第6話 夜のデート
──────ある夜、彼女と行き当たりばったりデートに出かけた。
たまに僕が思い立ったかのように、
「…みぃちゃん、デートしよ!」と目を輝かせて言う時がある。
そういう時は、予定が何も無くて彼女の体調が比較的いい時。
「行く?支度するから待ってて。」
そういう時の彼女はどこか嬉しそうでワクワクしてるのが伝わってくる。
化粧してる時に最後に必ず僕に聞く。
「ねぇ、侑くん、今日はどの色がいい?」って。
出会った時からそうだった。
香水も、時計も、ブレスレットも、口紅もバックも全部僕に選ばせた。
「翠はどれにしたい?」と聞いたことがあった。その時彼女は、「決めて欲しい。」とだけ言った。
そうやって彼女が言う時ってその言葉が凄く重く感じる時がある。
嫌な意味じゃなくて、僕に『預けてる』感じがある。
以前何かのタイミングで、「旦那さんにも決めてもらってたの?」と聞くと、
「1~2回聞いたくらいかな?『自分で決めろよそれくらい』って言われてに出かける気も失せて…。でもあたしその時まだ若くて可愛かったから『そっか、聞いた私が悪かったんだ』って。」
「鬱じゃんそれ。引き金。」
「そう、そういうのが積み重なってあいつはあたしに
「翠はね…本当はめちゃくちゃ可愛い女なのにね。折角一緒に居れるのにそれを知らない男が勿体ない。」
「…そう言ってくれるのはあんただけ。」
その時、彼女の目は少し潤んでいた。
でも何せ強がりな女。笑いながら泣いていた。
そんな感じで僕が翠の口紅の色や毛先を巻くのか巻かないのか、バックの色、靴はどうするか…そういうのも決めてから出かける。
でもいつからかそれも楽しくなって、いつからかふと気付いたのが、既に『プレイ』とういうか、『精神的コントロール』が始まってるということ。
僕の『見つめたい』『見つめられたい』『触れたい』『触れて欲しい』『撫でたい』『撫でて欲しい』『ヒールで撫でて欲しい』…等々の僕の溢れ出てくる欲を彼女はどこかで感じ取ってくれているんだと思う。彼女は今までの
ドアに鍵をかけた後は呼んでいたタクシーに乗るか、車で行くか、歩きで行く。その時によってバラバラ。
ご飯を軽く食べたり、最初から飲みに行ったり、なんならコンビニで買い込んでホテルに行ったり、はたまた噴水のある公園で水掛け合ったり。
そう…僕は、彼女を笑顔にするのが好き。
それが僕の使命だとも思う時がある。
初めて会った時の彼女は凍っていた。
暫く会わな時期があって、
彼女がご主人と永遠の別れをして、
また少し時間が空いて…。でも裏で僕が動いてかなり短い時間で出てくることが出来た。
なにせ、彼女はDVを受けていた。
何度も死の淵にも追いやられていた。
助けたくても助けられなかった。
彼女がご主人に依存してたから。
よくあるやつだ。
でもどこかで思ってた。
いや、虎視眈々と狙っていた。
『奪い返してやる』と。
出会った頃は背中には何も無かった。
その後だ。
でも、彼女が背負う赤目の虎も舞う桜も、腕の牡丹も全て美しくて…。
彼女そのものが欲しかった。。
だから僕は…
沢山の夜を費やして彼女を傍に置いた。
だから僕らにとって夜のデートは特別な物。
夜は特別な時間。
彼女は僕にとっての月の光…。
美して白くて優しくて…。
「翠…今日も月が綺麗だね。」
「そうね。」
「翠みたい。綺麗。」
「あたしはあんなに綺麗じゃない。」
自らの右手を見つめる彼女。
その手を取ってその手にキスをする。
「お前は美しい。この手は俺のもの。お前のものじゃない。お前は美しい。お前の目に焼き付いたものは辛いことかもしれない。でもな、そのお前さえ俺は美しいって思う。…俺ね、ずっとお前が欲しかった。俺と別れたあとの色んなものを背負ったお前が欲しくて欲しくてたまらなかった。だからもういいんだよ。お前は今、目の前の俺に、この俺だけにその命を使え。いいか?」
彼女は月の光の下で声を上げて僕の腕の中で抱えていた全てを吐き出した。
そんな彼女も美しくて…。
「翠…めちゃくちゃにしていい?ごめんな。泣いてていいから。泣いてるお前を犯したい。」
彼女は僕の膝の上に来て唇を重ねた。
「…幸せ。…ねぇ、このままあたしを殺して。」
「いいよ。」
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