3

○自室・寝室・朝

  T・1週間後

  ベッドで眠っている美咲。物音で目を覚まし、飛び起きてリビングに行く。


美咲「ん……。ゆう、と? 優人!」


○同・リビング・同

  戸棚がいくつか開いているが誰もいない。


美咲「荷物取りに来たなら一言ぐらい何か言えばいいのに。ウザ」


  美咲、コーヒーを淹れにキッチンへ行く。


○同・キッチン・同

  美咲、キッチンの天板にある優人のスマホを見つける。


美咲「これ優人の」

  

  美咲、スマホを手に取りロックを解除する。


美咲「記念日。ロック変えてないんだ」

  

  トップ画面にはマッチングアプリのアイコンがある。


美咲「嘘でしょ。これ、マッチングアプリ」

  

  美咲、検索履歴を調べる。


美咲「『ヒス彼女 なだめかた』『マッチングアプリ おすすめ』『婚約 断り方』 何これ」


  震える美咲。

  優人、美咲の後ろに立つ。


優人「美咲」

美咲「優人! 何これ⁉ 勝手に出て行って浮気してたの⁉」

優人「……もう無理だった」

美咲「は?」

優人「もう無理なんだよ」

美咲「無理って何? ちゃんと言いなよ」

優人「美咲にとって俺は何なの?」

美咲「何って恋人だよ」

優人「俺って言うな、僕にしろ! 呼び捨てじゃなくてちゃん付にしろ!

髪型はこう! 服はこれ! 私の言う通りにしろ!

それが恋人へのセリフなの? ……もう無理だよ。疲れた」

美咲「何が悪いの? ファンが喜んで収入も増えてWin‐Winでしょ」

優人「俺は、そんなこと望んでない。美咲だけに求められれば充分だった。

俺を好きでいてくれる優しい美咲が良かった。

取れ高のためにわざと怒鳴ったり」


  優人、美咲の髪を触れようとするも避けられる。


優人「ほら、触れることもできない。その辺にいるカップルが暇つぶしで日常を提供してるだけのはずだったよね。俺たち一般人なんだから」

美咲「一般人? 私たちにどれだけ価値があると思ってるの?」


  美咲、鏡台を指差す。


美咲「あのリップだって化粧水だって、企業案件。私たちは求められてるの! 普通じゃないんだよ。ただの美咲と優人じゃない。ミサユウなの!」

優人「ただの恋人の方が幸せだった」

美咲「ふざけるなよ! 今更、被害者ぶってさあ! ただの裏切りでしょ、浮気したことを正当化したいだけのクズ男!」

優人「……やっぱりもう無理だよ」


  優人、玄関へ行く。


〇同・玄関・同

美咲「待って!」


  美咲、優人を追いかける。

  優人、飾ってある登録者百万人記念トロフィーを手に持つ。


美咲「何する気? やめて。つまんない」

優人「もう無理なんだ。僕だって優しくされたかった! 美咲の言いなりになるだけのスパダリはもういない」


  優人、トロフィーを床に落とす。


美咲「きゃあ!」


  美咲、跪き必死に欠片を集める。

  優人、スマホを手にドアへ向かう。


美咲「酷い……。私の優人はこんなことしない。私に優しくない優人は優人じゃない。完璧な恋人以外いらない!」


  美咲、優人の足首を掴む。

  優人、倒れて頭を打つ。


美咲「……優人? ねえ、優人」


  美咲、優人を揺らすも目を覚まさない。床に優人の血が流れていく。


美咲「どうしよう。救急車……でもどうしよう、私」


  崩れ落ちる美咲。横たわる優人の隣で膝を抱える。

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