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○自室・リビング


  美咲、鏡台でメイクをしている。

  優人、動画配信の準備をしている。


美咲「ねえ、優人。最近、再生回数減ってるんだけど。投げ銭も少ないからヤバいよ」

優人「うん」

美咲「うんじゃなくて。何か考えて」

優人「そうだな。何かやりたいこととかある?」

美咲「うーん。私たちもうアラサーだから、見ている人の歳も動画始めた頃より上がってると思うんだ」

優人「そうだね」

美咲「だからテーマ変更しようよ」

優人「カップルの日常って良いと思うけど」

美咲「婚約者の日常! 来月は記念日だからちょうど良いし」


  優人、セリフを遮るように機材を倒す。


美咲「ちょっと! それ高いのに‼」

優人「ごめん。手が滑った」

 

  優人の左手から血が滲む。

  美咲、怪我を一瞥してメイクに戻る。

  優人、リビングから出る。


○同・スタジオ・夜


  生配信中の美咲・優人。優人の手には包帯が巻かれている。


美咲「でも優人、その男に言い返さなくて」

優人「美咲ちゃんがかなり怒った後だったから、それ以上は可哀そうで」

美咲「え? 私、悪くないでしょ」

コメント「でた。美咲の『悪くないでしょ』」

美咲「えー。悪口書かれたんだけど。優人が私を守ってくれなかったって話なのに」

優人「ごめんね」

コメント「あれ? ケガしてる?」


  優人、コメントに気づく。左手をカメラの前に出す。


優人「怪我? うん。ちょっと切った」

コメント「美咲が手あげたな」

コメント「ヤられたに一票」

優人「違うよ。僕の不注意。機材を倒して切っただけ」

美咲「超高いやつだからヒヤヒヤしたわ」

コメント「心配してやれよ」

コメント「包帯くらい巻いてあげて!」

美咲「うわ。何でこの流れで私が悪くなるの?」

優人「僕が不器用なだけだから心配しないで」

コメント「◎お見舞い代:\10,000」

優人「お見舞い? ええ、ありがとう」

美咲「アンチ共! 心配するならお見舞い代払えよ!」

優人「美咲ちゃん」


  美咲、無視する。


優人「みんなお見舞い代なんて大丈夫だよ。病院行くほどの怪我でもないし」

美咲「……本当、分かってない。気分悪いので、今日の配信はここまでね」

優人「え、もう? えっと、すみません」


  生配信が切れる。


優人「美咲ちゃん! さすがに今のは」

美咲「優人が悪い! 包帯巻けないなら言いなよ。被害者面するから私が悪者になった! 折角のチャンスだったのに」

優人「チャンス?」

美咲「お見舞いのこと! 収益減ったって話したよね」

優人「でもそんなに大きな怪我じゃないよ」

美咲「誰が真面目に病院代にすんのよ。機材とか企画の費用!」

優人「でも嘘は良くないよ」

美咲「これはビジネスだから」

優人「もう充分じゃない?」

美咲「全然。何、私に文句言うの? この生活ができてるのだって私のおかげでしょ! 優人は私の言うこと聞いてればいいの!」

優人「ねえ。落ち着いて。頭冷やそう」

美咲「は? 冷やすのはそっちでしょ」

優人「……分かった。おやすみ」


  優人、スタジオを出る。

  スタジオに取り残される美咲。

  優人、家を出る。


美咲「なに、あの態度!」


  美咲、手元にあったぬいぐるみをドアに投げつけて、崩れ込む。


美咲「完璧な恋人のくせに。……バカ」

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