自己愛というテーマにおけるケーススタディの一つに過ぎない話
@daishichi
第1話
喉が渇いた。自分が何のために歩き続けているのかもあやふやになりそうな、蒸し暑い八月の夜中。人通りの少ない道を選んで歩いているから、僅かな自動販売機の灯りを見逃さずに済んだのは不幸中の幸いだった。逡巡もなく、ミネラルウォーターを選択する。
「こいつわざわざ金払って、ただの水買いやがったぜ!」
不必要にけたたましい電子マネーの決済音が、まるでそう周囲に言いふらすかのように鳴り響く。一応辺りを見渡すが、別に誰もいなかった。取出口に手を突っ込み、そして足元に視線を落とす。五十円玉が落ちていたけれど、拾う気にはならなかった。勿体つけずに一気に飲み干し、再び歩き出した。こうやって連日連夜街に繰り出しているのは、別に非行衝動に駆られてのことでもなければ、夏の夜の空気にほだされて散歩に洒落込もうというものでもない。
探し物をしていた。
いるはずもないのに路地裏の窓や新聞の隅を探してしまう、かのラブソングの主人公とは似ても似つかない状況。エモくない状況だった。
現実問題としていち早く僕はそれを見つけなければならない。見つけて、始末をつけなければならない。差し迫られた状況である。この辺りは街灯が少ないから探し物には向かないのだけれど、致し方ない。探し物に向かないからと言って見回らないわけにはいかないのだ。
ぽつんぽつんと配置されている街灯の僅かな灯りを辿り、歩みを進めていく。しばらくすると寂れた小区画の公園に行き当たる。行政の手が回っていないのか、危険だからと今は使用できなくなってしまった遊具には使用禁止の張り紙とガムテープが雁字がらめの状態で放置されている。さながら使用済み廃棄物の置き場所のようだった。その廃棄物、もとい遊具の前で立ち止まり、そして足元に視線を落とす。
今夜は満月だった。
公園中央には樹木がないから、月光が遮られることなく僕を照らす。
街灯なんかよりもよっぽど明るく、眩しく照らす。
それでも見つからない。
どこにも見当たらない。
月灯りを背にしても、今日も僕の足元に〝影〟はいない。
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