嵐の峡谷 8
テンペストオーガが現れた。峡谷の裂け目から這い出てきたその姿は、予想以上に巨大だった。全身を覆う風の結晶のような鱗が光を反射し、筋肉の塊のような体が圧倒的な威圧感を放っている。あの腕。片手だけで俺を潰せるほどの力があるだろう。だけど、ここで怯むわけにはいかない。進むためには、この怪物を倒さなければならない。
ストームブレイカーを握り直す。これまでの敵とは違う。このオーガの一撃をまともに受ければ、装備を貫通して命を奪われるだろう。慎重に距離を取る。風が強い。奴が一歩踏み出すたびに、地面が揺れて風が吹き荒れる。この峡谷自体がテンペストオーガの領域なのかもしれない。
オーガの目がこちらを捉えた。動き出す。足音が地響きのようだ。あの巨体に似合わない速さで間合いを詰めてくる。逃げ場はない。正面から挑むしかない。剣を構え、まずは一撃を試みる。横にかわしながら剣を振るったが、刃は分厚い鱗に弾かれた。硬い。想像以上に硬い。風を纏ったその鱗がまるで盾のようだ。
一撃では仕留められないことはわかっていたが、この感触は予想以上だ。正確に弱点を狙わなければ、こちらが消耗するだけになる。それでも奴は隙を見せることなく、さらに攻撃を仕掛けてくる。腕を振り下ろす。その一撃で地面が砕け、岩が飛び散る。これは回避し続けるだけでは埒が明かない。
風の流れが奴を強化しているようだ。この峡谷そのものがオーガの力の源なのかもしれない。動きを観察する。大振りな攻撃の直後に少しだけ隙がある。そこを狙うしかない。何度も剣を振るうが、鱗を掠めるだけで、致命傷を与えられない。どうする。どうすればいい。
動きを引きつける。焦りは禁物だ。あの腕を見ていれば、無謀な攻撃がいかに命取りになるかは明白だ。オーガが再び巨体を揺らして突進してくる。そのたびに風が巻き上がり、足元を奪われそうになる。それでも一歩も退けない。全身の筋肉が張り詰め、汗が装備の中を伝う。
剣を構え、次の攻撃の隙を狙う。ここで怯むわけにはいかない。突破口を見つけるしかない。この戦いの中で奴を倒すための手がかりを掴む。それしかない。
テンペストオーガの動きは遅くはない。むしろ、あの巨体にしては驚くほど軽快に動く。その風を纏った鱗が防御だけでなく、動きにも影響を与えているのだろう。奴の周囲で風が渦を巻き、攻撃をかわそうとしても足元が不安定になる。それに気を取られたら終わりだ。剣を握る手が汗で滑りそうになる。自分がどれだけ疲れているのかを痛感する。
オーガの拳が振り下ろされる。一瞬だけ動きを読み間違えたかと思ったが、辛うじて横に飛んでかわした。振り下ろされた拳が地面を粉砕し、飛び散った岩の破片が装備を叩く。痛みは感じないが、防具越しの衝撃が全身に響く。もし直撃していたら、こうして考える余裕もなかっただろう。
オーガの攻撃は一撃一撃が重い。だが、その分隙もあるはずだ。攻撃が終わった直後の一瞬。その一瞬にかけるしかない。呼吸を整え、動きを見極める。風の流れに逆らいながら一歩ずつ距離を詰める。視線を集中させる。あの鱗のどこかに弱点があるはずだ。中心に輝く結晶のようなものが、ほんの一瞬、風の間から見えた気がした。
そこだ。あそこが奴の弱点だと直感する。だが、狙いを定める前にオーガの拳が再び迫る。この距離では回避するしかない。足元をしっかりと踏みしめながら後方に跳び、剣を構え直す。もう一度だ。もう一度タイミングを測る。
オーガが突進してきた。地面が揺れる。風が吹き荒れる。この風の流れをどうにか利用できないか。ストームシーカーグリーブの効果があれば、少なくともこちらの動きに加速をつけることは可能だ。次の攻撃が終わった瞬間、間合いを詰めることに賭ける。
拳が振り下ろされ、避けた瞬間に奴の脇腹を狙って剣を突き出す。刃が鱗を掠め、かろうじて傷をつけたが、それ以上は届かない。渾身の一撃だったが、弱点には届いていない。攻撃が終わった後のわずかな達成感が、すぐに不安へと変わる。
奴の動きは止まらない。むしろさらに加速している。疲れているのはこちらだけだというのか。この状況をどう打開するか、考えがまとまらない。冷静になれ。焦れば命を落とす。突破口を見つけるためには、もっと観察が必要だ。次の攻撃のタイミングを狙うしかない。
風がまた強まる。峡谷全体が奴の味方をしているように感じる。だけど、この風も、きっと奴の力を削る隙を作る要因になるはずだ。まだ諦めるには早い。奴を倒すための次の手を考える時間は、まだあるはずだ。
テンペストオーガの動きは明確だ。一撃一撃が重い分、攻撃のたびに負担がかかっている。風を纏うことで耐久力と敏捷性を補っているが、その力が無限ではないことを願う。呼吸を整えながら剣を握り直す。次の一撃であの結晶に届けばいい。届かなければ、何度でも狙うしかない。
オーガが再び拳を振り上げる。その巨大な腕が風を切る音と共に迫ってくる。地面に拳が叩きつけられると同時に、土煙が上がり視界が遮られる。その瞬間を利用して奴の側面に回り込む。剣を構え、風の結晶が覗く位置を狙って一撃を振り下ろす。刃が鱗を貫く感触がしたが、結晶には届かなかった。それでも奴の動きがわずかに鈍ったのを感じる。
手応えがあった。少しずつではあるが、攻撃は効いている。オーガが振り返りざまに腕を振り払う。間一髪で後退し、直撃を避けるが、風圧だけで体が吹き飛ばされそうになる。ストームガードが衝撃を和らげてくれていなければ、肋骨が折れていただろう。
オーガの結晶が再び風の渦に覆われる。次はもっと正確に狙う必要がある。疲労が足に来ている。ストームシーカーグリーブがなければ、ここで動きが止まっていたかもしれない。もう一度、呼吸を整えて集中する。
奴が再び突進してくる。その巨体が風を切り裂きながらこちらに向かってくるのが見える。今度はその突進を逆手に取る。正面から受けるふりをして、一瞬の隙を作る。右へ大きく跳びながら、剣を思い切り突き出す。刃が結晶のすぐ隣を貫いたが、あと少し届かなかった。
手応えが薄い。だが諦めるわけにはいかない。この戦いは、一瞬の油断が命取りになる。オーガが振り向き、再び攻撃の体勢を取る。次の一撃が来る前に、こちらの動きを早める必要がある。考えろ、冷静に。奴の結晶が見えた瞬間、それに全力で賭けるしかない。
風がまた強まる。オーガが力を溜めているのが分かる。次の攻撃は大振りになるだろう。その隙をどう使うかが勝敗を分ける。足元の風が弱まる瞬間を狙い、一気に距離を詰める。これが最後のチャンスかもしれない。剣を握る手に力を込め、全力で跳び込む準備を整える。
オーガが拳を振り上げた。その瞬間、体が自然と動いた。風を読み、間合いを詰め、一撃を放つ。刃が結晶に触れる感触があった。渾身の力を込めて、剣を突き出し続ける。結晶がひび割れる音が響いた。オーガの動きが止まり、巨体が崩れるように倒れる。
静寂が戻る。剣を引き抜き、足元に転がる結晶を手に取る。テンペストオーガの結晶核だ。巨大な体を動かしていた中心の力が、今は小さな光となって手の中に収まっている。この戦いは終わった。だが、このダンジョンの先にはまだ何かが待ち受けているはずだ。
獲得アイテム
・テンペストオーガの結晶核 ×1
・テンペストオーガの硬化鱗 ×2
・テンペストオーガの風袋 ×1
・風の結晶 ×4
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