エピローグ


 大興奮の体育祭から一夜明け、残すところ二日となった今際ノ祭。

文化祭の初日は、正午きっかりに幕を開ける。未だ色めき立つ生徒たちをよそに、私たちオカルト研究部はこれまでと同様、三人で部室にこもって、催しであるお化け屋敷の最終チェックに勤しんでいた。


「土野くん、BGMとSEに問題はないか?」

「はい、入退場のときに流れる音楽と、女の悲鳴。それから鏡の割れる音と……入場者が持ってる明かりが勝手に消えるときの吐息の効果音ですね。どれも問題ないです」

「よし、仕掛けの方はどうだね、祢津くん」

「バラバラに動く手足、入場者が血まみれに映る姿見、喋る女の生首。あとは天井から落ちてくるマネキントラップ……仕掛けも全て誤作動なし」

「よし! 我輩も外装を完成させたぞ! なんとか間に合わせることができたな!」


遡ること五日前、私たちオカ研の催しは「お化け屋敷が妥当だろう」という結論に至った。しかし、オカルトが絡むと歯止めが効かなくなる部長の悪癖――特に「こだわり癖」と「はりきり癖」によって、その制作は難航を極めた。


「我々のこれまでの体験を振り返れば、生半可なものに仕上がるはずがない。ヒモに括り付けられたコンニャクなどという子供だましは絶対に使わん! 本気でいくぞ!」


「世界一怖いお化け屋敷を作る」そんな言葉をスローガンに、私たちはリレーの練習の合間を縫って、ああでもないこうでもないと議論を交わしつつ、構想を練り続けた。

そうして、部室の窓際に山と積まれた机を並べて道を作り、その道中には三人が満場一致で怖いと思う仕掛けの数々を設置していった。

 そして、文化祭開幕の二十分前に、ようやくそれは完成した。

部室の扉……私たちがほぼ毎日捻っているドアノブには、血まみれになった手がくっついており、その上には部長が制作した看板……血文字で「オカルト研究部 お化け屋敷」と書かれた看板が、でかでかと掲げられていた。


「我輩は今……いや、この感動は、どのオカルトにも喩えられんな……」


 目を輝かせながら呟く部長を見て、私は「オカルトが絡みさえすればこの人も学校行事の一体感を楽しめるんだな」と思い、なんだか嬉しくなった。

実際、この五日間は本当に厳しい日々だった。日暮れまでリレーの練習で走り回り、筋肉痛に悲鳴を上げる身体に鞭を打って、お化け屋敷の制作に励んだのだ。

三人で必死に作り上げたものが、文化祭の開始に間に合い、これから多くの人を震え上がらせる……そう考えると、感動もひとしおだった。いつもクールな祢津さんでさえも、看板を見上げてその表情を緩ませていた。


「絶対に成功させましょうね」


 私がそう言うと、部長は満面の笑みを作って答えた。


「ああ、リレーに勝ったあとすぐ、中西に三ヶ月分の部費を前借りした甲斐があった。あのときの奴の屈辱に塗れた顔といったら、君たちにも見せてやりたかった」


 さらっと飛び出したカミングアウトに、さきほどまでの笑顔から一転、血相を変えた祢津さんが「……は?」と呟き、部長を睨む。私の口からも、思わずため息が漏れた。


「どおりで金掛かってそうな仕掛けが多いなと思ったら……そういうことでしたか……」

「遥人さー……なんでそういう大事なことをあたしたちに言わないわけ?」

「部長と呼びたまえ祢津くん。君たちに言ったら怒られると思ったからだ。それ以上でも以下でもない。今まさに怒られそうになっているのが何よりの証拠だ」


 誰でもいいからこの人に「反省の色」がどんな色をしているか見せてあげてほしい、と心の底から思った。祢津さんが、まるで子猫を持ち上げるかのように部長のブレザーの襟首を掴み、私に向けて言った。


「今からこいつを天井から吊るして仕掛けのひとつにするっての、どう?」

「大賛成です」

「や、やめたまえ君たち!」


 私たちがひと悶着起こし始めたとき、隣の軽音楽部の扉が開いて、ギターケースを背負った小川さんが出てきた。

彼は私たちを一瞥し、それから変わり果てたオカ研部室を見上げて、言った。


「お前らすげーもん作ったなあ……まあ、中途半端なもんより宣伝のし甲斐があるわ。俺ら体育館でライブやるからさ、アンコールはオカ研の部室前で、って言っとくわ。そしたら客も来るだろ?」


 そう言って体育館へ向かう小川さんの背中を見ながら、祢津さんが腕を組んで微笑んだ。


「ふーん、あいつら宣伝のこと覚えてたんだ。意外と義理堅いじゃん」


 軽音楽部の恩返しは、今日でようやく終わりそうだ。

 ふと見ると、部長が出入口に奇妙な箱と無数のプリントを設置していた。


「なんですか、それ」

「アンケートボックスだ。特に怖かった部分や、怖くなかった部分をリサーチし、来年に活かすのだ」

「へえ……なんか飲食店みたいですね……」

「入場者からのタイムリーな意見が一番の参考になるからな。さて、文化祭開始まであと五分か……」


 部長はそう答えてから、私たちの方に向き直った。


「二人とも、もうひと仕事しようではないか。最後の仕上げだ」

「え? まだ何かやること残ってたっけ?」


 祢津さんの問いに、部長はポケットから何かを取り出してみせた。

それは、鍵――。「放送室」と書かれたタグが付いた、小さな鍵だった。


「昨日、部費の前借りの交渉をしに職員室を訪れた際、こっそり拝借してきたのだ。軽音楽部の連中を信用していないわけではないが……宣伝は多ければ多いほどよい、そうだろう?」


 手の中の鍵をちゃらちゃらと得意げに鳴らす部長に、祢津さんはいつもの呆れ顔を見せた。その一方で、私はどこかワクワクしていた。オカルト研究部を立ち上げた日のことを思い出していたから。

あのときは部長と二人きりだったが、今度は三人で、演劇部室を乗っ取ったときと同じように、放送室をジャックするのだ。


 鍵を開けた部長が、ずかずかと放送室に押し入り、音声調整卓の元へ向かう。そしてそのままの勢いで電源を入れ、躊躇うことなく主音量のフェーダーを最大まで上げた。

文句なしの大迷惑行為だが、マイクに顔を近づけてこちらを見た部長に、なんだかんだ祢津さんは楽しげに頷いた。

 部長が大きく息を吸い――放送開始前のチャイムもなしで――堂々と宣戦布告した。


『忌野高校の生徒諸君! 我々は前日のリレーで一位に輝いたオカルト研究部である! 本日から明日にかけての文化祭において、我々はお化け屋敷を催す運びとなった! 入場料は一人千円! ただし、一度も悲鳴を上げなかった者には三千円をキャッシュバックする! 友人同士でもカップル同士でも構わん! 我こそは怖いもの知らずという猛者がいるならば、奮って来場……いや、かかって来たまえ! 待っているぞ!』


 入場料千円という、文化祭にしては足元を見まくった、高額な入場料。しかし、悲鳴を上げなければ三千円。誰もが学園祭という一大イベントで高揚している中、この条件に反応しない生徒はいないだろう。そして私たちは、彼らに悲鳴を上げさせる自信しかない。

なんのことはない、オカ研以外の生徒全員が、部長の掌の上で踊らされただけだ。

勝ったな、と私は思った。




それから数分後、文化祭開幕と同時に、オカルト研究部室の前には見たこともない長蛇の列ができた。

何もかもが計画通りだった。きっとここが演劇部室だった頃にも、ここまでの人だかりができたことはなかっただろう。

そして、屋敷内からひっきりなしに響いてくる大絶叫の嵐。その悲鳴のひとつひとつが、私たちの達成感をより確固たるものにしてくれた。青い顔をして出てきた生徒に、受付用の長机を挟んで座った部長が、ニヤニヤしながら言った。


「悲鳴を上げたかどうかは自己申告制だが、もし虚偽があった場合は屋敷内に仕掛けられた監視カメラをチェックし、貴様らのみっともない姿をダビングして全校生徒に配布するので悪しからず!」


悪魔だ、悪魔がいる。僅か一時間足らずで五十人ほどの生徒がお化け屋敷に挑戦し、無様に散っていった。私たちに三千円を要求してきた生徒は、ただの一人もいなかった。


「やっほ~、遊びに来たよ~」

「岡田っち、放送の声デカすぎな!」


 そう言って現れたのは、都井さんと松永さんだった。

善意で遊びに来てくれた二人と、震えながらお化け屋敷から出てくる生徒を交互に見て、私は少しいたたまれなくなった。


「おおっ! 二人とも、よく来てくれた! 昨日は世話になったな! 君たちは無料でよいぞ!」


 部長の計らいにより無料でお化け屋敷に入っていった二人だったが、数分後、気を失った都井さんを松永さんが背負った状態で出てきた。震える手でアンケートを書かされている松永さんに、私は心底同情した。

 しばらくすると、女子生徒の姿が多く目につくようになってきた。


「軽音楽部の宣伝が功を奏したっぽいね」


 客層の変化を目ざとく捉えた祢津さんが、目を細めて言った。

 すると軽音楽部のファンであろう女子生徒の数人が、突然私たちに詰め寄ってきた。彼女たちの目からはほんのりと殺気が感じられ、私は本能的に嫌な予感がした。


「あんたら、尾崎くんたちと仲いいの?」

「なんであんたらの部室の前でアンコールすんの? どういうことか説明しなよ」


 しまった、軽音楽部に過激なファンがいることまでは考慮してなかった……。

 しどろもどろになる私の隣で、祢津さんも困ったように女子生徒からの質問攻めをやり過ごしている。彼女たちの矛先が部長に向いたら絶対まずいことになると、私の直感が言っていた。頼むから部長にだけは話しかけないで――。


「あんた、尾崎くんたちとどういう関係なわけ?」


 私の祈りも虚しく、女子生徒の一人から問い詰められた部長は――。


「我輩は尾崎の命の恩人で、小川にはギターを教えてもらっている間柄だが……それがどうかしたのか?」


 予想通り、平然とした顔で爆弾を投下した。

それと同時に祢津さんが頭を抱え、女子生徒たちの殺気に満ちた視線が一斉に部長に突き刺さった。オカルト研究部としてこの言葉を使うのはご法度だが、生きてる人間の方が怖いと思った。鈍感すぎてノーダメージの部長も、やっぱり怖いと思った。

 困り果てていると、軽音楽部が体育館から戻ってきた。女子生徒たちは私たちに無言の圧を一瞥与えたあと「キャー尾崎くーん」「長谷川くんカッコ良かったよー」などと語尾にハートマークがつきそうな言葉を口々に言いながら軽音楽部の方へ雪崩のように流れていった。

 彼女たちの豹変っぷりに震えていると、小川さんがこちらへやってきた。


「どうだ、俺たちの宣伝効果も大したもんだろ?」

「遅いぞ小川、おかげで貴様らのファンにあらぬ誤解をかけられて大変だったんだからな!」


 部長がそう言うと、小川さんは一瞬、面食らったような表情になった。


「お、おい……俺らの関係とか、あんまり人に言うなよな……」


 え? 今、小川さんの顔が一瞬赤くなったような……。

 部長は相変わらず「なんで言ったらダメなの?」というようなきょとん顔をして、首を傾げていた。


その後、軽音楽部のアンコールがお化け屋敷の前で敢行された。

彼らの演奏に、オカ研と軽音楽部の関係性に対抗せんとする女子生徒たちの意地も加わって、客足は途絶えることはなく、漏れなく全員が派手な悲鳴を上げた。

悔しそうな表情でアンケートを書き殴る女子生徒たちを眺めながら、部長は「マヌケだ、実にマヌケだ」と呟きほくそ笑んだ。




 文化祭の一日目は大成功のうちに幕を閉じた。

私は固唾を飲み、千円札の束を手にした部長を見守る。


「……では、本日の売り上げを発表する! 来場者、百八十五人! キャッシュバックは圧巻のゼロ! しめて十八万五千円なり!」

「す、すごいです……!」

「い、一生遊んで暮らせる……!」


 売上額を聴いた祢津さんが、初めて見るような恍惚の表情を浮かべた。


「落ち着け祢津くん。しかし我輩もここまで儲かるとは思っていなかった。ひとえに君たち二人のおかげだ! あとはまぁ……軽音楽部もな!」

「三人で焼肉行きましょう! 焼肉!」

「いいね! 食べ放題!」

「明日になれば口コミでここの噂が拡散され、もっと客が来るぞ……ウヒヒ……」


 そのとき、ウハウハ気分の私たちに歩み寄ってくる足音が聴こえた。それと同時に、今最も聴きたくない声が聴こえてきて、私は眉をひそめて声の方へ振り返った。


「随分儲けたみたいじゃないか、オカルト研究部」

「なんの用だ、中西」


 部長が中西を睨みつけると、彼は鼻で笑ってその視線を一蹴した。


「なに、ちょっと指導をしにきたんだ。部費の前借りと放送室の無断使用だが、これは重大な校則違反だ。ペナルティとして、お前らは明日の……文化祭二日目の催しを禁止とする」

「そ、そんな……」


 呆然とする私を尻目に、部長がすかさず反論した。


「貴様に我々の催しを中止させる権限はない。そのような職権乱用を、我々の顧問である相田が聴いたらどう思うかな?」


 部長が不敵な笑みを浮かべた。

そうだ、中西は相田先生に惚れていて、それが彼の弱みだった。しかし私たちの意に反して、中西は強く言い放った。


「それがどうした?」

「な、なんだと? 昨日までは効いたのに……」

「おい岡田。オカルトにしか興味のないお前にはお勉強が必要かもしれねえがな、男子三日会わざれば刮目してみよって言葉、知ってるか? もう昨日までの俺とは違うんだよ」


 うろたえる部長にそう言って、高笑いする中西に、祢津さんが冷淡な口調で尋ねた。


「中西先生、フられたんですか。今日、相田先生にプロポーズして……」


 途端に中西は短い呻き声を上げた。どうやら図星だったようだ。

 その様子を見て部長も呆れたように首を振った。


「恥ずかしくないんですか。教師であるあなたが、学園祭中にプロポーズなんて……すぐに別れるカップルみたいなことして……」


祢津さんの口から飛び出す言葉のナイフが、まるで黒ひげ危機一髪の如く、次々と中西にに突き刺さっていく。


「だ、黙れ! とにかくお前らは明日の文化祭に参加禁止だ!」


 その言葉を聴いた瞬間、私はおもむろにお化け屋敷の入り口を開け、言った。


「……だそうですが、相田先生、どう思います?」


 すると中西が「えっ?」と素っ頓狂な声を上げ、扉の向こうを覗き込んだ。

すかさず部長が中西の背中を押してお化け屋敷へ放り込み、扉に鍵をかける。

 直後に響く、野太い絶叫。


「すみません、我慢なりませんでした」

「よくやったぞ土野くん、今日一番のファインプレーだ」

「子夏もなかなか悪いねぇ……」


 たっぷり十分間、私たちの努力の結晶を堪能した中西は、鍵が開くと同時に泣きながら逃げて行った。

帰り道に三人で食べた焼肉は、これまで食べてきたものの中で一番美味しかった。


帰宅した私はふと思い立って、プリンターを起動した。

この文化祭が最高の思い出になるように、もうひと仕事、頑張ってみようと思った。




 文化祭二日目。私は部長と祢津さんに、深夜までプリンターを稼働させて作り上げたそれを見せた。


「実は今までの活動記録をこっそりまとめてたんです。私たちの出会いから、体育祭まで。お化け屋敷の順番待ちをしてる人が退屈しないよう、読んでもらえたらと思いまして……五冊しか刷れませんでしたが……」


 そう言って手渡した冊子を読んだ二人は目を丸くし、驚きと喜びの同居した表情で声を上げた。


「なんだこれは! 素晴らしいではないか土野くん! 我輩にとってこれよりも価値のある書物は、世界中のどこを探してもないぞ!」

「凄いよ子夏、読みながらちょっと感動しちゃった」


二人は冊子を手放しに誉めてくれ、他の生徒にも是非読んでもらおうと言ってくれた。

入り口近くに設置された受付用の長机には、私たちがこれまで足で稼いできたオカルトの記録――題して「逝け! 忌野高校オカルト研究部!」が並べられた。

お化け屋敷を訪れた沢山の生徒が自作の冊子を手に取るのは見ていて気恥ずかしかったが、それ以上に嬉しくもあった。

お化け屋敷は二日目も大盛況。約十六万円を売り上げ、キャッシュバックも当然、ゼロに終わった。


「これで前借りした部費は戻ってきた。素晴らしい成果だ……!」

「子夏、これ一冊もらってもいい?」

「もちろんです! 部長も一冊どうぞ!」

「おお! 感謝する!」


 こうして私たちオカルト研究部は、万感の思いで今際ノ祭を終えた。

 三人で看板を片付けていると、ふいに部長が口を開いた。


「そういえばさきほど、小川に呼び出されたんだがな……突然『好きだ』と言われた」

「……ええっ!?」

「マジ!?」


 二日続けてのカミングアウトに、私たちは驚愕の声を上げた。

まさかとは思っていたが、小川さんは部長に惚れていたのだ……しかし部長には失礼だが、なんて物好きな人なんだ……。


「で? で? なんて返したの? OKしたの?」


 めちゃくちゃ食いつく祢津さんに、部長はいつもとまったく変わらない様子で、言った。


「ゴビ砂漠周辺に生息するといわれている、巨大なミミズのような姿をした未確認生物は? と問題を出したら『はぁ?』と返されたので、帰ってきた」


 その言葉に、私たちは揃って吹き出した。どうやら小川さんの恋路は茨の道になりそうだ。

 祢津さんが、少し安心したような表情で、部長を小突いた。


「小川が勇気出してコクったのに、遥人も罪な女だねえ」

「何を言うか、モンゴリアン・デスワームもわからん奴には、その辺のふわっとした女がお似合いだ!」


 二人のそんなやりとりを見ながら、私はあることを思い出した。


「そういえば、結構書いてもらいましたよね、アンケート。みんなで見ましょうよ!」

「そうだ! すっかり忘れていた!」


 そう叫ぶが早いか、部長はすぐさまアンケートボックスに駆け寄り、その中身をひっくり返す。やっぱり部長には色恋沙汰よりもこっちの方がお似合いだと思った。

溢れ出てきた用紙の中から、それぞれ一枚ずつを手に取り、順に音読していく。


「えー、特に怖かった部分。全身が不自然に折れ曲がった女の子三人の仕掛けがリアル過ぎた……」

「壁の隙間から恐ろしい形相で睨む男の目が、めちゃくちゃ怖かった……」

「途中でスマホが鳴ったので開いてみたら変なアプリがインストールされてました。あれも仕掛けだとしたら凄すぎます……」


 他のアンケート用紙にも「地雷系の恰好をした女が宙に浮いていた」「あの小さい女の子の姉妹はどこから連れてきたの?」というような内容が書かれていた。

それらはどれも用意した覚えのない仕掛けであり、私たちがこれまで対峙してきた怪異たちの特徴とよく似ていた。

中西が泣いていた理由が今になってわかった気がした。彼はきっと、自分の娘の姿を見たのだろう。

これからも、卒業まで、退屈しない日々を送れそうだ。

私の手記に、また新たな一ページが加わる……。




いつものように三人で忌野高校を出て、校門前で軽い挨拶を交わす。


「それでは二人とも、また明日」

「明日は部室の片付けしないとね」


 各々の帰路へ歩き出そうとした二人を呼び止め、私は言った。


「部長、あのときオカ研に誘ってくれてありがとうございました。祢津さんも、入部してくれて、いつも助けてくれてありがとう。私、お二人に出会えて良かったです。これからもよろしくお願いします」


 世界一頼もしくてかっこいい祢津さんが、優しく目を細めて答える。


「遥人と子夏と一緒にいて、あたしも毎日楽しいよ。これからも三人でオカ研やっていこうね。どんなことがあっても、あんたらに付き合ったげる」


 そして、私の日常から退屈を奪った張本人が、こちらを真っすぐに見つめて口を開いた。


「何を言っている土野くん、感謝するのは我輩の方だ。あのとき君が我輩の質問に全て答えたとき、我輩は君に夢を見たのだ。君とならやっていけると確信できた。そして祢津くんが加入し、彼女がいなければ解決できなかった事件も沢山あった。頼もしい部員に囲まれて、我輩の方こそ幸せだ。これからもよろしく頼む」


 手を振りながら去っていく二人を、私はいつまでも見送っていた。

 また明日の放課後、オカルト研究部で――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る