第7話 妹すら我を怖がるのか

「あ! おかえり!」


 お兄ちゃん? ミルには兄弟がおったのか。


「その人誰?」


 ぬ、我のことか? 箱を外したいが、我の顔を見て逃げ出す可能性もある。


 ここは箱を被ったまま挨拶をしよう。


「はっはっはっ! 我が名はかつて英雄と謳われた、武神……」


「ぐ、グラディ! グラディっていうんだ! 今日からここで働いてもらうことになったんだよ!」


 なんだ、我に名乗らせぬとは何事か。


「そう、それで、なんで箱なんか被ってるの?」


「そ、それは、グラディの顔はちょっと怖いらしくて、お客さんがみんな逃げちゃうんだよ。だから、接客に慣れるまではこれでいてもらおうかなって思って……」


「それじゃあ何も見えないし、余計怖がられるだけでしょ」


 そう! そうなのだ見知らぬ女よ! ミルはおかしいのだ! こんなのでどう接客をしろというのだ!


「はぁ、私が代わりのもの作るから、それまではお兄ちゃんが接客をやっといてよ」


 何!? ようやくこの箱から解放されるのか!


 ミルの妹は、そう言うと階段を上り、部屋へと入っていった。




 それから少し待っていると、ミルの妹が何かを持って階段を降りてきた。


 我はこんな状態で接客をすることは許されず、今は裏の武器庫で待機している。


「入りますよ〜」


 すると、扉がコンコンと叩かれ、ミルの妹が入ってきた。


「とりあえず、その箱外してこれ付けてください」


 もう出来たのか、まあ、何を持ってきたのかは知らぬが……


 我は箱を頭から取り外し、ミルの妹と対面する。


「んっ!?」


 我がミルの妹の顔を見ると、こやつは小さく声をあげると、我から顔を背けた。


 我の顔はそんなにも怖いのか……


「こ……これ、付けてください」


 そう言って、我にあるものを差し出す。


「なんだこれは? 仮面か?」


 我がそう問うと、彼女は説明を始める。


「そ、それは、私が作ったお面です。目のところに穴が空いているので、顔を隠していても前を見ることが出来ます」


 ほう! なんとも器用な女なのだ!


 だが、やはり説明をする時に我から目をそらしておるな。


「素晴らしい技術だ! お主、名をなんと申す?」


 ミルの妹だ。我がここで働くのだから、これからも会うことになるだろう。名は聞いておかぬとな。


「す、スター=ラーデンです」


「スターか! このお面があれば接客できるぞ! 感謝する!」


 我がそう言うと、スターは顔を真っ赤にして走って武器庫から出ていってしまった。


「グラディ〜、どう? って、ぷふっ!」


 スターが出ていった直後、ミルが様子を見に来た。


 何だ? またミルの我を馬鹿にするような笑い声が聞こえたのだが。


「グラディ、すごく似合ってるよ! それならお客さんも怖がらないねっ! ぷっ!」


 何が面白いのか全く理解できぬが、まあ良い。


 我はこれで、今度こそ接客を成功させてやるのだ!

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怠惰であるが故に神界から追放された武神グラディウスは、人間界の武器屋で働く @sawan_sazan

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