俗にいう、出会いは最悪ってやつだ

@LUXION2211

Ep.1 俗に言う、出会いは最悪ってやつだ

皆さんは壁と言ったら何を思い浮かべるだろうか。我々人類の歴史と壁の存在は切っても切り離せないものである。


「でもって、1989年にベルリンの壁が崩壊した。ここテスト出やすいから書いとけよ〜」


歴史の先生がそう呟くのを尻目に何気なしに窓の外を見るとそこにも「壁」が存在している。校舎の境目には3階相当の「壁」グラウンドには一面茶色の砂で覆われている中で中心部にコンクリート製の「線」が引かれている。


「韓国はアメリカ軍、北朝鮮はソ連軍の支援を受けて今の38度線で朝鮮半島は南北に分割されてしまった」


まるで今のうちの高校みたいだ。今は7限の歴史の時間。小テストを次回に控えて教師がこれまでの振り返りをしている。


教科書にはドイツや朝鮮半島の分断の歴史が書かれており、どれも分断は良くないとのニュアンスで書かれているが、うちの高校でそう教えた所で現在進行形で分断しているのだから誰も真っ直ぐ受け止めないだろう。


「お前ら、次回は小テストだからノート見返しとけよ〜」


チャイムと同時に生徒のため息混じりの声が教室に響く。しかし7限でこの後は放課後ということもあり一部の生徒は忙しなさそうにカバンに荷物を詰め始める。


「会長、今日このあと時間ある?」


「悪い。この後北の連中と体育祭の事で会議があるんだ」


会長とは俺のあだ名。生徒会長なので会長と呼ばれている。名前は上宮翔太郎なのだが体感7割は会長呼びだ。


「北の連中、仏頂面で怖ぇんだよなぁ。この前駅前のカラオケ行った時にたまたま北の連中と鉢合わせたけどめっちゃ睨まれて避けられた」


北とは隣接する鳥取北高校の事だ。こっちの南高校が男子校なのに対して向こうは女子校。今時珍しいだろう。


「まあ和希なら仕方がない。The男子校のヤバいやつみたいな見た目だし」


「お前の父ちゃんの高校の生徒をそんな風に呼ぶな」


父ちゃんの高校というのは、この高校の運営元が俺の父の経営する会社「上宮グループ」であるのでそう言われている。


部活に行こうとしていた生徒から突然


「会長、いい加減教室にドリンクバー置いてくれよ。学費払ってるんだし」


と言われた。因みに2日に1回は教室にドリンクバーを置けなどの”お客様からのご意見”を頂戴する。難しい立場だが特別扱いは無くクラスでは普通の友達としてみんな扱ってくれいてる。


「気が向いたらね」


そう適当にあしらって急足で教室を後にする。


1階の職員室近くにある木製の扉。表札には「北高校連絡会議室」と書かれている。両校が会議するときに使用される場所だ。壁で校舎は区切られているけどグラウンド然り一応繋がっているのだ。


「翔太郎、遅いぞ。また小言言われたらどうするんだ」


どうやら先に渚が来ていたようだ。コイツは俺の同級生で半分騙して生徒会に入部させられた可哀想な野郎だ。しかし今では書記としての職務を全うしている。


「わり。今日は俺らだけだったよな」


「おう。じゃあ行くか」


そうして顧問の先生より預かっていた会議室の鍵を差し込んでドアの部を回す。ここの扉、普段滅多に開けれないから劣化が早く開ける時若干重たいので体重を掛けてこじ開ける。


「今回も遅かったですね」


ドアを開けると早速小言が飛んできた。部屋にはまだ誰も居ないだろうと思い込んでいたのでドアに体重を掛けた体制を改めながら


「久しぶりだな」


と若干格好付けながら挨拶をする。なんとなくここの会議室に入ると厨二っぽくなっちゃうのだ。


「まあいいわ。座って」


主導権を相手に握られた状態での会議になりそうだ。向こうの生徒会も今回の参加は2年生2人。華の17歳の男女が密室に集まったと思えない空気感で会議が始まる。


「早速だけど、体育祭準備におけるグラウンド使用の制限と当日の運営について話したくて集まってもらいました」


開口一番堅苦しい言葉を並べるのは北高の生徒会長国崎莉々菜だ。確か向こうの高校もこっちと同じように国崎家が出資している私立高校だ。この北高と南高は設立年度など類似点が多いのにどうしてか敵対しあっている。


「会長、資料配るの忘れてますよ」


喋り出した会長を静止して資料を渡してきたのは向こうの生徒会の紗理奈だ。会長は手順を飛ばして喋っていたらしくて若干顔を赤めながら配られた資料を片手に説明を再開した。


高校生らしからぬ事務的且つ形式的な会議と呼んで良いのか分からない謎の時間は20分ほどで終わった。


「質問が無ければ本日は解散とします」


「ねぇよ。じゃ、また」


そう言って俺たちは席を立つ。


そして顧問の先生に鍵を返しながら会議の顛末を説明してから少し早いが帰路に着くことにした。


「渚はどーする?」


「俺は部活行ってから帰るわ」


「偶にはサボれば良いのに」


「大会近いんだよ。じゃーまた」


そう言って下駄箱で俺たちは解散した。今日もなんて事ない普通の1日であったと振り返りながら、生徒会室の備品を買う為に駅の方に向かって歩き出した。


イヤホンをして自分の世界に浸りながら歩くこの瞬間が堪らなく好きだ。まるで自分が映画の主人公になったような妄想を垂れ流しながら歩いていると気が付けば駅前まで来ていた。駅前には別の共学の高校の制服を着たカップルが何組も歩いている。うちの高校で付き合ってる男女なんて見る機会が無いので、制服デートしている姿を物珍しく感じてしまう。


結局北高に通ってる生徒も、南高に通ってる生徒も普通の共学の高校に通ってたらこうやって付き合ったりしてるんだろうなと、不意にそう感じた。


一応校則で恋愛が禁止されているわけでもないし、友達にも数人他校の女子と付き合っている奴もいる。ただ、あんなに近い場所にある北高の生徒とこうやって笑い合うことが無いのをなんだか悲しく感じてしまうのだ。


アニメなんかでは仲の悪い男女が「出会いは最悪だった」と言いながら共に困難を乗り越えて付き合う展開が王道だ。もちろん作り話だが、王道の展開と言うことは世間的にはそれが羨ましいという事なのだろう。


そんなことを考えていると自分の恋愛妄想のヒロインが国崎莉々菜だと言うことに気がつく。


アイツ、めっちゃ冷たいし個人的に話したことはないのだが容姿だけは整っているのだ。思春期高校生として本来なら友達にでもなりたいのだがそれすらも叶わないとは現実は厳しいらしい。


ただもし付き合うことがあるのなら、それこそ俗に言う、出会いは最悪」ってやつだ。

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