第5話「救いの代償(1)」

目が覚めると、見覚えのある天井と懐かしい匂いが漂ってきた。


「ピエトロ!!!」


まだ視界がぼやけているが、声で目の前にいるのがマーカスだということが分かった。


「なんでここに?」


「俺ん家だよ、ピエトロ」


「なんで……?」


「ロードリーダーが君を運んだんだ」


「ロードリーダーが?!」


身体の痛みも忘れて飛び上がった。


「痛い!!!」


「落ち着けってピエトロ」


「ロードリーダーは今どこに? アーバンゲリラを倒したのか?」興奮するピエトロに対して、マーカスは気まずそうに答えた。


「いや、彼が到着した頃にはもう逃げてたよ。ロードリーダーは今父さんと話してる」


「父さん? お前のか? なんで?」


「弁護士だからね。ロードリーダーは訴訟されることも多い、なにかと繋がりがあるんだ。……言ってなかったけど……」


突然の告白に、ピエトロは少し混乱した。


「お前と父さんとロードリーダーが? なんで言わない、会わせてくれよ!!」


「こうなるからダメなんだ。僕だって会わせてもらえないよ」


マーカスからそう言われると、ピエトロは分かりやすく方を落とした。


──────


「それで、アーバンゲリラの目的は分かったのか?」


マーカスの父、ニーマンが紅茶を飲みながら喋る。


「ああ」ロードリーダーは表情を変えずに答えた。


「分かったのか?」その答えを予想していなかったようにニーマンは驚いた。


「多分な。FGIだ」


「……FGI? FGIが狙われてるのか?」


FGI。"Feel Good Inc."。市販薬を製造している大企業だ。


「いや違う。アーバンゲリラが所属しているんだ。FGIに」


そう言われるとニーマンは困ったように笑った。


「まさか。余計に目的が分からなくなる」


「100%ってわけじゃないがな。……ドラッグ中毒者のホームレスをぶちのめした時、ドラッグを押収した。コカインかヘロインかと思ったが、全く知らない成分の薬物だった」


ロードリーダーの話をニーマンは黙って聞いている。


「新しいヤクが出回ったと感じてため息が出たが、違和感に気づいた。ホームレスのパワーだ」


「パワー?」


「明らかにろくなものを食ってないホームレスが出せるパワーじゃなかった。俺には到底及ばなかったが、なにかおかしかったんだ。そして成分を細かく分析してみた。するとある成分が身体能力を大幅に上昇させることが分かったんだ」


「なんて成分だ?」


「未知のものだから研究者が勝手に仮名として"ビチウム"と名付けた。……それでニーマン、FGIの人気商品を知ってるか?」


「Fワンドリンクか?」


「ああ。飲むと目覚めが劇的に良くなり、スタミナも向上。今はほとんどのところで売り切れだ。買うためには長蛇の列を並ぶか高額転売された商品を買うしかない」


「話が見えてきたな。そのドリンクにビチウムが?」


「ご名答だ。Fワンドリンクからビチウムが採取された。知っている限りこのドリンクとそのドラッグにしかビチウムは含まれていない」


「それは分かったが、そこになぜアーバンゲリラが?」


「彼の使う爆薬にも"ビチウム"が使われていた」


「まさか。仮にも飲料に使われる成分だぞ? 爆薬に使えるわけないだろう。いや、爆薬に使える成分が飲料に使えるわけが無い、と言った方が適切か」


「ああ。そうだ」


「そうだ、って……」


「ビチウムを摂取することは高いリスクを伴うって訳だ。ドラッグにも使われているんだ。当たり前だ」


「じゃあどうすればいいんだ? 今すぐ販売停止って訳にも行かないだろ?」


「勿論だ。証拠がいる。そのドラッグ……仮に"Fドラッグ"と呼ぼう。FGIがFドラッグを製造している証拠さえ得れば、販売停止に追い込むことが出来る。アーバンゲリラも裏で繋がっているはずだ」


「また面倒なことになってきたな……」

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