第2話 見回り

 見回りは騎士と兵の班を幾つか作り、担当地区を分けて行う。

 私の班は兵が3人。

 強面のハンスと禿頭のノートン、赤鼻のモーリス。

 それぞれ、兵になって、3年以上のベテランである。

 とは言え、見習いではあるが、騎士の自分が彼らの上司であり、ましてや領主の息子となれば、彼らが背くはずも無い。

 従順な部下を引き連れ、街中を歩く。

 基本的には経験値から治安の悪い地区が選ばれる。

 まだ、入ったばかりの私は最も治安の良い場所を指定されたはずだ。


 確かに閑静な住宅街。何の犯罪も起きそうになかった。

 それは部下達も解っていて、楽な見回りだと思っているのだろう。

 それでもいつ、犯罪は起こるか解らない。

 刑事の勘が冴える。

 こうした閑静な住宅街で起きやすいのは空き巣だ。

 そして、強盗。

 私は並ぶ家々を丹念に眺める。どこかに異常があれば、犯罪の証拠だ。

 この世界の家々は街中においてはレンガ造りが多い。

 レンガと言っても古典的なレンガで耐久性は低そうだ。故に二階建てぐらいまでしか存在しない。屋根には赤い瓦が敷かれている。

 窓にガラスはあまり存在しない。窓を閉じる為の雨戸があるだけ。

 ガラスは貴重なのだろう。扉も木製の扉が多く、蹴破ろうすれば、容易ではあった。さすがに金持ちや商人の家は扉も金属製のようだ。もしくは扉の前に金属製の格子戸があったりする。錠前もそのような家にしか存在しない。

 庶民の家ならば、留守の時は無施錠なのだろうか。不用心ではあるが、古い家はそうしたもんだろうと理解する。留守番という仕事も存在するわけだし。


 街中を歩く人々を観察する。

 屋敷の中でも勉強をしたが、この世界には人間以外の種族が存在する。

 亜人と呼ばれる者達だ。亜人と言う表現は彼らに対して蔑称なので、面と向かっては使わない方が良い。特に神族やエルフ族には。

 神族とはかつて、この世界を創造したとされる種族。

 伝説なので、本当かどうか疑わしい。だが、彼らもそう自負している。

 神通力と呼ばれる力を使うが、圧倒的な力を持つ余りか、その技術を研鑽しようとせず、今に至るため、魔法よりも使い勝手の悪い力だったりする。

 何にしても偉そうで、人間は自分達の産物だと思っている。

 ただ、数はあまりに少なく、遭遇する機会は少ないので、大抵は放置されている。

 似たような感じなのがエルフ族。

 彼らは神族より数は多いが、大抵、部族単位で固まって生活をしている。精霊との繋がりを強く持つ部族で、街中に住む者は少なく、大抵は森で生活している。

 彼らも強い力を持つ精霊術を研鑽させずに今日に至るため、魔法に比べて、使い勝手の悪い力であった。

 エルフ族は人間から森に引き籠った者と揶揄される程度に他種族との交流を嫌い、未だに古典的な生活風習を保っている。

 やたらと数が多いのがドワーフ族。

 彼らは山の民と呼ばれ、人間から派生したのではと思われる。

 小柄だが、比較的人間に近い身体的特徴であり、事実、人間との混血も多い。

 力が強く、炭鉱や鉱山で採掘を主な仕事とするが、手先が器用でもあり、宝石加工や鍛冶などを行う。彼らは人間と友好的ではあるが、街よりも山で生活をする。

 魔族

 人間が勝手に魔族と呼んでいるが、見た目から来る蔑称であり、彼ら自身は自らを黒曜族と名乗っている。その名の通り、黒い肌に黒髪をしている。目は赤く、牙が鋭い。彼らが使う力こそ、正真正銘の魔法である。彼らは黒龍術と呼ぶが。

 彼らもエルフ族同様、あまり人間とは触れ合わず、一族で生活を営んでいる。彼らに近い存在の人間が魔女である。魔族と人間の混血と呼ばれるが、実態はよくわかっていない。

 魔族は暗黒領を起源としているらしいが、魔族との対話を人間側が絶っていることが多く、魔族に関しての資料が乏しい。


 魔獣と言うより、獣に関する調査・研究はこの世界において乏しい。

 ただし、魔獣と獣は明確に分かれており、獣を狩るのは猟師の仕事だが、魔獣は騎士か冒険者しか手を出してはならない掟となっている。

 魔獣はそれほどに強力な獣である。多くは人間を襲う事としており、生態に関しては一切、知られていない。主に暗黒領から出現するともされており、人間の支配する領土では繁殖などは確認されていない。

 魔獣が何故、人を襲うのかについては諸説ある。

 一般的な説は悪魔に使役され、人間を滅ぼす為。

 だが、個人的には否定的だ。人間を滅ぼす為ならこんな散発的な方法じゃなく、集中投入による虐殺を試みるべきだ。魔獣を徘徊させ、偶発的に人間を襲うなど、とても滅ぼす事を目的としているように思えない。


 そして、精霊。

 先述した種族は人と会話が可能な程に知能が高いため、人間は自らと同列として応対している。しかしながら、知能が低く、会話が成立しない者は同列とはしない。

 その代表格が精霊だ。

 精霊は自然界に多く存在し、生物と言うより、マナの塊のような存在だ。

 因みにマナとは魔法などにも用いるエネルギー体のような物らしい。

 つまり、肉体を構成する多くはエネルギーとなる。仕組みは不明。

 知能は犬や猫並と言ったところか。これらを使役するのが精霊術となるが、実際にはマナを取り出し、力に変換しているのが殆どだ。一部では精霊を操るという術もあり、これは魔法においては魔獣を使役するテイムに近いだろう。

 他にも魔獣の中に居るゴブリンやサイクロプスと言った人型魔獣の類もそうだろう。彼らの知能も猿並で、言語を操る事は少ない。唯一例外はドラゴンだろうか。

 ドラゴンは魔獣ではあるが、知能が高く、感応波と呼ばれる方法で脳に直接、言葉を語り掛けてくる。これはドラゴンには声帯が無いからだと推測される。


 色々と探ってはいるが、物理法則などに大きな違いは存在しない。

 魔法で火を作るが、火自体は、マナをエネルギーとして、燃えているだけで、ただの火である。水も同じだ。マナを用いて、空気中から水分を抽出して、出しているだけ。なので、まったく何も無い所から何かを生み出しているわけでは無い。

 あくまでもマナというエネルギーを用いて、色々な作用を再現させているのが魔法だ。その為、術式など、必要な手法を再現すれば、誰にでも同様の魔法が使える。

 よくゲームなどで、個人の魔法力とか言っているが、この世界では個人差はあくまでも知識や経験の差程度であるみたいだ。


 見回りの中で商店や工房を訪れる事が多い。

 商売をやっていれば、強盗や窃盗に遭う可能性も高いからだ。

 この世界の貨幣は主に金、銀、銅、鉄の四種類の金属硬貨を用いる。

 金はアラン。銀はディナ。銅はドルフ。鉄はアマル。

 アマルは最低価値の硬貨。5枚で朝食が食べられる程度。

 アマル10枚でドルフ1枚。

 ドルフ10枚でディナ1枚。

 ディナ10枚でアラン1枚。

 これが一般的な貨幣だ。紙幣は流通していない。紙はまだ貴重な上に印刷技術が未熟である。

 一般的に流通はしていないが、アラン10枚で大アラン1枚もある。これ以上になると金塊での取引となる。

 銀行はまだ、存在しないが、為替業がある。

 彼らは諸外国の硬貨と自国の硬貨を交換してくれる。すでに為替相場が存在する。

 これ以外に金貸しが存在し、すでに手形がある。

 為替業にしても金貸しにしても業種ギルドが存在する。

 信用が大事とされる業種な為、国も関与しての認可制であった。

 

 王国の平均の月額所得は15ディナである。

 騎士の平均は25ディナ。

 10ディナがあれば、最低限の部屋と3食が食べられるとされる。

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