第5話 卒業式
演奏を担当するマーチングバンド部の前に設けられた椅子の数は十五席だった。それが去年の五月の名簿に乗っていた二年生以下の人数だ。
しかし、そこに着席したのは、二年生四人、一年生三人の七人だけ。
大多数の生徒がそのまま瑞城女子高校に進むというので、卒業式は、半分はふだんの終業式とあまり変わらない雰囲気で進んだ。
さまざまな儀式のあと、進行役の生徒会の二年生役員が
「それでは、これより、校歌の演奏に移ります。みなさま、ご起立ください。マーチングバンド部による演奏、コーラス部の校歌合唱の後、校歌斉唱をお願いします」
と、背伸びをした、緊張した声で宣言する。
それに答えて、マーチングバンド部が校歌を奏で始めた。
ところで、瑞城の校歌は三部構成になっていて、歌があるのは、その最後の部分だけだ。
歌の部分が来るまで、マーチングバンド部の、とても重々しい演奏が続く。
マーチングバンド部がいったん演奏を止めた後、トランペットが高らかにファンファーレを吹いた。
それを受けて、コーラス部が校歌を歌い始める。
そのはずだ。
ところが、校歌はどこからも聞こえてこない。
コーラス部の部員七人は全員起立している。
けれども、だれも歌っていない。
マーチングバンド部による伴奏だけが、たんたんと、しかし何か気の抜けた感じで流れて行く。
教員席で起立していたコーラス部の顧問はあっと声を立て、動き出そうとした。
しかし、隣にいた、もう一人の音楽の先生がすばやく顧問の先生の体の前を
校長先生はおろおろしている。先生方の席は、あっけにとられてその場を見回している先生と、ぜんぜん動じずに直立不動の先生に分かれた。
校歌の最後まで、コーラス部は何も歌わなかった。
部員七人が、無表情に、卒業式の会場を見回していただけだ。
しかし、進行役の二年生はぜんぜん動揺していなかった。
まるでコーラス部が予定されたとおりに校歌を歌ったかのように
「それでは、校歌斉唱です。みなさま、ご唱和ください」
と、とても普通にアナウンスしたのだ。
ここからは全員の斉唱だから、べつにコーラス部が歌わなくても歌は成立するはずだ。
しかし、生徒が、まして保護者のみなさんが校歌をきちんと覚えているはずもない。コーラス部が手本を示し、しかもいっしょに歌ってくれるから、なんとか歌っているふりぐらいはできる。その程度だ。
だから、歌ったのは、顧問の先生を止めた音楽の先生を含めて、ほんの何人かの先生と、ごく一部分の生徒だけ。
またマーチングバンド部の伴奏だけが、重々しく、むなしく、寒々と流れて行く。
校長先生も歌っていなかったよ、と、あとで
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます