金持ちになりたい
40歳のA氏は、いわゆるホームレスだった。公園で寝ていて、起きるのは午前11時ぐらいで、日中はスーパーを10軒程度まわり試食コーナーで食事をとっていた。食事を終えると図書館に入って冷水機で水筒の中をぱんぱんにして、閉館時間の午後8時まで適当に選んだ本を読んでいた。
夜は適当に道をぶらぶらとして、時間をつぶしていた。
ある、蒸し暑い夏の日、A氏はいつものように夜道を歩いていると、妖精に出会った。
「こんばんわ、美しい静かな夜ですね」
「はぁ、あなたは?」
A氏は宙に浮いている小人を見つめた。
「私は妖精です」
妖精はアリよりちょっと大きいぐらいの大きさだった。
A氏はその時なにか良い事を思いついたらしく、その妖精をつまんだ。妖精はうっとうなり、苦しそうだった。
「何をするのです?!」
「妖精ならなんでも願い叶えられるんだろうな」
「そうですけど……なんかいやだな、あなたには」
「うるせぇ! 俺は金に困ってるんだ。金持ちにしろ!」
妖精は、いやそうな顔をした。A氏は妖精をつまむ力を強めた。
「いたい! わかりました! 叶えてあげますよ」
妖精はA氏の頭の周りを数回、回った。それから、妖精は姿を消した。
「ほんとに叶うんだろうな」
そうつぶやいて、A氏はいつも寝ている公園の滑り台で床についた。
次の日
「社長、起きてください」
目覚めると、目の前に知らない男がいた。公園で寝ていると、よくある事だ。
「何用だ」
「社長、なにねぼけているんですか。まさかとは思いますが、ここで寝ていたのではないでしょうね?」
A氏はバカだ。そんなバカなA氏でも、昨日の妖精への願いが叶った事ぐらいはわかった。
自分の身なりを見てみると、綺麗なスーツ、金ピカの腕時計、革靴といかにもお金持ちの3点セットがそろっていた。ポケットには財布が入っていて中には50万相当の札束が入っていた。1つ1つ数えたわけではないが、札の厚さが物語っていた。
A氏は男に話を色々と聞いた。A氏はお酒を製造している会社の社長になっていた。
それからA氏は男についていって、会社の場所を知った。白かった。けっこうでかかった。
A氏はそのまま会社の中に入り、エレベーターに乗り最上階、11階のでっかい部屋に入った。
「なんだこれは……」
デスクの上には社長の仕事であろう、資料が山のように積まれていた。1番上にある紙を取って見てみた。
A氏はバカだ。何を書いてあるのか、また何をすれば良いのかまったくと言っていいほど分からなかった。
でも、そんなバカなA氏でも、この会社は数日のうちにつぶれて、自分が多額の借金を負うことになるのはわかった。
酒のつまみになるアホんなショートショート集! 春本 快楓 @Kaikai-novel
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