071

 試験が始まって、3時間が経過した。


「ユウ、ストップ。……よし、もういいよ」

「……本当にすげぇな。今まで、一度も魔物に遭遇してねえぞ」


 5階層に到達した俺たちは、サラの指示のもと、慎重に歩を進めていた。

 下の階層に行くにつれ、魔物の数が増えているのが体感で分かる。

 2階層ではほとんどいなかったのが、5階層ともなるとさすがに増えてきた。


 魔物の徘徊により、隠れる回数が段違いに多くなっている。


 現在、見つけた宝箱の数は0個。

 未だ、何の仕掛けも見破ることが出来ていない。


「……ユウ、あの岩に隠れて」

「おう、分かった」


 サラとともに岩の後ろに隠れる。

 岩の隙間から目だけを覗かせ、魔物を見た。


「……っ」


 身体中を覆う、ふさふさの毛並み。

 鋭く、剥き出た牙。

 顔の3分の1を占める、大きな鼻。


 驚きの声を上げそうになるのをこらえながら、魔物が通り過ぎるのを待つ。

 しばらくして、「もういいよ」というサラの合図が聞こえた。

 俺は長らく止めていた呼吸を再開し、興奮気味にサラに話しかけた。


「おいおい、今のハイオークだろ? すげえな、初めてみた。あんな魔物、昔読んだ本でしか見たことないぞ」

「アタシもだよ。中央大陸で見られる魔物なんて、ゴブリンくらいだしね。オークだってなかなか見ないし……。ハイオークに至っては、西大陸の南部にしか生息していないらしいよ」


 魔物は南大陸に近づくにつれて強くなる、と言われている。

 その話は、魔物は南大陸で生まれた、という説から連想されたものだ。


 その説について話すと、サラは笑って言った。


「その説、全然根拠ないやつじゃん。実際はあれでしょ、気候で生息場所が変わるってだけでしょ」

「俺もそう思ってる。けど、世間の人間は自分で考えるのが好きじゃないからな。学者が言ってるってだけで、信用するんだろう。今の話も、学者の意見だし」

「その学者さんは、どこから魔物が出現したって言ってるの?」

「神が創った、なんて言ってるらしい」


 サラは俺の話を鼻で笑った。


「結局それ? 分からないことがあると、皆すぐに神を出したがるよね。これは神がやったことなんだーって。神もいい迷惑だね」


 言いながら歩いていると、サラが急に真面目な顔になり、「しっ。誰かいる」と鋭い声を上げた。

 サラの腕が顔の目の前まで伸びてきて、思わずる。


 岩陰に隠れ、様子を見る。


 そこにいるのは、魔物たちではなかった。

 二次試験に参加している、奴隷たちだった。


 男と女のペアだ。

 おそらく、俺たちと同様、二人一組で行動しているのだろう。


「よしっ、これで3つ目だ。ラッキー」

「順調だね。この調子なら、選抜試験も軽々突破できるかも」

「……っ」


 それを聞き、俺は焦燥感を覚えた。


 俺はまだ一つも見つけていないというのに、他のチームではもう3つ見つけているチームがある。

 俺たちが知らないだけで、既に差が生まれているのかもしれない。


「あ、ちょっとユウ、どこ行くの?」


 サラの言葉を無視し、俺は狭い道を先導して進んでいく。


 俺は少し、この試験を楽観視しすぎていた。

 ヘンリーがいるからなんとかなるだろうと、考えていたのかもしれない。


 それじゃだめだ。

 今回の試験で、ヘンリーは近くにいない。

 自力でなんとかしなくては。


 キョロキョロと視線を動かし、どこかに仕掛けがないかを探る。

 壁や床など、手当たり次第に押してみても、目に見えた変化は得られなかった。


 歩き続けていると、宝箱を見つけているチームに何度か遭遇した。

 一番多いところでは、既に5つの宝箱を見つけているらしい。


 そんな話を聞く度に、俺の焦りはつのっていった。


「おいサラ、早く行くぞ。完全に出遅れてる。このままじゃ……」


 二次試験に落ちる。


 そう言ってしまいそになり、俺は無理矢理口をつぐんだ。


 サラのことを考える暇もなく、先々と進んでいく。


 だから、反応が遅れた。


「ちょっと待って……っ。そっちは……っ」

「……っ」


 目の前には、俺より2周りも大きな魔物の姿。


 身体中を覆う、ふさふさの毛並み。

 鋭くき出た牙。

 顔の3分の1を占める、大きな鼻。


 昔読んだ絵本で見た、敵キャラクターの見た目が、こんな感じだった。


 俺の後ろで、呆然としたサラが呟く。


「……ハイオークだ」




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