第11話 下級貴族の暮らし

 チャイターの生活は質素だった。

 下級貴族の恩給では現実的には質素な暮らしをする以外に無い。

 彼が売春婦を買うのも、相応のメイドを雇う金が無いからなのかもしれない。

 下級貴族になったが故に生活が苦しくなる者も少なくは無い。

 無論、恩給以外に収入があれば、良いわけだが。

 残念ながら、チャイターに副収入は無さそうだった。

 貴族の副収入と言えば、金貸しか不動産、商人などである。

 自らは公務で忙しいので、人に任せられる仕事となる。

 

 チャイターの場合、そうした副収入もなく、ただの軍人となると確かに庶民に比べれば、良い恩給を貰えるのだが、先述した通り、貴族には守らなければならない約束事も多い。そうなると庶民のように暮らす事は難しく、彼が抱える精神的な悩みは深いだろうと推測された。

 つまり、売春婦を買うのもストレスから逃れるためであり、極度のストレス下であれば、売春婦に過度な欲求をぶつけてしまう。または殺害に至る興奮状態になる可能性は高いだろう。

 つまり、彼が売春婦を殺す理由が無かったとしても、売春婦を殺してしまう可能性があるとなる。

 こうした点からチャイターの容疑を濃くして、断罪したとしても辻褄は合う。

 はっきり言えば、それで手を打っても誰も文句を言わないだろう。

 だが、あまりにも雑過ぎる。

 いくら科学捜査が無く、自白や証言が頼りだとしても、これではいくらでも犯人にでっち上げる事が可能になってしまう。

 故にここは逆説的にチャイターが犯人じゃない事を考えるとする。

 チャイターが家に居た可能性は高い。だが、被害者宅に行った可能性を否定する程ではない。その程度なら彼にも犯行は可能なのだ。

 決定打こそ無いが、チャイターを犯人に仕立てる事が可能。

 こうした時、早計に答えに向かってはいけない。

 科学捜査が可能ならば、物的証拠をきっちりと揃える事になる。

 だが、それが不可能ならば、見方を変えて、捜査を行う必要がある。

 チャイターには目立った動機は無い。

 むしろ、表沙汰になれば、それだけで貴族をはく奪され、王国からも追放されるかもしれない。そうで無くても軍にも籍は無くなるだろう。生きていくのが難しくなる。

 はっきり言えば、彼にはリスクしかない。

 例え、ストレスが極限に達し、正常な判断が出来ないまでも殺人までやるかどうか。そして、容疑者として逮捕した時点での彼の精神状態はそれほど、悪くは無かった。むしろ、事件について、何も知らなかったような雰囲気をしていた。

 殺しの手口からして、素手での絞殺を彼が行うか否か。

 答えしては可能性的に低いだろう。

 絞殺はありふれた殺害方法だが、実際にはかなり手間と労力が掛かる。

 力的にはチャイターと被害者では大きな差があり、殺害するには左程の労力は不要だと思うが、貴族であるチャイターなら、腰にある剣を使えば、即座に殺せる。何も素手で殺すなんて考えないだろう。

 無論、可能性として残されている以上、無視は出来ない。偶然、剣が無かった可能性もある。

 確かにチャイターにも犯行は可能だ。

 だが、多くの見方からして、彼が犯行に及ぶ可能性は低い。

 チャイターを考察して思ったことはチャイターを容疑から外した方が捜査が進むという点だ。

 容疑者がすでに3人も存在する。その上で捜査を行える人員には限りがある。

 それに今後、捜査の進展では容疑者が増える可能性もあるわけだ。

 なるべくなら容疑者は絞りたい。

 

 チャイターは一度、容疑から外すべきだと考えた。

 それは先述だけの問題では無い。あまり長く彼を拘束していると、貴族院からあらぬ疑いが掛けられ、彼の貴族としての地位も危ぶまれるからだ。

 もし、無実だとしても、貴族院から処罰を受けてからでは遅い。

 その為に彼の身柄を一度、解放することにした。

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