第五話: 町の小さな薬草屋
収穫祭が終わった次の日、フィオは村の中心部を歩いていると、一軒の小さな家が目に入った。外観は素朴で、古びた木の看板が風に揺れている。看板には「薬草屋 エルムの癒し」と書かれている。フィオは興味深そうに立ち止まり、店の前に並んでいる色とりどりの薬草や乾燥花束を眺めた。都会では見かけない、どこか懐かしさを感じさせる風景だ。
「こんにちは、どうしたの?」
突然、店のドアが開き、中から年配の女性が顔を出した。彼女の顔には深いしわが刻まれており、その眼差しはとても優しげだった。「あ、こんにちは!ちょっと見ていただけませんか?」フィオは少し照れながら答えた。
「もちろんよ。」女性は微笑んでフィオを店の中へと招き入れた。店内には、棚に並べられた薬草の瓶や袋が所狭しと並んでいる。フィオはその香りに包まれながら、棚を一つ一つ見て回った。「これは、たぶんこの前採った野草の一部かな?」彼女は目を輝かせていくつかの瓶を手に取った。
「それはおそらく、『癒し草』だね。」店主が指さした瓶に書かれたラベルを見て、フィオは驚いた。自分が前日に摘んだ草と同じ名前が書かれていたのだ。
「ほんとに!私が昨日摘んだ草と一緒ですね。」フィオが嬉しそうに言うと、店主は穏やかに笑った。「この草は、軽い風邪や疲れを癒す力があるのよ。エルム村ではよく使われる薬草で、私もこの店で使っているの。」
フィオは興味津々でさらに質問を続けた。「こんな風に、薬草を使って暮らしの中で役立てているんですね。」
「そうよ。」店主はゆっくりと話しながら、フィオに向かって座るように勧めた。「薬草はただの薬としてだけでなく、私たちの生活の中で大切な役割を持っているの。例えば、料理に使うことで味を豊かにしたり、心を落ち着ける効果があるハーブティーを作ったり。」
「なるほど、そうなんですね。」フィオは感心しながらうなずいた。都会では薬草に触れることはほとんどなかったが、ここでは身近に感じることができる。それが少しだけ、フィオにとって新しい世界が開けたように思えた。
「フィオさん、よかったら少し手伝ってみる?」店主が微笑みながら声をかけてきた。「簡単な作業だけど、手を動かすことで覚えられるわよ。」
「はい、ぜひ!」フィオは即答した。薬草屋の仕事に興味津々だったし、村の生活にさらに溶け込むための一歩になると思ったからだ。
店主はフィオに薬草の選び方や乾燥させ方を教えながら、一緒に作業を進めた。時折、村人たちが店に訪れ、フィオと店主が笑顔で応対する様子に、フィオは自分の居場所が少しずつできてきたことを感じていた。
その日、薬草屋を後にするころには、フィオの心には満たされた気持ちが広がっていた。エルム村の優しい人々と自然の恵みの中で、彼女の新しい生活は確実に根を張り始めていた。
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