第7話「崩壊する秩序(1)」
エリア5『アンサンドラ刑務所』──
PM2:44
「なんで俺はここにいるんだ?」
刑務所内の面会室にピエトロは座らされていた。
「留置所とかないのか? なんの捜査もせず刑務所? どういうことだ?」
ピエトロの目の前にはガラスを挟んでロードリーダーが座っている。
「君は要注意容疑者だ。それもかなり怪しい。……濡れ衣の可能性も否定できないし、そうだったら謝ろう。これは人民の為なのだ」
ロードリーダーにそう言われて、ピエトロは複雑な顔をした。眉をしかめ、ため息をついた。
「ロードリーダー。アンタは俺の憧れだ。そんな顔で俺を見ないでくれよ。まるで……俺が悪者みたいだ」
「可能性がある」
「俺が何をしたんだ?」
「アーバンゲリラの件は知っているね」
「当たり前だ」
「我々もアーバンゲリラの調査を進めていた。そしてアジトと思しき場所をつきとめた。だが罠かもしれない、そう思って遠方から監視していた」
「……マーカスの言う通りか……。警察も突き止めていた」ピエトロはそう呟いたが、ガラス板のせいでロードリーダーには聞こえていないようだった。
「そして猿の怪しげなマスクを被った君が現れた。しかも紫外線センサーで見るとナイフを所持していることがわかった。……それは確保させてもらうだろう」
そう言われてみるとごもっともな話ではある。
「まあ確かに俺は怪しかったが……。でも俺はアンタみたいになるために、個人的にアーバンゲリラを探してたんだ。そして俺もアジトを見つけた」
「……FGI?」
「かもしれない、ってな」
「君とFGIの関係は?」
「全くない。コマーシャルでエフワンドリンクを見るくらいで正式名称も知らなかった」
「……そうか」
ずっと表情の変わらないロードリーダーに、ピエトロは不気味さまで感じてきた。ついさっきまで憧れの人間だったのに、ここから出られてもロードリーダーに対する感情は変わってしまっているだろう。
「ロードリーダー。街のために言う。俺なんかを尋問するよりアンタはさっきのFGIを張り込むべきだ。本当だ。俺のことは尋問してもいい。でもアンタじゃない。アンタはもっとやることがある」
「君がアーバンゲリラだとしたら私はここにいるべきだ。そうでなくても危険性が高い」
「なぜそこまで言えるんだよ!」
そう言われると、ロードリーダーは黙ってゆっくり顔と縦に振り始めた。まるで、(確かにそうだ)と言わんばかりに。
「だがな、少年。君の身体から"Fドラッグ"が検出された」
突如知らない単語を出され、ピエトロはキョトンとした。
「はぇ?」情けない声が腹から出た。
「Fドラッグ。FGIが製薬している可能性が高い。危険ドラッグだ。それが君の身体から検出されたんだ。Fドラッグのことは聞いたことあるかい?」
「全くない!」
「…………。とぼけないで欲しい。正直、君がアーバンゲリラだとは思っていない。だが何かは知っているはずだ。一般人の身体にFドラッグは偶然付着しない。危険ドラッグを使ったことは?」
「ロードリーダー。例えあんたでも俺の正義をバカにするのは許さない。俺はこの街の"救世主"になるんだ。そんなクソみたいな真似は絶対にしない」
「…………じゃあほかに心当たりは? 悪党にはそんなクサイセリフ吐けないように思えてきた」
「…………」そう言われて、アーバンゲリラと対峙にした時のことを思い出した。
「煙だ……」
「煙?」
「アーバンゲリラの肘を刺した時、奴の身体から粉塵みたいな煙がボワッと、……俺の身体にかかった」
そう言われ、ロードリーダーは表情を変えた。
「……待て待て。アーバンゲリラの肘を刺した? なんの話をしてる?」
「警察も何人か見てたはずだ。1週間……ともう少し前だったか? アーバンゲリラが2連続でテロを起こした時……、俺はアーバンゲリラと」
「あの少年か、君は」
ロードリーダーは思い出したように声を1トーン上げて呟いた。
「覚えているのか? あれは俺だ。結果的に逃がしてしまったが、惜しかったんだ。怪我を負わせた」
「なるほど……」
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