ゆうかいのオレンジ
@konue
プロローグ
荒廃した大地が広がっている。ただただ平面が続く世界。無機質な風が砂を巻き起こす世界。
そんな命が尽きた空間の真ん中に、ポツリと壊れかけの建物が建っている。
壁も屋根も無い建物の残骸の上で、黒髪の少年は自分より一回り小さな体を抱きしめていた。そこに激しい感情はなく、こぼれ落ちた砂のようにサラサラと消えていく錯覚に陥っていた。
「ブラッド」
ブラッドと呼ばれた黒髪の少年はゆっくり体を離し、目の前の小柄な少年を見た。相手は着ている白のニットがくすんで見えるほど純白の髪を揺らし、ゆるゆると笑みを浮かべている。ブラッドもつられて微笑んだ。
真正面から向けられる双眸はどこまでも澄んだ青で、このまま吸い込まれて消えることができたらどれだけ楽だろうとブラッドは思う。
「ふはっ……」
ブラッドの笑い声は平坦な大地に響き、風に掻き消された。
十日前。
乖(カイ)が目を開けて一番最初に見たのは、悲しいほどに無機質で真っ白な空間だった。
体は何本もの管に繋がれて鈍痛を引き起こし、怠さで動かそうという考えは起きない。一日のほとんどを座った状態で過ごしているせいだと思ったけれど、時間が経つにつれ乖は自分の体には常に鎮静剤や安定剤など様々な化学物質が投入されていると知った。
いつからこんな風に過ごしてるんだっけ。
乖はぼんやりとした頭で考える。考えてはその内容はフワフワと宙に消えていった。思考して何かに気づいてもどうせ何もできないのだ。
最初は悲しかったり怖かったりした気がしたが、いつの間にかそういった感情の起伏は無くなり、心の中は平べったくつまらないものになってしまった気がする。
こんな冷たい人生に、自分が生きる意味があるのだろうか。
乖は消えていった数多の記憶の中に、大切なものを置いてきたと感じていた。それが何なのかわからないけれど、とても悲しくて切ない。
もし思い出すことができたら生きる理由を見つけることができるのだろうか。
(きっと無駄なんだろうな)
乖が諦めの細い息を吐いた時、どこかで大きな爆発音が聞こえた気がした。
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