第9話 憂いた顔が…

ある夜、ふと目が覚めると隣に彼女がいなかった。


「翠…?」


真っ暗なリビングでスマホの光だけ見えた。


テーブルの上を見た。

コップとスマホがあるだけ。

念の為中身を飲んだ。


(…大丈夫、水だ。)


額と顔に手を当てた。


(…大丈夫。生きてる。)


口に耳を当てて、背中に手を当てた。


(…生きてる。大丈夫。)


さらに念には念をで、流しも見に行った。


薬の殻は無い。

捨てた痕跡もない。

ほっと胸を撫で下ろした。


いつからだろうか。

翠と居るとこれが普通というかつね


逆もしかり。


彼女からする僕もそう。


ただ僕の場合は家を出る癖がある。

それで何度も迷惑や心配をかけた。


危ない事も何度もあった。

目が覚めると病院にいたことも。

入院を免れたのは彼女のおかげ。

お互いがお互いを支えてるから今がある。


でも僕の場合は少し違う…。

堕ちてる彼女を見ると…興奮する。


彼女の憂いた目に興奮して、

そのまま首を絞めてキスして…。

その時の彼女はされるがまま。

そんな無力な彼女もたまらなく好きで…。




ある時、「そういうやり方って嫌じゃないの?」って聞くと、


「別に。その時は何も考えてないから。」と答えた。


「首締められてるの知ってた?」と聞いたら、

「なんとなく。でも別に嫌じゃないからいい。」

「あれ、普通の時にやったらどう?…どうって言うか、試してみる?」

「嫌。」


一応彼女の為に言うが、機嫌が悪いわけではない。普段から口数が少ない。でも優しくて可愛いくて綺麗だ。そこだけは何度でも言いたい。


それはいいとして、なぜ彼女が嫌がるかと言うと、


「あれは、ああいう時だからいいの。普通の時にしたらやり返すから。」


僕が一瞬嬉しそうな顔をすると、


「…嬉しそうな顔して。…おいで。」


僕はまた嬉しそうな顔して彼女の腕の中に包まれた。


「鼻の下伸びすぎ。」

「だって。おっぱいが…。」

「いつもの事でしょ。」

「……生きてる。」

「心臓の音する?」

「する。」

「暖かい。」

「翠も暖かい。」



僕たちは包んで包まれて、なくてはならない相手になってきた。


でもやっぱり…憂いた彼女がとても魅力的に映っていた。


「翠…その顔、好き。」

「本当にあんたも物好きね…。」


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