと言うだけで、攻撃面は今後手に入れるアイテム次第でどうとでもなる。


 それよりも、注目するのはスタミナとHPが未定義という点だ。数値が0だったら何もできないが、未定義ということはもしかしたら無尽蔵なスタミナとHPを持っているということなのかもしれない。


「もしそうなら、転生特典チートなんかよりも、全然チートなんじゃないか?」


 もしかしたら、主人公や悪役なんかよりも転生先として当たりなのかもしれない。


 俺はそう考えて静かに口元緩めるのだった。



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