異世界探偵

三八式物書機

第1話 異世界へ

 警視庁刑事部捜査一課の刑事、片山和孝はとある殺人事件の捜査を行っていた。

 半グレが関係しているとされる事件で、ミステリーと呼べるほどの深い事件では無い。容疑者もあっさりと判明して、あとは探し出して逮捕するだけであった。

 だが、片山はこの時点で相手を侮っていた。

 半グレと言えども、犯罪者集団。

 追い詰められたら、何をするか解らない。

 そして、片山達はすでに彼らを追い詰めていた。

 とある雑居ビルの三階に片山は上がった。そこには潰れたスナックがある。

 インターフォンが無いので、扉を叩く。

 無論、刑事は普段、拳銃を装備しない。

 そして、相手を侮っていた片山は防弾ベストも着用して無かった。

 武装は腰のホルダーに入れた特殊警棒程度。

 そこに奴らは隠れているはずだった。

 逮捕令状を出ている。あと少しだった。

 返事が無ければ、不動産屋で借りてきた鍵で開けるつもりだった。

 突如、室内から銃声が鳴り響いた。

 扉の前に不用意に立っていた片山の腹を熱い何かが通り過ぎた。

 撃たれた。

 そう解った時には片山の意識は薄らいでいた。


 時間が経った。

 どれだけ眠っただろうか。

 意識があるって事は生きているって事だ。

 目を覚ます。

 見慣れない天井だ。病院だろうか?

 身体が動かない。麻酔のせいか?

 まともに声も出せない。

 どういう状態なんだろうか?

 撃たれたのだから、重傷、否、重体だったのか。

 何にしても意識が戻ったのなら、助かったとも言える。

 誰かが来た。医師か看護師だろうか。

 金髪碧眼の美女だ。

 彼女は俺を覗き込み、何かを言っている。

 今一つ、理解が不可能な言語だ。英語とも違う。

 恰好からして、看護師とも違う。この女は何者なんだ?

 気付けば、女に抱き上げられた。

 抱き上げられただと?

 俺の体はどうなっているんだ?

 女はまるで母親のように俺をあやす。

 俺はまるで赤ん坊のようだ。

 そして、彼女は乳を晒した。そして、俺を乳首に近付けさせる。

 母乳だ。それを俺に飲めと言うのか?

 赤ん坊じゃないか。

 そう思ったが、体は正直で、その乳首に吸い付いてしまった。

 そして、母乳が喉へと流し込まれる。


 俺は赤ん坊だった。

 金髪碧眼の美女は母親である。

 そして、茶髪で渋い感じの若者が父親だ。

 言葉は相変わらず解らない。だが、徐々に理解はされてゆく。

 挨拶程度なら解るようになってきた。

 赤ん坊の時期は思ったよりも短い。やがて、ハイハイをして、立ち上がり、歩き始めた。そして、7年の月日が経った。

 言葉を習得した。話す事なら問題は無い。書くのは勉強を始めた。

 俺はこの世界を知る為に家族やメイドなどと話した。

 解った事はここが日本、または地球では無い事。

 俗に言う異世界と呼ばれる場所だ。

 夢なら良かったが、さすがにこんなに長い夢は存在しない。

 非科学的だが、自分の身に起こった事だ。飲み込むしかない。

 私のこの世界での名前はアーミア=フォレスタ=ゼフィー。

 ゼフィー家の三男。

 ゼフィー家はガルスト王国の伯爵家である。

 王国の北部にあるライスト領を任されている。

 王国ではそれなりの地位にあり、王からの信頼も厚い。

 基本的に長男が伯爵家を継ぐため、それ以降の兄弟は騎士となるのが習わしだ。

 つまり、三男坊の俺は将来的には騎士となり家を出る事になる。

 騎士とは簡単に言えば、軍人である。

 この国は常備軍と呼ばれる軍隊は存在しない。

 常に置かれているは騎士の階級を持つ者で構成された騎士団。

 戦争の時は一般市民から兵を徴兵する。

 騎士団は軍隊のみならず、警察の能力も併せ持つ。

 騎士団は騎士で主に構成されるが、数量的に不足するので、一般市民からも兵を募集する。これと同様に各地の領主も自らの騎士団を持つ。それらで周辺の領地の防衛と治安を確保しているわけだ。

 通常、次男が王国騎士団に仕えて、三男以下が自国の領土の騎士団に仕えるのがお決まりの流れであった。

 時代的には西洋ならば、ルネサンス時代や大航海時代と言った感じだろうか。

 技術的にも剣や弓が主だった武器だが、前装式銃や大砲もある。

 だが、一番の相違点は魔法だろう。

 かつては悪魔の力と言われた忌まわしき力だったそうだが、神通力や精霊術などよりも発展したため、現在では魔法が一般的な技能として、広まっているそうだ。ただし、ここでの問題は神通力も精霊術も発祥が違うだけで、実は同じだと言う点である。神や悪魔や精霊などは人間の勝手な使い分けに過ぎなかったという。

 魔法は便利に使われている。

 無論、何の知識無しではまったく使えない。

 極論から言えば、コンピューターに近い存在だろうか。

 プログラマーがプログラミングしないと、動かない。魔法もそんな感じで、適切な魔法陣や呪文、儀式を行わないと、発動しないそうだ。

 それらを適切に行えば、何も無い所からあらゆる物を産み出せるし、様々な不可思議な作用を発生させられる。

 故に魔法の研究や人材育成は国家プロジェクトとなっている。

 因みに魔法使いと一括りするが、実は専門に合わせて、魔術師、魔導士、錬金術師とあり、更に流派に合わせて、別称もあったりする。

 国家が認定する物と各領地で独自に認定する物ともあり、更には職業ギルド毎の認定もあったりする。

 そんなわけで魔法は重宝されており、故に科学の発展が阻害されている点は否めない。

 

 12歳になり、剣の授与がされる。

 これは成人の儀であり、これ以降は大人として扱われる。

 領主から与えられた剣は騎士として認める物だ。

 家から出る事は無いが、今後は騎士団の一員として、活動する事になる。

 騎士団の一日は早い。

 騎士と言うからには当然、馬に跨る必要がある。

 無論、幼少期から乗馬の訓練は受けているので、問題は無い。

 ただし、それまで従者がやっていた馬の世話を騎士見習いの間は自分で行う必要がある。

 日が上がる前に騎士団の厩舎へと向かい、馬の世話を始める。

 騎士団全ての馬の世話を同世代の見習い達や従者で行う。

 なかなかの重労働であった。

 それから、先輩の騎士達もやって来て、訓練が始まる。

 大抵は剣や槍の訓練だ。

 銃や弓も使うが、訓練場が左程、広くないのと指導者不足で各々に任されている。地方の騎士団はその程度が関の山だった。

 午後からは見回りである。

 先輩の騎士達は馬で街道の見回り、まだ、乗馬を許されない見習いは徒歩で街中の見回りを行う。

 街道の見回りは危険が多い。山賊、盗賊はどれだけ潰してもタケノコのように次々と現れる。だから、街道の見回りは徹底される。治安が悪ければ、行商や旅人は訪れなくなる。それは領土の繁栄が損なわれるからだ。

 むしろ、街中は左程、危険性は少ない。

 それでも悪い奴らはどこにでも居る。

 騎士団見習いでも彼らを逮捕しなくてはならない。

 因みにこの世界に裁判所は存在しない。

 裁くのは騎士団となる。場合によっては騎士団見習いでもその場で裁いても構わない。悪い奴なら、その場で死刑しても構わないと言うわけである。

 

 ライスト領は概ね愛知県程度の広さはある。その為、各地にある中規模都市を中心に更に領地が細分化されている。そこにはゼフィー家から信任された領主が存在する。大抵は騎士の身分の者であり、ゼフィー家の親族である事が多い。

 私が所属するのはライスト領の領都となるドンマルク市にあるドンマルク騎士団である。騎士団の規模は騎士が35名。兵が300名余り。

 たったこれだけの戦力で10万人都市とその周辺、名古屋市ぐらいの広さをカバーしているのだ。いくら、都市と町村の間が田園か森林、草原しか無いとは言え、手薄になるのは仕方が無い。

 その為、冒険者ギルドと呼ばれる物が存在する。

 冒険者とは、本来、未開の地を開拓する者であったが、現在は何でも屋的な職業となっていた。彼らは傭兵的な側面を持ち、商人の護衛なども務める。

 因みに未開の地とは現在も存在しており、暗黒領と呼ばれる場所の事だ。

 魔獣と呼ばれる獣が存在し、普通の獣とは違い、魔法を操り、人々を襲う。

 それらを駆除するのも冒険者の仕事であった。

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