私はもうあなたに決めたんだから!
浅川
1
あっ、恭ちゃんだ。
恭ちゃん、とは私の彼氏、
その恭ちゃんが昼休みに中庭のベンチに座っていた。何やら見るからに落ち込んでいるような気がする。ここは彼女として声をかけなくてどうする。
「やっほー恭ちゃん。なにしているの?」
「あっ
「元気なさそうだね。何か嫌なことでもあった?」
「嫌なこと……というか、将来を悲観しているのかもしれない」
将来を悲っ観っん!?
その歳で何を言っているんだこいつは! と叱りたくなった。
確か恭ちゃんの家庭はかなり裕福なはずである。大学にだって難なく行けるはずなのに。
とはいえ、ここは彼女として彼を癒してあげなくては。
……ここはちょっと大胆に、座り込んで屈んでいる恭ちゃんを私は抱きしめるというか、包み込んであげることにした。
「将来を悲観ってなに言っているの。ほら元気出して」
けど、五秒も経たないうちに——
「やめてくれ、息苦しい」
あっ振り払われた。息苦しい? なんで、私のこと嫌いなの。
「ごめん、ちょっとイライラしてた。こんな状態で真里に接したら傷つけるだけだから、どっか行くわ。じゃ」
どこかへ行ってしまう恭ちゃん。
私は彼の背中を見て、なぜだがもう会えないくらい遠くに行ってしまうんじゃないかという気持ちになった。コナン第一話の蘭ちゃんもこんな心境だったんだ。
同じクラスじゃないけど同じ学年で、同じ学校に通っているんだからそんなことあるはずないのに。
でも、あと一年で卒業。卒業後も私たち付き合っているのかな?
おそろしいことにその未来がまっったく想像できなかった。
今度は私が将来を悲観したくなった。誰かなぐさめてよと言っても誰もいない。しかも、その原因を作った彼氏になぐさめてもらうのも変な話だ。
……やっぱり、やっぱりもう別れた方がいいのかな。だって、抱きしめたのに振り払われたんだよ。
普通こういう時って興奮するもんなんじゃないの? 私の胸なんかを意識して、あぁ〜もうどうにかなっちゃいそうって。
あのリアクションを見る限り全くそんな意識はないようだ。彼は私の体に興味はないのだろうか? 自分で言うのもなんだけど、胸大きいよ、私。
うっ、その胸が痛い……その根拠は確かにあるっ!……
「はぁ!? 君たちまだやっていないの?」
某ファミレスでそうバカでかい声を出すのは私の友達、原口えみだ。君たちって……私たち二人をそんな風に呼んだのはこれが初めてな気がする。
「ちょっと声大きいって、もう」
「あっ、ごめん、ごめん。でも、それマジ?」
「う、うん、まぁ、そうなの」
「付き合ったのいつだっけ?」
「高校一年生の夏」
「今いつ?」
「高校二年生の三月」
「来月で三年生だけどね。それでまだやってないってあんた達、本当に付き合っているの?」
今度はあんた達ときた。できれば統一してほしいなんていう言葉も出ないくらい、私は今、痛いところを突かれている。
そう、私と恭ちゃん、まだその、性の営みをしたことがないのです……。
「だって同じクラスじゃないし」
「そんなの関係あるわけないだろ。学校でやるわけじゃないんだから」
「けど、タイミング、きっかけって言うの? そういうの難しくない。それこそ場所の関係もあるし」
「いや、そんなの関係なく、やりたかったら、どこでも場所、探してやるでしょ」
「他の人ってどこでやっているの?」
「え〜っと、確かって、そんなこといちいち聞くかっ。ぶっちゃけそこまで聞ける関係性の人なんていないし。まぁ、男子の方はそういう話よくするみたいだけど。だからとりあえずあのカップルはやったという情報は知っているけど、詳しいところまではって感じ?」
「そうだよね〜」
「ってか私はね、真里なら唯一、そういうことも聞けるような関係かなってことで、真里にその体験談というものを
プライベートは縁側に座って日向ぼっこしているはずだともてはやされている、あの既に還暦の境地にいるカップル二人と一緒にされるのは悔しい。
「真里から告白したんでしょ? だったらもう真里から誘ってみたら。付き合う前からいきなり磯村くんの傘へ突撃した勇気あるなら、そのくらいできるでしょ」
「それって、なんか違う気がして。そういうのってやっぱり男子の方から来るもんなんじゃないの」
「そんなこと言ってられないでしょ。草食系男子なんていう言葉が出ている時代だよ。これからはもう立場が逆転するのかもね。女が働き、男が家事、育児をするって」
地味にこれからの時代を読んでいるような言葉がたまに出てくるから侮れない。頭の良い恭ちゃんも似たようなことを言っていた気がする。これからは男性だから、女性だからこうあるべきって時代ではなくなるって。
「そもそも……あぁ〜これって言っていいのかな〜」
「えっ、なになに」
「この際だからはっきり言うけど、そもそも磯村くんって真里のこと好きなの? 本当は別の女子が好きだったけど、もう先を越されたってところに真里が告ったから付き合うことになったんでしょ。とりあえず付き合ってみたけど、なんか違った〜なんて思っているんじゃないの? あっ、そういえば真里も入学当初は私と同じで一馬が好きだったんだよね。そんな互いに本命と付き合うことが叶わなかったカップルじゃあ燃えるような恋にはならないのは仕方がないのかもね」
「そ、そんなこと……あ」
あるのかもしれない。恭ちゃん、私のこと本当は好きじゃないのかな。だったら、もっと早く言ってよ。そうすれば私はまた新しい彼氏を探せるのに。
そういう私は、恭ちゃんのこと好きだと思う、絶対。だからってなにからなにまで私、主導でやらないといけないの? それっておかしくない?
女は弱い男性を支配するよりも、強い男性に支配されたい——by アドルフ・ヒトラー——
ヒトラーがどんな非道ことをやったか分かっている。けど、これはまさに名言だと私は思っている。
なのに、最近の男どもときたら、根性のない奴が多いんだから。
私はいつの間にか今の時代の男に対して怒りをぶつけていた。なんかもうアホらしくなってきた。ほんとに別れた方が良いのかもしれないという思いがどんどん強くなる。
(私の二年間返せー!)
たまらず、私はそう心の中で叫んだのであった。
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